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連載知って安心 子どものアレルギー

卵・乳・ピーナッツアレルギーの発症予防―それぞれに異なるアプローチが必要?

公開日

2020年10月30日

更新日

2020年10月30日

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2020年10月30日

掲載しました。
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東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター 小児科 助教

堀向 健太 先生

食物アレルギーのお子さんは増えており、社会問題になっています。特に、乳児期の食物アレルギーは卵・乳・小麦で9割を占めており、発症予防法がないか、さかんに研究されています(※1)。米国免疫アレルギー学会雑誌に2020年9月、日本の研究者による牛乳アレルギーの発症予防を試みた研究結果が発表されました。その内容は「生後1カ月から粉ミルクを少量飲み続けると乳アレルギーの発症を予防できる」という画期的な結果だったのです(※2)。今回は、この研究を軸にアレルギーの原因食品の早期摂取開始と予防の関係について、最近の研究結果を紹介します。

食物アレルギーの原因物質、摂取回避の推奨を撤回

一時期、「アレルギーになりやすい食べ物に関しては、離乳食の開始時期を遅らせたほうがいいのではないか」という考え方がありました。米国小児科学会は2000年、ハイリスク児に対し▽生後12カ月までの牛乳▽24カ月までの鶏卵とナッツ▽36カ月までの魚――の回避を推奨しました。しかし、かえってこれにより食物アレルギーを増やしてしまったかもしれないという報告が次々と発表され、2008年にはこの推奨が撤回されたのです(※3)。

そして、むしろ食物アレルギーの発症予防に関しては、「発症前から摂取を開始する」という戦略が見えてきています。しかし、「ただ早めに始めるだけでは逆にリスクがある可能性」もまた、指摘されています。

ピーナッツ:生後5~10カ月に開始で発症リスク低下

アレルギーになりやすい食べ物を、早めに離乳食に導入するとアレルギーになりにくくなるかもしれないという結果を、はじめて質の高い研究で証明したのがイギリスの研究者らによる2015年の「LEAP試験」でした。これは、生後4カ月から11カ月未満の、重症の湿疹か卵アレルギーのいずれか、あるいは両方がある乳児640人を、ピーナッツを食べ始めるグループと食べないグループにランダムに分け、5歳まで観察するという研究方法で行われました。

すると、5歳時点でのピーナッツアレルギーは、食べないグループでは17.2%、食べ始めたグループでは3.2%と、食べ始めたグループの発症が大きく減ったのです(※4)。

この研究結果は、世界に大きなインパクトを与えました。それによってピーナッツアレルギーの発症予防の考え方が大きく変わり、生後6カ月以降であればピーナッツを用いた食品を導入してよいとされたのです(※5)。

そのような推奨の変更から、オーストラリアからの最近の報告では、1歳未満にピーナッツを開始している乳児は9割に達したとされています(※6)。

しかし、ピーナッツを摂取していて予防ができる食物アレルギーは、ピーナッツアレルギーのみということもわかっています(※7)。ピーナッツアレルギーが予防できても、卵や乳の予防には影響しないのです。したがって、それぞれの食べ物で個別に考えなければならないのです。

(※筆者注)4歳未満では特に、ピーナッツはそのまま粒で摂取すると誤嚥(ごえん=食物や唾液が誤って気管に入ってしまうこと)のリスクが高いことがわかっています。LEAP試験では誤嚥しないように「バンバ」というウエハース状になったスナックで摂取しています。また、あくまで発症予防なので、すでにアレルギーを発症している子どもには推奨されません。

卵:湿疹改善させ生後6カ月から微量の加熱卵で予防可能か

日本で多い卵アレルギーはどうでしょうか。

2013年から2017年にかけて、卵を早めに開始すると卵アレルギーの発症を予防できるかという海外の研究結果が次々と発表されました。残念ながら、「生」卵粉末を利用して研究が行われた「STAR試験」「HEAP試験」「BEAT試験」「STEP試験」は、すべて予防に失敗しました。食べているグループに症状が頻回に起きたり、予防できずに発症しやすくなったりしたのです(※8~※11)。

最近の卵早期開始研究の結果
筆者提供


そして2018年になって日本から、画期的な研究結果が報告されました。それが「PETIT試験」です(※12)。

この研究では、生後6カ月までにアトピー性皮膚炎や湿疹を発症した乳児121人に対し、まず皮膚のケアを徹底的に行いました。

そしてスキンケアをしながら、「加熱」卵粉末を微量で摂取を開始するグループ、もう片方はカボチャ粉末を食べるグループに分けました。そうすると、卵粉末を摂取したグループは症状が起こるリスクが少なく、卵アレルギーの発症を大きく減らすことができたのです。

PETIT研究
筆者提供


卵アレルギーの発症予防は、ただ食べるだけではなく、「スキンケアによる皮膚の安定」と「加熱卵を微量で開始をする」という条件があったのだと考えられています。

なお、ピーナッツアレルギーに関するLEAP試験を再度検討すると、「食べ始めるときに湿疹がひどい乳児ほど、ピーナッツを食べても予防できない可能性が高い」という研究結果も確認されています(※13)。やはり、食べ始めるならば皮膚の状態を安定させるということが条件の1つといえそうですね。

乳:生後1~3カ月まで毎日少量の粉ミルクで発症予防の可能性

では、乳はどうでしょうか?

