連載小さな変化を大きな気付きに~MCIを知る

「なかじまプロジェクト」の経験から展望する認知症予防のこれから【後編】

公開日

2025年08月07日

更新日

2025年08月07日

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2025年08月07日

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「食」に注目して研究、山田正仁先生に聞く

認知症の約3分の2を占めるアルツハイマー病の発症には、遺伝的因子だけでなく生活習慣などの環境的因子も関与していることが分かっています。なかでも食事は日常的に選択できる重要な因子です。

前編では、山田正仁先生(国家公務員共済組合連合会 九段坂病院 院長、東京科学大学 特命教授、金沢大学 名誉教授)に、食事と認知症との関係や認知症予防に役立つ食事・生活について解説いただきました。後編となる本稿では、山田先生が長年にわたって取り組んでこられた地域コホート研究*「なかじまプロジェクト」で得られた知見や食による認知症予防の今後の展望についてお話を伺いました。

*コホート研究:ある集団において、仮説として考えられる要因を持つグループと持たないグループを追跡し、それぞれのグループの病気の罹患率や死亡率を比較することによって、要因と病気の関連を明らかにする研究手法

提供:山田正仁先生

認知症の早期発見・予防目指した「なかじまプロジェクト」

「なかじまプロジェクト」とは、2006年から石川県七尾市中島町で行われている認知症の早期発見・予防を目指した前向き縦断研究*です。60歳以上の全ての地域住民を対象とした調査で、脳神経内科の医師、歯科医師、保健師、臨床心理士、看護師などで構成された多職種チームによる脳健診(もの忘れ健診)を通じて、認知機能の詳細な評価と生活習慣の調査が行われてきました。

このプロジェクトでは、認知症やMCIの予防を目指して、食品や食品成分に焦点を当てた研究が行われました。その結果、いくつかの興味深い発見があり、それを起点として認知症の予防・治療法の開発研究が展開されてきました。

*前向き縦断研究:試験に参加した人を対象に、未来に向かって繰り返しデータを収集することによって、リスク因子などを評価する研究手法

緑茶の摂取習慣と認知症低下リスクの関連

「なかじまプロジェクト」で最初に明らかになった発見は、緑茶の摂取習慣と認知機能低下リスクとの関連です。具体的には、認知機能が正常な住民において、緑茶を摂取する習慣がある人では、認知症やMCIの発症が少なかったという結果です。これは非常に興味深い知見でしたが、緑茶を飲む習慣がその人が持つ他の良好な生活習慣の影響を受けている可能性もあり、単純に緑茶が認知症に効果があるとは言い切れません。

アルツハイマー病実験モデル、そしてヒトと検証を重ねて

そこでまず、緑茶などの食品に含まれる天然フェノール化合物の効果を、アルツハイマー病の試験管内モデルと動物モデルを用いた実験で検証しました。その結果、天然フェノール化合物の一種である“ロスマリン酸”に、アルツハイマー病特有のタンパクの凝集を抑制したり、神経毒性を軽減したりする優れた効果が認められました。

そこで次に、ロスマリン酸の効果を検証する研究を行いました。ロスマリン酸は、ローズマリーやレモンバームといったハーブに豊富に含まれています。山田先生らはレモンバームからロスマリン酸を豊富に含む抽出物を作成し、それをカプセルに入れて健康な人や軽度のアルツハイマー病患者さんに服用してもらうことで、認知機能に対する効果を検証するランダム化比較試験*を行いました。

しかし残念ながら、地域住民の人を対象とした試験では、ロスマリン酸が認知機能低下を予防する効果は証明されませんでした。この結果から山田先生は「単一の物質を大量に摂取するというアプローチは一部の人には有効かもしれないが、誰にでも効果があるわけではないのではないか」と推測します。

*ランダム化比較試験:研究対象者を2つ以上のグループにランダム(無作為)に分けて、効果を検証する研究手法

ビタミンCと認知症遺伝的リスクとの関連

「なかじまプロジェクト」で明らかになった知見はこれだけではありません。アルツハイマー病の遺伝的リスク因子とされるアポリポタンパクE E4(アポE4)を持つ女性において、認知機能が正常な時点で血中ビタミンC濃度が高値であることが、将来の認知機能低下のリスク減少と関連していました。

それについての研究の結果から、個々の人の遺伝子によって決まっている血中から脳内へのビタミンC輸送効率が低いことが脳内ビタミンC濃度の低下を介してアポE4に関連する認知機能低下に影響するため、高いレベルの血中ビタミンC濃度が効果的なのではないかと考えられました。このようにそれぞれの個人が持つ遺伝的背景により、認知症の予防に効果的な食事や生活習慣は異なることが予測されています。

認知症予防も個別化の時代へ

認知症予防において、「なかじまプロジェクト」から展開した研究成果は、単一の物質による画一的なアプローチではなく、個別化の重要性を示しています。つまり、それぞれの個人が持って生まれた遺伝的因子の違いにより、認知症予防に有効な食事は異なる可能性があるということです。そのため山田先生は「将来的には個人の遺伝的背景(ゲノム情報)に基づいて、最適な食事・生活習慣を指導する“個別化認知症予防”の時代が到来するのではないか」と語ります。

さらに、「なかじまプロジェクト」を発展させる形で、山田先生らは2016年から中島町を含む全国8地域で65歳以上の住民1万人を対象とした大規模地域コホート研究「日本医療研究開発機構・認知症研究開発事業:健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究(JPSC-AD)」を開始し、その後、研究は継続されています。この研究によって大規模かつ詳細なデータが得られることで、食事と認知症との関連について、個々の人の遺伝学的な背景を含めた更なる知見が得られることが期待されています。

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