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「風邪をひきにくくする栄養素や食べ物」どこまで信頼できる?

公開日

2021年01月29日

更新日

2021年01月29日

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2021年01月29日

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東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター 小児科 助教

堀向 健太 先生

私は毎日のように、外来でさまざまな病気のお子さんたちを診療している小児科医の1人です。そして冬の時期は特に、「風邪」のお子さんが増えてきます。

「風邪(かぜ症候群や急性上気道炎などともいいます)」は、「鼻づまり、鼻みず、くしゃみ、喉の痛みを特徴とする急性のウイルス性疾患」とまとめられます(*1)。その多くは『ライノウイルス』や『(新型ではない)コロナウイルス』によるものです。

そして風邪にかかる頻度は年齢が低いほど多く、1歳未満では年間6回以上かかると考えられている(*2)ので、特に小児科医は頻繁に診療することになるのです。なお、感染防御のための対策(3密を避ける、適切なマスク着用、手指衛生など)により、多くの感染症が減少していますが、ライノウイルスによる風邪は減少していないことが示されています(*3)。

そして現在、ウイルス感染症の1つである新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によるコロナ禍のさなかです。そうなってくると「子どもが新型コロナにかからないためには、どんな食事がいいですか?」という質問を受けることも少なくありません。しかし、特定の栄養素で新型コロナウイルス感染症にかかるリスクを減らそうという試みはデータが不足しています(*4)。

個人的には、特定の食べ物でダイエットをするようなもので無理があるのではと考えています。しかし、「風邪の予防」を連想させるようなCMもよく見かけますし、食べ物や栄養素で(新型コロナに限らない、ライノウイルスを中心とした風邪の)リスクを減らせるかを調べた報告や研究は少なからずあります。

過剰に信用するのも困りものですが、「害がない程度に効果がいくらかでもあるのなら」という考えがあってもよいとも思います。そこで今回は、あくまで(新型コロナに限らない)風邪といくつかの栄養素の関連に関して、最近の研究結果をご紹介したいと思います。

ビタミンCは、子どもの風邪の予防に有効ですか?

ビタミンCは水溶性ビタミンの代表的なもので、「風邪の予防や治療に効くかも」という話はよく聞きますよね。ビタミンCは、体の中の粘膜を覆う「上皮」を維持したり、炎症を起こす物質を抑えたりする効果があります(*5)ので、風邪の予防に有効であってもおかしくはありません。

そして最近、生後3カ月~18歳の子どもを、ビタミンCを摂取するグループとプラセボ(偽薬)を内服するグループに分け、上気道感染症(いわゆる風邪)の予防や治療に効果があるかどうかを確認した8研究(3135人)をまとめた研究(「メタアナリシス」といいます)の結果が報告されています。

その結果は「ビタミンCによる風邪の予防効果は認められない」というものでした(オッズ比0.75; 95%信頼区間 0.54~1.03; p=0.07)。一方で、風邪の期間は1.6日短くなったそうです(*6)。

つまり、ビタミンCで風邪予防はできませんが、「風邪の期間を短くするのに多少意味があるかも」くらいに考えて内服してもよいかもしれません。

ビタミンDは?

「ビタミンDは、呼吸器の感染症リスクを減らすのではないか」という多くの報告があります。ただ、この研究も結果はさまざまで、「効果がある」というものと「効果がない」というものが入り交じっています。

そして最近、0~95歳の幅広い人たちを対象に、ビタミンD(ビタミンD3/D2)を内服すると、どれくらい風邪を含む急性呼吸器感染症のリスクが変わるかを検討した25研究(対象人数計1万1321人)をまとめた結果が報告されています。

それによると、ビタミンDを内服すると急性の呼吸器感染症の発症リスクを12%低下させたという結果になっています。そして、この効果は、もともとビタミンDの血中濃度が低い人のほうが効果がよく出たということでした(*7)。

「12%」=約8人に1人ですから、ビタミンDも「多少」効果があるかも、くらいですね。

ちなみに、血中濃度が低い人のほうが有効性が高いということは、たくさん飲めばよいと考えがちです。実際はどうでしょうか。ビタミンDの内服量をテーマにした子どもに対しての検討があります。結果として、ビタミンDを2000IU/日内服(たくさん内服)するグループと、400IU/日内服(少なめに内服)するグループでの効果を比較しても差がなかったそうです(*8)。たくさん内服すればよいというわけでもないようですね。

プロバイオティクス(乳酸菌製剤)の効果は?

