連載小さな変化を大きな気付きに~MCIを知る

1日15分の早歩きで認知機能を取り戻す! インターバル速歩がもたらす効果

公開日

2025年02月12日

更新日

2025年02月12日

更新履歴
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いつか自分や家族が認知症になるのではないか――こうした不安を抱えている方は多いかもしれません。認知症予防の対策の1つとして運動が有効であることが分かっていますが、「体力に自信がないから運動なんて無理」「どのような運動を行えばよいか分からない」などといった理由でなかなか行動に移せない方も多いでしょう。そのような方におすすめなのが、早歩きとゆっくり歩きを組み合わせた「インターバル速歩」です。 インターバル速歩を考案した信州大学医学部 特任教授の能勢博先生に、実践方法や期待できる効果について伺いました。

先方提供

「体力向上」で認知症を防ぐ

認知症を引き起こす原因は諸説ありますが、その1つとして考えられているのが、ミトコンドリアの機能劣化が引き起こす「体内の慢性炎症」です。ミトコンドリアは脳を含む全身の細胞に存在する小器官のことで、炭水化物や脂肪を燃やしエネルギーの元となるATP(アデノシン3リン酸)を作るはたらきをしています。しかし、加齢により体力が低下すると、ミトコンドリアも老化して不完全燃焼を起こし、活性酸素を多く作り出すようになります。例えるならば、車のエンジンが古くなって不完全燃焼を起こし、黒い排ガスが出ているようなイメージです。

活性酸素は体内で細胞や組織を壊し、体はそれを修復しようと反応します。その反応が長期間に及ぶと「慢性炎症反応」が起こり、それが脳細胞に起これば認知症やうつ病につながるといわれています。そこでおこなっていただきたいのが、全身のミトコンドリアの機能改善を目指した体力向上です。実際に全身のミトコンドリアの機能が改善すると、脳の慢性炎症も改善して認知症の予防につながるというエビデンス(科学的根拠)が出ています。

それでは、どのように体力向上を目指すとよいのでしょう。体力は、大きく筋力と持久力により構成され、さらに筋力は筋の収縮力と持久力の2つに分けられます。ミトコンドリアの機能改善と関係するのは「筋の持久力を上げる運動」です。持久力向上のためには一定以上の強度で筋肉を何度も繰り返し収縮させる運動が必要で、たとえばウォーキングを行うトレッドミルや自転車エルゴメーターを使った運動が適しています。体力向上のためにアメリカ・スポーツ医学会(ACSM)が推奨する基準は、個人の最大体力の60〜80%にあたる運動を1日20分以上、週3日以上、合計60~90分行うことで、これが国際標準とされています。約6か月続ければ最大体力が約10%向上し、心肺機能の向上も期待できることが分かっています。

1日15分の早歩きで認知機能が34%改善

普段あまり運動をしない中高年の方が、認知症予防のために運動を取り入れるのなら、早歩きがおすすめです。2分ほどで呼吸や鼓動が普段より早くなる程度の早歩きが、最大体力の60~70%の運動で適度な強度です。息が上がると歩くのをやめたくなると思いますが、あと1分だけ頑張ることを目指して3分間早歩きをしたら、そのあとの3分はゆっくり歩いてかまいません。この「早歩き」と「ゆっくり歩き」を3分ずつ繰り返すウォーキングが「インターバル速歩」です。1日15分の早歩きを週4日実践すれば合計で60分となり、体力向上のための国際標準に達します。

私たちが秋田県で行った研究では、インターバル速歩を5か月間行った方のうち、認知症予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の方において、最大体力が6%向上し、認知機能が34%改善したという結果が得られました。

メンタル面への好影響も得られる

インターバル速歩を生活に取り入れると、体力向上や認知機能の改善以外にも、多くのポジティブな変化がもたらされます。たとえば「この山を登れたから、インターバル速歩を続けてさらに体力をつけて、次はもっと高い山を登ろう」など、何かに挑戦したい気持ちが芽生えたり、人生に対して目標ができたりする方もいると思います。そこから新たな交友関係が広がることもあるでしょう。人間は社会的な生物ですから、基本的には他人と関わりを持たなければ生きていけません。インターバル速歩によって社会参加が促されると、脳にはさまざまな情報が与えられ、刺激も増えることになります。この刺激を受け入れる素地があるか否かは、認知症を予防するために非常に大事なことだといわれています。

また、脳に刺激が与えられると、視覚情報なら脳の中の視覚野が反応し、皮膚刺激なら体性感覚野が反応するといったように、刺激に応じた部分がまず反応します。脳の興味深い点は、こうしたさまざまな刺激が統合されることです。その結果、脳全体の代謝が上がり、脳の血流がよくなるということです。すなわち、体力向上を目標にインターバル速歩を始めると、脳にさまざまな刺激が入り、結果的に脳の血流が改善され、認知機能改善につながるというメリットが得られるのです。

そのほか、深い眠りがもたらされるようになりますし、ストレスに強くなる作用も期待できます。不安感が少なくなり、未来をポジティブに捉えられるようになるでしょう。また、慢性関節痛の痛みが強い方がインターバル速歩を行うと、痛みが緩和されるというデータも得られています。私はこれらの反応も認知機能改善に効果があると考えています。

