連載小さな変化を大きな気付きに~MCIを知る

認知症介護「もう限界」と感じる前に―プロに頼って心身のゆとりを取り戻す

公開日

2025年09月29日

更新日

2025年09月29日

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2025年09月29日

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「認知症の親の介護に疲れた」「どう対応すればよいか分からない」――認知症は発症した本人が不安や苦しさを抱えるだけでなく、介護する家族も疲弊して余裕を失ってしまうことが少なくありません。国立精神・神経医療研究センター病院 認知症看護認定看護師の野﨑和美さんに、介護者の負担を減らすアドバイスや、患者さんが穏やかに過ごすための工夫について伺いました。

先方提供

 

 

 

 

 

認知症看護認定看護師を志して

私が認知症看護の道へ進むことを考えたのは看護学生時代、認知症を専門とする病棟で実習を受けたのがきっかけでした。ケアの方法や声のかけ方1つで患者さんの状態がよくも悪くもなり得ることから、関わり方に試行錯誤や工夫が必要な点に関心を持ったのです。

たとえば、患者さんが入院中に不穏(落ち着かない様子)になると、抗精神病薬の使用が考慮されることが多くあります。しかし、かつて担当した患者さんでは、好きだと話されていた昭和歌謡を病室で流すと穏やかになる方がいらっしゃいました。このことを看護師間で共有して「不穏時頓服」ならぬ「不穏時音楽」を心がけたところ、患者さんの笑顔が増え、頓服を飲む頻度が減りました。看護師の負担も軽くなり、よりよいケアにつながったと感じています。

介護者の負担が大きいBPSD

認知症の方の介護をしているご家族からの相談で特に多いのは、暴言や暴力、不潔行為(排泄物を認識できず触ってしまうなど)といった、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)に関することです。

BPSDは、中核症状であるもの忘れに加えて、体の不調や暑さ・寒さなどの環境的な不快、不安やプライドが傷つけられるような心理的な要因などが組み合わさって現れるといわれています。症状を緩和するために、まずはそれらの要因を取り除くことが重要ですが、認知症の方は体の不調や不快感をうまく言葉に表せないことが多く、原因を特定するのが難しいことも少なくありません。

ご家族の「1人で頑張らなければ」という余裕のなさがご本人の不安を招き、BPSDにつながる場合もあります。サービスを利用するなど関わり方を見直し、介護者自身の心身のゆとりを作ってご本人をしっかりと見ることが、BPSDの要因に気付くきっかけになります。しばらくX線検査や血液検査を受けていないようなら、病院で体の不調をチェックしてもらうのもよいでしょう。

「本人が受診を拒否して困っている」という相談も多くあります。たとえば「もの忘れ外来」という言葉が気になり受診をためらっている場合は、受付で「もの忘れ外来」とは言わない配慮をするよう、事前に打ち合わせておくのも1つの手です。「健康診断に行こう」「年も年だから、病気がないか一度確かめようよ」といった言い方であれば受診しやすくなるケースもあります。嘘をつくようではありますが、もの忘れが身体の不調から起こっている場合もあるため、病院に足を運んでもらう環境を整えることが大切だと考えています。お住まいの地域の「認知症疾患医療センター」などで相談すると、ご本人に合ったよりよい方法を一緒に検討していただけるでしょう。

制度やサービスを利用してゆとりを大切に

認知症の進行度が同じでも、BPSDが生じて日常生活に支障をきたしてしまう方もいれば、穏やかに過ごせる方もいます。制度やサービスをうまく利用して、介護者自身が余裕を持つことが鍵になります。

穏やかに過ごせているケースでは、ご家族が明るく、認知症の症状による出来事を笑いに変えたり気軽な調子で話せたりしている方が多い印象があります。ご家族がゆとりを持って関わることで、ご本人に混乱や不安が起きにくくなるのだと思います。さらに、認知症の知識を得て認知症を理解しておくことも大切です。症状が現れたら落ち着いて対策をとったり、事前に準備したりすることができ、心の余裕につながるでしょう。

