概要
小児アトピー性皮膚炎は、強いかゆみを伴う湿疹が生じて、改善と悪化を繰り返す皮膚の病気です。乳幼児期に発症しやすく、皮膚のバリア機能低下やアレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)などが関与していると考えられています。2026年時点ではアトピー性皮膚炎を完治させる治療法はありませんが、薬物療法やスキンケア、悪化要因の回避を行うことで症状のコントロールを目指します。
一般的には発症年齢に応じて症状の現れる部位が異なり、たとえば乳児期発症の場合は顔・頭、幼児期の場合は首・手足から、左右対称(左右同じような場所)に症状が現れやすい特徴があります。また、年齢に伴って症状は落ち着く傾向にあり、適切な治療を行えば小児期までに多くの場合は症状が治まる(寛解)といわれています。しかし、再発を繰り返して成人後も症状が続くこともあります。子どもの肌の状態に不安を感じたら、早めに医師に相談し、治療を始めることが大切です。
原因
小児アトピー性皮膚炎を発症する背景には、皮膚のバリア機能の低下とアレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)が関係していると考えられています。これらに、外部からの異物や刺激などのさまざまな要因が加わることで発症や症状の悪化を引き起こします。
皮膚のバリア機能の低下
皮膚には、外からの刺激や乾燥から体を守るバリア機能があります。アトピー性皮膚炎では、この機能が低下しています。バリア機能が低下すると、皮膚の水分が失われて乾燥肌になり、かゆみが引き起こされます。かゆみのために皮膚を掻くとダニやほこり、花粉などの異物(アレルゲン)が侵入しやすくなり、炎症につながると考えられています。
また、皮膚のバリア機能が低下して乾燥肌になると、通常は皮膚の奥深くにあるかゆみを感じる神経(C線維)が、皮膚の表面近くまで伸びてくるといわれています。そのため、衣類の摩擦や汗などのわずかな刺激でもかゆみを感じ、皮膚を掻くことでさらにバリア機能が低下していきます。
アトピー素因
アトピー性皮膚炎患者の多くはアトピー素因を持っています。アトピー素因とは、患者自身や家族に気管支喘息やアレルギー性鼻炎などアレルギーの病気の既往歴があること、あるいは血液の中にIgE抗体という物質を作りやすい体質であることを指します。ただし、アトピー素因があるからといって必ずアトピー性皮膚炎を発症するわけではありません。
発症や悪化の要因
発症や症状の悪化につながる要因には、さまざまなものが挙げられます。
- アレルゲン……ダニやほこり、ペットの毛、花粉など
- 皮膚への刺激……汗やよだれ、髪の毛の接触、衣類の摩擦、プールの塩素など
- かぜなどの体調不良
- 精神的なストレス
など
症状
小児アトピー性皮膚炎の主な症状は、かゆみを伴った湿疹です。年齢によって湿疹の出やすい部位や特徴が異なります。また、強いかゆみがあると睡眠不足や日中の集中力低下、イライラにつながるなど、生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼします。
特徴的な湿疹と強いかゆみ
赤くなる、ブツブツができる、カサカサして乾燥する、ジュクジュクする、かさぶたができるといったようなさまざまな湿疹が、かゆみとともに皮膚に現れます。これらの湿疹は、体の左右対称にできやすく、改善と悪化を繰り返すことが特徴です。
年齢による症状の変化
湿疹は、年齢に応じて出やすい部位が異なることが知られています。
乳児期(2歳未満)
顔(頬や額、口の周り)や頭の赤みやジュクジュクとした湿疹から始まることが多いといわれています。よだれや衣類の摩擦などが引き金になりやすく、次第に首や胴体、手足へと広がっていく傾向があります。
幼児期~学童期(2歳~12歳)
首回りや、肘の内側・膝の裏側などの関節が曲がる部分に湿疹が出やすくなります。また、何度も掻きむしることで皮膚がゴワゴワと厚く硬くなる状態(苔癬化)や、強いかゆみを伴うブツブツ(痒疹)がみられることもあります。
思春期以降(13歳以上)
顔や首、胸、背中などの上半身に症状が現れやすいといわれています。重症になると、体や手足に痒疹がたくさんできたり、全身の皮膚が赤くなる状態(紅皮症)に至ったりすることもあります。
注意すべき合併症
皮膚のバリア機能が低下しているため、細菌やウイルスによる皮膚の感染症にかかりやすくなります。代表的なものとして、とびひ(伝染性膿痂疹)や、カポジ水痘様発疹症、みずいぼ(伝染性軟属腫)などがあります。また、顔に重い湿疹がみられる場合、目をこすったり叩いたりする刺激によって、白内障や網膜剥離といった目の病気を合併することもあります。
日常生活や精神面への影響
強いかゆみや湿疹は、QOLに大きな影響を与えます。夜間のかゆみで眠れない日が続くと、日中の強い眠気や集中力の低下を招き、学業への影響も懸念されます。また、思春期に近づくと、外見の変化に対する精神的な負担も大きくなります。日常生活を送るうえでのストレスや不安などを感じるほどであれば早めに医療機関を受診して治療することが大切です。
検査・診断
アトピー性皮膚炎の診断は、かゆみ、特徴的な湿疹の分布、慢性的に繰り返す経過の3つの条件に基づいて行われます。また、ほかの皮膚の病気ではないことを確認することも重要です。
