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子どものアトピー性皮膚炎のかゆみ 服選びのポイントは?

公開日

2019年07月01日

更新日

2019年07月01日

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2019年07月01日

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東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター 小児科 助教

堀向 健太 先生

アトピー性皮膚炎(以下、アトピー)は、「掻痒(そうよう)」が疾患定義にも含まれているように、かゆみに悩まされる疾患です。

アトピーは軽い刺激でも強くかゆみを感じる「アロネーシス(alloknesis)」や、強いかゆみ刺激はさらにかゆくなるという「ハイパーネーシス(hyperknesis)」という現象があり、かゆみが睡眠障害を招いたり(1)、患児や家族の生活の質を大きく低下させたりしてしまう(2)のです。つらいかゆみが起こりにくくなるよう、工夫できることはあるでしょうか。また、かゆみが起こった時にはどう対処すればいいでしょう。

何とかしてかゆみを和らげてあげたい

かゆみ対策としてよく、年齢を問わず患者さんや保護者に尋ねられることがあります。

例えば、

「とりあえずその場でできることはないですか?」

「綿の服でないといけませんか?」

といった質問です。

結論としては、皮膚の状態を改善させるための薬物療法やスキンケアを根気よく続けることが、子どものアトピーのかゆみに対しては最も重要なのです。とはいえ、このような質問をする方の多くは、そうしたことを承知の上で、加えてできることはないかを探しています。そこで、その問いに対する答えとして、最近の報告をまとめてみたいと思います。

かく子ども

狭い範囲のかゆみは冷やして緩和

入浴や入眠時は、体があたたまるためにかゆみが強くなることが多くなります。その際のかゆみは、神経を刺激するアラーミンという物質や、特別な神経繊維が関係するという報告(3)があります。この特別な神経線維は冷却やメントールなどの刺激によって、かゆみを和らげるという研究結果が公表されています(4)。

そのようなわけで私は、かゆみが狭い範囲にとどまっている場合には、アトピーの炎症によく使われるステロイド外用薬やタクロリムス外用薬をその場所に塗って冷却するよう指導しています。すると、十分冷やしたあとにはかなりかゆみがおさまり、かき壊すことが少なくなります。

衣類の素材でかゆみは変わる?

衣服は肌と接触するため、合わないと常時かゆみを引き起こす刺激になってしまいます。では、素材によって違いはあるのでしょうか。推奨される素材としては一般に「綿、絹」が、避けるべき素材としては「羊毛、化学繊維(化繊)」が、それぞれ挙げられることが多いようです。これらの素材がそれぞれ、アトピーを改善させたり悪化させたりするのか、検証を試みた論文があります。

服を着るこども

綿

まずは綿です。「綿の服が良い」という指導がこれまで良くなされていましたが、実は十分な根拠には乏しい状況でした。例えば、アトピーの症状悪化と衣類の素材について研究した論文の1つは、総論で「綿は、こすれる動きに対して過敏な皮膚を刺激することがある」とすら述べています(5)。

羊毛

羊毛は「刺激が多く避けるべき素材」と考えられてきました。

しかし例えば、生後4週~3歳のアトピー患児39人をランダムに2群に分け、極細にした羊毛製の服、綿製の服を6週間ごとに切り替えて着用して比較したという報告があります(6)。

その結果、極細にして刺激を軽減した羊毛のほうが、アトピーが改善したとされています。羊毛でも肌触りを改善させると、アトピーの症状にはいい結果を及ぼすのかもしれません。

海外のアトピーのガイドラインで言及されている、皮膚への刺激が少ないと考えられてきた絹服はどうでしょう。300人を標準的なケアのみの群と、標準的なケアに加えて絹製の衣服を着用する群にランダムに分けて比較した試験では、6カ月間のアトピーの改善には差がないという結果が得られています(7)。