卵は生後6カ月からの開始でしたが、乳に関しては生後6カ月前後がもっとも発症リスクが高い月齢と考えられており、むしろ生後2週~1カ月くらいから開始すると良いのではないかという予想が立てられていました(※13)。しかし、生後3日以内に粉ミルクを飲んでいると、むしろ乳アレルギーが増えるかもしれないという結果も報告され、お互いに矛盾した結果になっていたのです(※14)。

そんな状況の中、冒頭にお話した研究結果が発表されたのです。「SPADE試験」と名付けられたこの研究では、沖縄で生まれた一般乳児491人が集められました。そして、生後1カ月から3カ月まで普通粉ミルクを10mL毎日飲むグループと、粉ミルクを飲まないグループ(必要であれば大豆を使用したミルクを使用)にランダムに分けられました。そして、生後6カ月の乳アレルギーがどれくらい発症したかを比較したのです。

すると、生後6カ月に乳アレルギーを発症したのは、飲み始めたグループでは0.8%に対し、飲まなかったグループでは6.8%でした。

生後1か月から3か月に粉ミルクを飲むと牛乳アレルギーを予防する
筆者提供


10mLと少ない量でも普通粉ミルクをのみ続けると、乳アレルギーの発症が抑えられるということです。

食物アレルギーの発症予防に関しては、これから明らかになることが増えてくるでしょう。

「早期の摂取開始で予防」では説明できない難しさも

ここまでの研究結果をまとめましょう。

1) 生後4~10カ月にピーナッツを開始すると、5歳時でのピーナッツアレルギーの発症リスクが減る

2) 湿疹をきれいにしてスキンケアをしつつ、生後6カ月から微量の加熱卵を食べ続けると1歳時での卵アレルギーの発症リスクが減る

3) 生後1~3カ月に粉ミルクを少量で開始をして飲み続けると、生後6カ月での牛乳アレルギーの発症リスクが減る

ということになります。

ここまで見ていてわかることは

「早めに食べ始めることによって食物アレルギーの発症が予防できる」かどうかは、「食べ始める時期、方法、量などは食品によって異なる」ため、1フレーズで簡単に説明しきれない背景があるということになるでしょう。

今回ご紹介したのは、あくまで発症“予防”に関しての研究結果です。現在すでに発症しているお子さんが食べ始める場合はリスクが高くなりますので、摂取を始める前に必ず医師に相談してくださいね。

(※1)食物アレルギーの診療の手引き2017
(※2)J Allergy Clin Immunol 2020.[Online ahead of print] PMID: 32890574
(※3)Abrams EM, Becker AB. Food introduction and allergy prevention in infants. Cmaj 2015; 187:1297-301.
(※4)Du Toit G, et al. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med 2015; 372:803-13.
(※5)Moreno MA. Guidelines to Help Prevent Peanut Allergy. JAMA pediatrics 2017; 171:100-.
(※6)J Allergy Clin Immunol 2019; 144:1327-35.e5.
(※7)J Allergy Clin Immunol 2018; 141:1343-53.
(※8)J Allergy Clin Immunol 2013; 132:387-92 e1.
(※9)J Allergy Clin Immunol 2017; 139:1591-9.e2.
(※10)J Allergy Clin Immunol 2017; 139:1621-8.e8.
(※11)J Allergy Clin Immunol 2017; 139:1600-7.e2.
(※12)Lancet 2017; 389:276-86.
(※13)Allergy 2017; 72:1254-60.
(※13)Journal of allergy and clinical immunology 2010; 126(1): 77-82.e1.
(※14)JAMA Pediatr 2019; 173:1137-45.

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東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター 小児科 助教

堀向 健太 先生

2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防に関する介入研究を発表。Yahoo!個人オーサー(2020年MVA受賞)。2016年、ブログ「小児アレルギー科医の備忘録」を開設し、これまで1200本以上の論文を紹介。医学雑誌で年間20本程度、さらに複数の医療サイトで年間30本程度の医学関連記事を執筆。Twitterでのフォロワー7.5万人。Instagramのフォロワー1.9万人。