連載小さな変化を大きな気付きに~MCIを知る

認知症は「予防」できるのか? 無理なくできる“健康増進”でリスク低減を

公開日

2025年02月28日

更新日

2025年02月28日

更新履歴
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「認知症を防ぐにはどうしたらいいの?」――高齢化が進む今、認知症は多くの方が抱える不安の1つかもしれません。最近では、認知症の疑いが生じた状態である「MCI(軽度認知障害)」も注目されています。MCIは、そのまま放置すると認知症に移行するリスクがありますが、適切な対策により健常な状態に戻れる可能性があります。それでは、どのような対策があるのでしょうか。認知症診療を専門とする栄樹庵診療所院長・東京慈恵会医科大学名誉教授・東京都立大学名誉教授の繁田雅弘先生に、認知症をどのように捉えたらよいか、今からできることなどを伺いました。

先方提供

認知症予防とは? 専門家の間で意見が分かれる

「認知症は予防できるのか」という問いに対して、専門家の間では次のように意見が分かれています。まずは「認知症は予防できない」とする考え方です。認知症は、脳内にアミロイドβやその他の異常なタンパク質が蓄積することで発症する病気であり、脳トレや運動を行っても脳の変化を避けることはできず、根本的に防ぐことはできません。近年成立した「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」の中でも、「予防」という表現は誤解を招く恐れがあるとされ、意図的に削除されています。

一方で「予防は大事」と考える専門家もいます。認知症の発症そのものを防ぐことはできないものの、生活習慣の改善などの対策によって認知機能の低下を少しでも遅らせられるという考え方です。たとえば、高血圧や糖尿病などの生活習慣病をきちんと管理することで、認知症の進行を抑えることが期待できます。

どちらの意見も間違いではありません。つまり「認知症を予防できる」という言葉の意味は、発症そのものを防ぐというよりも、「発症を遅らせる」「進行を抑える」「生活の質の低下を防ぐ」というように捉えるとよいでしょう。

認知症「 14のリスク因子」とは

現在、認知症のリスクとしては次の14の因子が特定されており、これらを取り除くことで認知症の45%は進行を抑えられる可能性があると医学誌「The Lancet」で報告されています(2024年)。

<14のリスク因子:教育不足・頭部外傷・運動不足・喫煙・過度の飲酒・高血圧・肥満・糖尿病・難聴・うつ病・社会的孤立・大気汚染・LDLコレステロール値の上昇・視力喪失>

ただし、これらの要因を完全に防ぐことは難しく、いずれも認知症の予防として決定的なものではありません。たとえば「教育不足」とありますが、勉強をすることで直接認知症を防げるわけではなく、「頭部外傷」については防ごうとして防ぎきれるものではありません。喫煙や飲酒はご存じのように健康に悪影響を及ぼしますが、これだけはやめられないという方に対して、認知症の進行を抑えるためにやめてもらうのは難しいことです。「社会的孤立」も挙げられていますが、一人暮らしでストレスがなく快適に過ごしている方もいます。孤立していても、家族と過ごすなかで感じる孤独から逃れられるならそのほうがよいという場合もあるでしょう。

このように、何十年も生きてきたスタイルがあっての今ですから、一人ひとりに合った対策は異なるのです。

自分に合わせた無理のない健康増進で認知症リスクを低減

生活習慣に関わるリスク要因は、人によっては改善できる余地があります。高血圧や糖尿病、LDLコレステロール値の管理は、脳梗塞(のうこうそく)や心筋梗塞の予防にもつながります。少しでも運動する機会を増やすことが可能であれば、ご自身にあった量の運動をするとよいでしょう。食生活の工夫や、医師に相談しながら適切な治療を続けていくことも大切です。無理のない範囲でよりよい生活習慣を心がけるのは、認知症だけでなく健康全体にとってよいことです。

基本的には「自分の健康をより健康に。健康増進が結果的に認知症のリスクの低減につながる」という考え方が重要です。自分の生活を振り返り、健康に悪い習慣や自分で少しでも対処できそうなことがあれば、無理のない範囲で改善するところから始めるのが現実的でしょう。

なお、私が診療するときは、患者さんに「これからの人生の後半をどのように過ごしたいですか」とお聞きすることがあります。たとえば、お酒が大好きな方に対して「やめるべき」と一方的に指導するのではなく「これからも元気に飲めるように気をつけられることはありますか?」と問いかけ、そして「食事をしっかりとりましょう」「昼間から飲むのは我慢しましょうか」など、ご本人が取り組める小さな工夫を提案します。一方で「日本酒なら1日何合まで」といった指導では画一的になってしまうと感じています。

自分の生活を振り返る4つのキーワード

ご自身の生活を振り返るときには「食事・運動・人との交流・知的刺激」という4つのキーワードを思い浮かべてみてください。この4つを全て必ず実践しなければならないわけではなく、する必要のない方もいます。たとえば、日頃から食事も運動も気を遣っていて、人付き合いや趣味を楽しんでいるという方は、特別にすることはありません。運動不足だと感じている場合はできる範囲で行ったり、脂っこいものばかり食べていると気付いたら減らしたりといった工夫をするのはよいことです。人と会うのがストレスになるなら無理に交流する必要はなく、楽しんで続けられることがあるなら習い事などはしなくて構いません。

よく、苦手だけれど計算ドリルに取り組まなければという方もいますが、私は「立派に生きてきたあなたの人生にはふさわしくない」と伝えています。お孫さんと遊ぶ、お友達とお喋りする、カラオケで思い切り歌う、そういった好きなことをしていただきたいと思います。

今を元気に過ごせているならこのままで十分です。それは、健康について大きな間違いをしてこなかったからですので、急に生活スタイルを変える必要はないと考えています。

認知症になっても続けたいことを考えて

認知症になるかどうかは予測できず、完全に防ぐこともできませんが、私がおすすめしたいのは「認知症になってもこれだけは続けたいもの」をあらかじめ見つけておくということです。たとえば誰かと一緒にお茶を飲む、家の中のこの仕事は自分が続ける、といったものを考えておくとよいでしょう。

認知症を発症しても幸せに暮らしている方もいれば、症状が軽くても不幸だと感じる方もいると思います。その違いは認知症をどう捉えるかによるものが大きいでしょう。また、認知症にならなくても、老化によって若い頃のようにできないことが増えていきます。そうした変化をショックだと感じる方もいるかと思いますが、変化に対する心積もりができている方は、その時々の自分に合わせて生きていくことができます。「この先も自分らしく生きるために何ができるか」を考えておくのがよいでしょう。

最後に―認知症について不安がある方へ

当院を訪れる患者さんの中には50~60歳代の現役世代の方が少なくありません。特に事務職や管理業務を中心とする職業の方々が、認知症やMCIの診断がつかないような軽度の段階でも、仕事上の変化に気付いて不安を抱くことがあるようです。たとえば、以前より判断力や記憶力が落ちた、仕事の効率が悪くなった、会議の内容をうまく把握できなくなったといった違和感を覚えたり、職場の同僚や上司から「最近さえていない」「疲れていないか?」と指摘されたりすることが、気付きのきっかけだといいます。

認知症に対する不安を感じるのは、やむを得ないことだと思います。しかし、不安や心配を抱えた分だけ認知症を防げるわけではありません。「もし認知症になったら、どのように暮らしていきたいか」を考えておくことが、認知症への何よりの備えです。認知症と診断された方でも「不安になるのは当然のことだ」と受け入れることが大事です。認知症について少しでも相談したいと思われたら、気軽に話していただきたいと思います。

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