最近よく見かけるのが、乳酸菌製剤やヨーグルトなどのCMです。

乳酸菌は「プロバイオティクス」の1つです。聞き慣れない方もいるかもしれませんが、プロバイオティクスとは「宿主(この場合は人間ですね)に有益な効果をもたらす微生物」のことです。メカニズムは十分には分かっていないものの、免疫的な調整をするはたらきがあると考えられています。

プロバイオティクスが風邪を含む急性呼吸器感染症を予防するかどうかを検討した23研究(6269人)をまとめた結果が発表されています。

すると、プロバイオティクスを内服したグループは、少なくとも1回の急性呼吸器感染症にかかるリスクが11%減ったという結果でした。そして、プロバイオティクスを内服したグループは、プラセボを内服したグループよりも急性呼吸器感染症にかかった日数が少なく、保育園・幼稚園や学校を欠席した日数も少なかったそうです(*9)。

いくらかの効果は期待できるかもしれませんね。

写真:PIXTA

しかし、プロバイオティクスの研究で問題点として指摘されるのは、プロバイオティクスの種類、内服方法、内服量などが研究ごとにばらばらで、何を内服すればよいのかがはっきり言いにくいことです。

ですので、「○○菌が効く」というCMに関しては、やや話半分に聞きつつ、でも普段の食生活にヨーグルトを積極的に取り入れるなどする程度はしてもよいかもしれませんね。

ただ、風邪の回数が減るとはいっても11%ですので、実感はしにくいかもしれません。「効けばうれしい」くらいのスタンスでよいのではないでしょうか。

ビタミンCやD、乳酸菌より有効なのは……

さて、ビタミンC、ビタミンD、プロバイオティクスとご紹介してきましたが、実はもっと効果がはっきり出やすい方法があります。それは「しっかりした睡眠」です。

たとえば、21~55歳の成人153人に対し、14日間の睡眠時間と実際にベッドで寝ていた時間(睡眠効率)を確認したうえで、風邪の原因としてもっとも多いライノウイルスに実際に感染させて風邪症状を発症するかどうかをみたという大変な方法で行われた研究があります。

すると、睡眠時間が7時間未満だと、8時間以上の睡眠をしている人に比べて2.94倍も風邪をひく可能性が高くなり、そして睡眠効率が92%未満だと、98%以上に比較して5.50倍も風邪をひくリスクが高くなったのだそうです(*10)。相当な差ですよね。

新型コロナに関しても、中国で新型コロナに感染した成人203人と感染しなかった成人228人のライフスタイルを比較した研究があります。

すると、運動をあまりしていなかったり、座りっぱなしの生活習慣だったり、過労があったりすると新型コロナに感染しやすくなり、さらには睡眠不足があると重症化のリスクが8.6倍になったという結果でした(*11)。

風邪もコロナも予防には運動・睡眠・食事のバランス

さて、ビタミンCやビタミンD、プロバイオティクスと風邪に関しての解説をしてきました。これらを飲んでいけないわけではありませんが、過剰な期待は禁物なようです。

結論としては、「これを内服していれば感染しない」ではなく、適度に運動をして睡眠を十分に取り、バランスのよい食事をするというしごく当たり前の"健康的な生活習慣"が、風邪や新型コロナ感染を避けるために重要なのではないかなということでしょう。

まだしばらくは、コロナ禍が続くと思われます。3密を避けてマスクを適切にし、手洗いをしつつ、無理をせず感染リスクを減らす活動が続けられたらと思います。

*1:岡部 信彦. 【子どものかぜ薬 何がホント?】総論 かぜって何? そもそも「かぜ」とは何なのか…. チャイルド ヘルス 2015; 18:718-20.
*2:Heikkinen T, Jarvinen A. The common cold. Lancet 2003; 361:51-9.
*3:Jones N. How COVID-19 is changing the cold and flu season. Nature 2020; 588:388-90.
*4:Nutrients 2020; 12:1718.
*5:Antioxid Redox Signal 2013; 19:2068-83.
*6:European journal of clinical pharmacology 2019; 75:303-11.
*7:Bmj 2017; 356:i6583.
*8:Jama 2017; 318:245-54.
*9:Wang Y, Li X, et al. Probiotics for prevention and treatment of respiratory tract infections in children: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Medicine 2016; 95.
*10:Cohen S, et al. Sleep habits and susceptibility to the common cold. Arch Intern Med 2009; 169:62-7.
*11:Huang B, et al. Reduced Sleep in the Week Prior to Diagnosis of COVID-19 is Associated with the Severity of COVID-19. Nature and Science of Sleep 2020; 12:999.

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東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター 小児科 助教

堀向 健太 先生

2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初の保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症予防に関する介入研究を発表。Yahoo!個人オーサー(2020年MVA受賞)。2016年、ブログ「小児アレルギー科医の備忘録」を開設し、これまで1200本以上の論文を紹介。医学雑誌で年間20本程度、さらに複数の医療サイトで年間30本程度の医学関連記事を執筆。Twitterでのフォロワー7.5万人。Instagramのフォロワー1.9万人。