インターバル速歩の実践―歩き方3つのポイント

インターバル速歩は早歩きとゆっくり歩きを3分ずつ繰り返すのを1日5セット行うのが基本ですが、厳密に守る必要はありません。大切なのは「早歩きの合計が週に60分以上になること」です。早歩きを3分以上続けられるのであれば、たとえば早歩き5分、ゆっくり歩き1分を1セットとしてもよいのです。

歩き方のポイントは3つあります。まず1つは「背筋を伸ばし直立の姿勢で歩くこと」です。タオルを使い直立のフォームが取れているか確認してみるとよいでしょう。頭の上でタオルの両端を握り、そのまままっすぐ頭の後ろに降ろします。タオルの両端を引っ張ると、胸の筋肉が張る感覚が分かると思います。直立姿勢のイメージがつかめたら、両手は腰の横に置きましょう。顎を引いて、25m先を見ながら歩きます。

2つ目のポイントは「大股で歩くこと」です。普段より歩幅を3〜5cm広く、かかとから着地する感覚で歩くと大股になります。着地するときは、反対側の足のつま先で地面を蹴ると体重移動がスムーズになり、かかとだけに力がかかることはありません。

3つ目は「腕を大きく振って歩くこと」です。大股で歩くとき腕を腰にぴったり付けると、腰が回転してしまいます。腰の回転を止めスムーズに大股で歩くためには、左足を前に出すときに右腕を前に出し、右足を前に出すときには左腕を前に出します。

これら3つのポイントは全て大股で安定して歩くための方法です。全身の筋肉の約3分の2は下半身にあり、この大きな筋肉群を動かすには多くのエネルギーや酸素を必要とします。大股で歩いて下半身の筋肉群を動かすことで体全体の代謝を上げ、脳も含む全身に大きな影響を及ぼすことができます。

継続のためのポイント

インターバル速歩を継続するためのポイントも3つあります。1つ目は「自己比較」です。昨日よりも今日の自分のほうが元気になっていると確認できれば、明日はもっと元気になるはずだというモチベーションにつながります。2つ目は「他者比較」です。ライバルには負けたくないと思えばそれが続ける原動力となりますし、一緒に歩くパートナーがいればくじけそうなときも続けられるでしょう。3つ目は「コミュニティの育成」です。一緒に頑張る仲間をつくることで、さぼっている人がいれば声をかけ合うようになります。

また、受け身ではなく、能動的な姿勢で取り組むのもとても大事です。たとえば「健康診断で肥満や高血圧を指摘されたからインターバル速歩をやってみよう」というのは受け身の姿勢です。一方で「登山のために体力をつけたいからインターバル速歩を頑張ろう」というのは能動的で、自らの純粋な欲求に根差しています。体力が向上すればさまざまなものに興味を持つようになりますし、交友関係も広がります。やらされているという受け身の感覚ではなく、純粋な欲求に根差していれば継続しやすくなるでしょう。

アプリも活用して今日からぜひ実践を

私たちはインターバル速歩トレーニングとIoTを組み合わせた「遠隔型個別運動処方システム」を開発し、スマートフォンアプリの実用化に成功しました。アプリでは体力測定ができるほか、トレーニングの履歴やAIによるフィードバックが確認でき、トレーナーのアドバイスを受けているかのように取り組むことができます。運動履歴の確認やフィードバックを受けられることは、継続するモチベーションにつながると思います。

認知症に対して不安を抱えている方もいらっしゃるかもしれませんが、不安は体力の衰えによって生じます。体力が向上すれば「何とかなる」という気持ちにもつながり、さらにその思いが認知症の予防にもつながると私は思っています。不安を払拭するためにも、今日からぜひインターバル速歩を始めてみてください。

インターバル速歩を普及させ、明るい長寿健康社会を目指す

私たちがインターバル速歩を考案したのは、2000年のことです。それから20年以上経過し、約1万人の中高年者を対象にその効果を実証してきました。2020年と2024年には、私の後任である信州大学大学院医学系研究科 スポーツ医科学教室の増木静江教授が全米医学アカデミー主催の健康長寿研究公募カタリストアワードを連続受賞し、国際的な評価も受けています。今後はさらに年間1万人ずつデータベースを増やしていきたいと思っています。また、特定健診で特定保健指導が必要とされる現役世代の方には、生活習慣改善のためアプリも役立ててもらいたいです。特定健診は、生活習慣病を早期発見し、特定保健指導を行うことで医療費を適正化させることを目的としています。特定保健指導とインターバル速歩を組み合わせることで、メタボリックシンドロームが改善されていくデータの蓄積が期待でき、それが明らかになれば医療費の削減にもつながると考えます。国民医療費は年々増え続け、2022年度は46兆 6967億円でした。この年の日本の一般会計歳出総額が110.3兆円ですから、どれだけ莫大な金額か分かるでしょう。この医療費を削減できれば、その削減された医療費を原資に、病気を予防するための健康サービス産業を活性化することができます。それによって世の中をもっと明るい長寿健康社会にしていくのが私たちの最終目標です。

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