化繊

では、化繊に関してはどうでしょう。化繊は肌を刺激するので着用しない方がいいとよく考えられています。

化繊であるエチレンビニルアルコール製と綿の下着を使い、21人のアトピーの子どもをランダムに2群(化繊群11人、対照群10人)に分け4週間着用してもらうという比較試験を実施した報告があります(8)。

すると、化繊のほうがアトピーの改善度が良かったという結果でした。

銀コーティング

銀でコーティングした繊維製の素材も、一部で勧められています(9)。アトピーがあると、皮膚で黄色ブドウ球菌や真菌が増殖して炎症を引き起こすなどすることがあります。銀は抗菌作用があるためにアトピーに有効かもしれないと考えられていたのです。上記の報告では、銀コーティングは確かに表皮の菌に対する殺菌作用があったようです。ところが、銀コーティングをした繊維を洗濯したあとに電子顕微鏡で確認すると、多くの素材で銀コーティングは損なわれていたので、そのような製品はアトピー患者には勧められないとする報告もあります(10)。

素材よりも肌触りが大切

綿、羊毛、絹、化繊、銀コーティングと見てきました。

これらの結果からは、「綿がよくて羊毛はだめ」などと一概には言えないようです。

そして、銀のコーティングも長持ちしないという結果もあり、過信はできないようですし、海外でよく言われる「絹がいい」という説も大規模な臨床研究で有効性が否定されています。

最終的には柔らかい衣服で、ごわごわした素材やタイトなデザインを避けるべきだというガイドライン通りの指示に落ち着くと言えるでしょう。私は、「素材にこだわらず、肌触りが良いことを推奨する」という結論にまとめてよいのではと考えています。

 

  ◇  ◇  ◇

 

1) Fishbein AB, et al. Sleep disturbance in children with moderate/severe atopic dermatitis: A case-control study. J Am Acad Dermatol 2018; 78:336-41.

2) Silverberg JI, Paller AS. Association between eczema and stature in 9 US population-based studies. JAMA dermatology 2015; 151(4): 401-9.

3) Murota H, et al. Artemin causes hypersensitivity to warm sensation, mimicking warmth-provoked pruritus in atopic dermatitis. Journal of Allergy and Clinical Immunology 2012; 130:671-82. e4.

4) Kardon AP, et al. Dynorphin acts as a neuromodulator to inhibit itch in the dorsal horn of the spinal cord. Neuron 2014; 82:573-86.

5) Mason R. Fabrics for atopic dermatitis. J Fam Health Care 2008; 18:63-5.

6)Su JC, et al. Determining Effects of Superfine Sheep wool in INfantile Eczema (DESSINE): a randomized paediatric crossover study. Br J Dermatol 2017; 177:125-33.

7)Thomas KS, et al. Randomised controlled trial of silk therapeutic garments for the management of atopic eczema in children: the CLOTHES trial. Health Technol Assess 2017; 21:1-260.

8) Yokoyama Y, et al. Ethylene vinyl alcohol (EVOH) fiber compared to cotton underwear in the treatment of childhood atopic dermatitis: a double-blind randomized study. Indian Pediatr 2009; 46:611-4.

9) Fluhr JW, et al. Silver-loaded seaweed-based cellulosic fiber improves epidermal skin physiology in atopic dermatitis: safety assessment, mode of action and controlled, randomized single-blinded exploratory in vivo study. Exp Dermatol 2010; 19:e9-15.

10) Srour J,et al. Evaluation of antimicrobial textiles for atopic dermatitis. J Eur Acad Dermatol Venereol 2019; 33:384-90.

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東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター 小児科 助教

堀向 健太 先生

2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防に関する介入研究を発表。Yahoo!個人オーサー(2020年MVA受賞)。2016年、ブログ「小児アレルギー科医の備忘録」を開設し、これまで1200本以上の論文を紹介。医学雑誌で年間20本程度、さらに複数の医療サイトで年間30本程度の医学関連記事を執筆。Twitterでのフォロワー7.5万人。Instagramのフォロワー1.9万人。