介護に対するご家族の負担が大きくなり、ゆとりが持てないときには、施設への一時的な入居を利用してご家族が休む時間を設けることも選択肢の1つです。専門の施設を頼って介護を任せ、自分にゆとりができたときに会いに行けば、優しく接することができ、ご本人も笑顔の時間が増えるかもしれません。自分の人生を介護だけで終わらせる必要はないと考えて、最後に振り返って「大変なことばかりだった」と思うよりも「施設を頼ったけれどいい介護ができたかな」と少しでも感じられるようにしていただけたらと思います。

介護保険の申請のタイミング

認知症の介護で利用できる制度やサービスの中で、特に利用をすすめるのは介護保険です。「まだ早いのでは」と考えるご家族は多いですが、進行予防のためにも活用するとよいでしょう。進行予防については「適度な運動」「バランスのよい食事」「適度な睡眠」「社会とのつながり」の4つがキーワードです。どれかが不足しているなら、自分や家族だけで頑張るのは難しいと考えて、介護保険を利用して少し補うのがよいと思います。申請自体には費用は発生しませんし、利用開始まで1~2か月ほどかかるため、早めに手続きしておくのがおすすめです。

認知症の一歩手前の段階であるMCI(軽度認知障害)などで認定が受けられないような場合は、「地域包括支援センター」に相談して予防講座や趣味の活動の場を調べていただき、参加するのもよいと思います。

若年性認知症の方には、自立支援医療、精神障害者保健福祉手帳、障害年金などの制度を案内します。若年性認知症とは65歳未満で発症する認知症で、働き世代や子育て世代の年齢であることから、生活への影響が大きくなりやすいのが特徴です。そのため当院では、東京都が設置した「若年性認知症総合支援センター」と迅速に連携をとり、若年性認知症コーディネーターにつなげられるよう支援をしています。

認知症疾患医療センターの取り組み

当院は2016年7月、東京都から指定を受けて地域連携型の「認知症疾患医療センター」を開設しました。精神科、脳神経内科、総合内科の3科が連携して「もの忘れ(認知症)外来」を担当し、認知症に関する相談や診断・治療に幅広く対応しています。東京都小平市と連携して年10回開催している「もの忘れチェック会」を通じて受診する方も多く、MCIや、さらに早い無症候期(プレクリニカル期)の方もいらっしゃることが特徴です。

認知症に関する取り組みとしては、MCIの進行予防を目指す「MCIリハビリプログラム」や、患者さんやご家族の相談の場「オレンジカフェ(認知症カフェ)」を実施しています。オレンジカフェは全国で行われていますが、当院の場合は認知症を専門とする医師に直接相談することができ、ご家族が多く参加されています。さらに、毎年9月21日の「世界アルツハイマーデー」に合わせてイベントを開催し、市民公開講座などを通じて啓発活動を積極的に行っています。

今後、介護者が気軽に集まって悩みや困り事を話せる場として、地域に根ざしたオレンジカフェや家族会の場がさらに増えるとよいなと思います。

先方提供

2024年世界アルツハイマーデーイベントの様子

最後に―読者へのメッセージ

認知症の患者さんは、もの忘れを自覚して不安になっていることや、社会での役割が減って喪失感を抱くことがあるため、私はこれからの楽しみについてお話をするようにしています。年齢が80歳なら「100歳まであと20年ありますね」「元気に過ごすとして何か楽しみになるものはありますか?」と尋ね、その方の大切にしていることや、これからやりたいことを話してもらうのです。入院中は医療者からの質問に答えるばかりになりがちですが、患者さんが主体的に気分よく話せるような機会も意識的に作るようにしています。ご家族にとっても知らない一面を発見するきっかけになることがあるようで、その後の介護に関する意思決定の際にも役立っています。

認知症という病気が身近に聞かれるようになり、不安を抱えている方は多いのではないでしょうか。しかし、認知症になっても急に全てができなくなるわけではありません。自分でできることやよいところを生かしながら、楽しく元気に暮らすことが長生きの秘訣です。ご家族や周囲の方は、介護に真面目になりすぎず、頑張りすぎないでいただきたいと思います。心のゆとりを持つために1人で抱え込まず、理解や協力を得られる存在を多く作っていくことが大切です。

 

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