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肌の乾燥はアレルギーの原因にも―冬には特に保湿剤が必要、何を塗ればいい?

公開日

2020年12月02日

更新日

2020年12月02日

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2020年12月02日

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東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター 小児科 助教

堀向 健太 先生

冬は皮膚が乾燥しやすい時期で、肌荒れを起こしやすくなりますよね。実際に、女性39人 の皮膚のバリア機能を測ったところ、顔や腕の皮膚のバリア機能は夏より冬が下がったという報告があります(*1)。皆さんご自身の経験からも冬は「保湿剤の必要性」を感じていることでしょう。では、皮膚のバリア機能とはなんでしょうか。この皮膚のバリア機能から、乾燥しやすい季節の保湿剤の必要性を考えてみます。

皮膚のうるおいを守るものは?

例えば、カエルなどの両生類は粘液で体が覆われています。両生類は皮膚のバリア機能が低いので、粘液で補強しているのです。それでも、水から出ていると体の中の水分がどんどん蒸発して干上がってしまいます。一方人間は、皮膚に粘液なんてなくても乾かずに済んでいます。なぜでしょうか。それは、人間が進化の過程でより強い皮膚バリア機能を持つようになったからです。

私たちの皮膚の表面には、角層というとても強い組織が幾重にも積み重なっています。角層を顕微鏡でみると、まさにブロック塀のように積み上げられています。

両生類は、この角層が数ブロックしかないのです。これに対し人間は、より多くの層があって城の外堀のように防壁の役割を担い、食品ラップさながらに皮膚の表面を覆って体から水分が逃げないようにすると同時に、外敵から身を守っているのです。ブロック塀の「目地」にあたる部分には、保湿成分が満たされています。そして角層のさらに外側は皮脂膜という油の膜が覆っています(図)。

筆者作成

 

しかし冬は乾燥により、皮脂膜が取れやすくなります。すると、角層の目地が傷みやすくなり、ブロックが簡単に外れてしまいます。たくさんの層があるとはいっても、角層は全体でもラップ1枚程度の厚さ(0.02mm) しかないのです。その薄い角層という外堀に弱いところができるとどうなるでしょう。
食品ラップに穴が開くと、中の食品は簡単に乾いてしまいますね。両生類と同じです。

外界の刺激侵入がアレルギーを引き起こすことも

それだけではなく、外界にある刺激が入り込んできます。言ってみれば、城の外にいた敵の兵士たちが城内に入り込もうとするのです。外敵が入ってくるということは、体の中にいる者たちにとっては一大事です。そこで、城内の兵士、すなわち免疫細胞を送り込んで、体に外敵を入れまいとして戦いが起こります。そして、至る場所で戦火が広がっていくことになります。

これが「炎症」です。皮膚に起こった炎症を湿疹ともいいます。湿疹がひどくなると、赤くなってかゆくなったり痛くなったり、熱を持ったりしますよね。それは体の表面で、外敵を入れまいと戦いが起こっていることの表れ。炎症は、体の免疫細胞と外敵との戦いの結果なのです。その戦いはしばしば行き過ぎてしまいますし、戦乱が拡大するとさまざまな問題を起こします。

そうした「過剰反応」の原因となるのが、「サイトカイン」という情報伝達物質です。サイトカインは免疫細胞同士の連絡役を果たし、戦いが激化し炎症が強くなってくると、たくさん出てきます。そのサイトカインが、さらに皮膚のバリア機能を下げることが分かっているのです(*2)。

そして、皮膚に触れるなどした無害であるはずのたんぱく質を、免疫細胞が敵と誤認して攻撃するようになることがあります。これがアレルギーのきっかけになることもあります。

皮膚でひどい炎症を長く起こすアトピー性皮膚炎は、たとえば気管支ぜん息やアレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどさまざまなアレルギーに関連した病気を起こしやすくすることが分かっています(*3)。

荒れた皮膚でアレルギーを獲得しやすくなることの一例として、口紅などにも使われてきた「コチニール」という動物由来の赤色色素に関するエピソードを紹介しましょう。コチニールが含まれた口紅を唇につけ続けることでコチニールに対するアレルギーを獲得してしまい、その後にコチニールが含まれた赤色の食べ物、たとえばイチゴジュースや魚肉ソーセージ、欧州製のマカロンなどでアレルギー症状が起こったことが報告されています(*4)。