診断基準
日本皮膚科学会の基準では、以下の3つの条件を満たした場合にアトピー性皮膚炎と診断されます。
- かゆみがあること
- 特徴的な湿疹が現れていること
- 改善と悪化を慢性的に繰り返していること(乳児では2か月以上、それ以降は6か月以上)
また、あせも(汗疹)やおむつかぶれ(おむつ皮膚炎)など、似たような症状の別の病気を除外するため、医師が問診や視診などによって鑑別診断を行います。
皮膚の炎症を調べる検査
診断の補助や治療の効果を確認するための客観的な指標として、血液検査が行われることがあります。血液中のTARCやSCCA2という値を測ることで、目に見えない皮膚の炎症の強さ(重症度)を評価することができます。
アレルギー検査
アトピー性皮膚炎では、体内のIgE抗体という物質が増加することが多いため、血液中のIgE値を検査することもあります。また、血液検査や皮膚テストによってダニや花粉などとの反応のしやすさを調べることもあります。ただし、数値が高い(陽性)アレルゲンが必ずしも症状の悪化要因になっているとは限りません。
治療
小児アトピー性皮膚炎の治療は、炎症を抑える薬物療法、バリア機能を補うスキンケア、症状を悪化させる要因の回避の3つが基本です。症状が出ないか軽微な状態を維持して、日常生活が快適に送れることを目指した治療が行われます。
薬物療法
炎症をしっかりと抑えるために、主に塗り薬(外用薬)を使用します。日本で主に使用される炎症を抑える外用薬はステロイド外用薬、カルシニューリン阻害外用薬(タクロリムス軟膏)、JAK阻害外用薬(デルゴシチニブ軟膏)、PDE4阻害外用薬(ジファミラスト軟膏)、AhR調整外用薬(タピナロフクリーム)の5種類です。
ステロイド外用薬
治療の基本となる薬で、炎症を抑えるはたらきがあります。薬の効果の強さによってランク分けされており、症状に合わせて適切な強さのものを選択します。医師の指示どおり正しく使えば、全身への副作用などの心配はほとんどありません。
カルシニューリン阻害外用薬(タクロリムス軟膏)
皮膚で生じている免疫反応を抑えることで炎症を鎮める薬です。塗るときに刺激を感じることがあります。2歳以上から使用可能です。
JAK阻害外用薬(デルゴシチニブ軟膏)
細胞の中にある炎症の伝達経路(JAK)を遮断し、炎症を抑え込む薬です。生後6か月以上で使用可能となります。
PDE4阻害外用薬(ジファミラスト軟膏)
免疫細胞などにある“PDE4”という酵素のはたらきをブロックすることで、炎症を抑える薬です。生後3か月以上で使用可能となります。
AhR調整外用薬(タピナロフクリーム)
皮膚の細胞に存在する“AhR(芳香族炭化水素受容体)”のはたらきを活性化することで、炎症を抑える薬です。
プロアクティブ療法
湿疹が改善して見た目がよくなっても、皮膚の奥には目に見えない炎症が残っている可能性があります。炎症が残った状態で治療をやめると、湿疹が再発してしまいます。プロアクティブ療法とは、再発を繰り返す患者に行われる治療です。見た目がきれいになった後も、頻度を減らしながらも定期的に炎症を抑える薬を塗り続けます。結果的に、長期的な薬の使用量を減らしつつ、よい状態を保つことができるようになります。
スキンケア
皮膚を清潔に保つことは、バリア機能の改善にもつながります。体を洗うときに石けんを使うならば、よく泡立てて、ゴシゴシこすらず、手でやさしくなでるようにします。首や関節などは汚れを残さないように、シワの部分を伸ばして丁寧に洗いましょう。石けんが残らないようにしっかりすすぎ、入浴後は水気を拭き取ったらすぐに、適量の保湿剤を塗ります。
悪化要因の回避(生活環境の整備)
ダニやハウスダストを減らすため、部屋の掃除や換気を定期的に行いましょう。肌に直接触れるシーツや枕カバーもこまめに洗濯します。防ダニ仕様のカバーを使うのも効果的です。また、室内は適度な温度と湿度を保ち、皮膚が乾燥しすぎたり、汗をかきすぎたりしない環境を整えます。花粉の飛ぶ時期は、マスクや花粉用眼鏡を着用し、帰宅時は玄関前で衣類などについた花粉を室内に持ち込まないようにします。
また、無意識に掻いた際に皮膚を傷つけないよう、爪は常に短くしておきましょう。汗をかいたらそのままにせず拭き取るか、シャワーで洗い流してください。肌着や衣服は、チクチク・ゴワゴワするものを避けるようにしましょう。
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予防
小児アトピー性皮膚炎の治療を適切に行うことは、慢性化を予防するだけでなく、別のアレルギーの病気の発症予防につながる可能性があります。
乳幼児期のアトピー性皮膚炎を始まりとして、成長に伴い食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎(花粉症)など、別のアレルギーの病気が現れる現象をアレルギーマーチと呼びます。バリア機能が落ちた皮膚からアレルゲンが侵入することが、その後のアレルギー発症に大きく影響すると考えられています。このアレルギーマーチの進行を防ぐため、湿疹が出た場合には早めに医師の診察を受けて、適切な治療を進めましょう。
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