さて、皮膚に炎症が起こったきっかけは、皮膚のバリアが弱まってしまったからと前に説明しましたね。そして荒れた皮膚からは、特にアレルギーを獲得しやすいのです。
ですので、冬はとくに皮膚のバリアを補強する必要性があるといえるでしょう。

アトピーには保湿因子入りがより効果的

皮膚のバリアを補強し、炎症を予防するには保湿が大切です。では、保湿剤にはどんなものがあるのでしょうか。

皮膚の構造から考えると保湿剤が、2種類に分けられることが見えてきます。1つは皮脂膜としての役割をもつ「エモリエント」、もう1つが、それに保湿因子の効果を付加した「モイスチャライザー」です(図)。

筆者作成

 

エモリエントではワセリンが有名です。新型コロナ感染を予防するために以前よりも頻回に手洗いをしている方も多いと思います。特に秋から冬にかけての時期は乾燥も相まって手洗いによる手荒れが気になるという方も多いのではないでしょうか。手洗いで皮脂膜が減ってしまっているときには、まずは皮膚をガードするためにエモリエントであるワセリンを塗るとよいと考えられます。ワセリンには皮脂膜として機能することに加えて、皮膚の抗菌作用や皮膚のバリア機能を改善させるような作用もあるという報告もあります(*5)。

一方、アトピー性皮膚炎に対処したいときや、皮膚の保湿成分を足したいときは、モイスチャライザーが有効でしょう。モイスチャライザーに使用される保湿成分はさまざまあり、医療用にはヘパリン類似物質や尿素がよく使われます。市販のモイスチャライザーにはセラミドという保湿成分もよく使われます。
アトピー性皮膚炎は角層から保湿成分も減っていることが多いので、皮脂膜+保湿成分となるモイスチャライザーのほうが、エモリエントより効果に優れているようです(*6)。

季節や重症度で保湿剤のタイプ使い分けを

エモリエントとモイスチャライザー以外にも考えたいことがあります。たとえば外用剤の剤形です。

おなじ保湿成分が含まれたモイスチャライザーでも、油脂タイプもあれば、クリームタイプ、ローションタイプ、化粧水タイプなどさまざまな製品があります。1年中同じ製品を使うよりも、季節や重症度などに合わせて使い分けると、より効果的な場合もあるかと思います。

皮脂膜が取れやすい冬は、油が多く含まれる油脂タイプがより効果的でしょう。どうしてもべたつきが気になるのであれば、ローションタイプでも油が含まれている製剤を選ぶとよいでしょう(図)。

筆者作成

 

今回の記事が、冬に向けて、みなさんに保湿剤の必要性を考えていただく機会になり、どの保湿剤を選ぶかの参考になればうれしく思います。

*1:Kikuchi K, et al. Exogenous Dermatology 2002; 1:32-8.
*2:Howell MD, et al. Cytokine modulation of atopic dermatitis filaggrin skin expression. Journal of Allergy and Clinical Immunology 2009; 124(3): R7-R12.
*3:Lowe AJ, et al. The skin as a target for prevention of the atopic march. Annals of Allergy, Asthma & Immunology 2018; 120(2): 145-51.
*4:Takeo N, et al. Cochineal dye-induced immediate allergy: review of Japanese cases and proposed new diagnostic chart. Allergology International 2018; 67:496-505.
*5:Czarnowicki T, et al. Petrolatum: Barrier repair and antimicrobial responses underlying this "inert" moisturizer. J Allergy Clin Immunol 2016; 137:1091-102.e1-7.
*6:van Zuuren EJ, et al. Emollients and moisturisers for eczema. Cochrane Database Syst Rev 2017; 2:Cd012119.

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東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター 小児科 助教

堀向 健太 先生

2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防に関する介入研究を発表。Yahoo!個人オーサー(2020年MVA受賞)。2016年、ブログ「小児アレルギー科医の備忘録」を開設し、これまで1200本以上の論文を紹介。医学雑誌で年間20本程度、さらに複数の医療サイトで年間30本程度の医学関連記事を執筆。Twitterでのフォロワー7.5万人。Instagramのフォロワー1.9万人。