地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 耳鼻咽喉科 主任部長
アレルギー性鼻炎は患者数が増えている病気です。鼻水、くしゃみ、鼻づまりの症状があり、血液検査もしくは皮膚の検査で確定診断されます。アレルギー性鼻炎症状が特定の季節に起こる場合は、花粉が原因であることが多く、その場合は「花粉症」と呼ばれます。一方、1年中症状がある方は「通年性アレルギー性鼻炎」と呼びます。こうした鼻炎症状を引き起こす原因の多くはダニで、その他に動物やカビ(真菌)なども原因となります。鼻炎症状が続くと睡眠障害、学習・仕事の能率の低下、嗅覚障害などを引き起こし生活の質(QOL)を低下させることが知られています。重症化する前に治療をすれば、そうした問題を回避できます。
「ずっと鼻がつまっています。つまっているのが普通になっているので特に困っていません。薬を飲んでもあまり効きませんし……」30代男性、Aさんは別の症状で受診された際に鼻の粘膜が腫れていることを指摘され、このように答えました。
10歳男児Bくんは、常に口を開けていて鼻呼吸ができていません。さらにぜんそくもあります。鼻炎に対して薬の治療を続けていますが、薬をやめると症状が悪化するため、数年来ずっと薬を飲んでいます。保護者の方が症状の改善を希望して受診されました。
通年性アレルギー性鼻炎の主な原因であるダニは年中身の回りに存在していますが、秋になると悪化します。なぜでしょうか。
ダニが生きていく条件は
――といわれています。
気温や湿度の条件から、アレルギーを引き起こす原因となる「抗原物質」の主要生産者チリダニの数は1年のうち8月に最も多くなり、気温や湿度が下がり始める9月以降の秋はその死骸や糞に含まれるタンパク質からなるダニの抗原成分が最も多くなります。秋に飛散するブタクサ、ヨモギなどの花粉症を疑われる患者さんの中に、実はダニによるアレルギー性鼻炎の方が含まれているのです。
ダニ抗原は鼻から侵入してアレルギー性鼻炎を起こすだけでなく、気管支ぜんそくやアトピー性皮膚炎の原因の1つと考えられていて、さまざまなアレルギー疾患を引き起こすことがあるので注意が必要です。
それではどのようにダニアレルギーの治療をおこなったらよいでしょうか。
最も重要なのは、できるだけダニ抗原の量を減らすことです。例えば▽ていねいに掃除機かけをする▽部屋の温度・湿度を調節する▽布団をこまめに干して、防ダニカバーを使用する▽布団に掃除機をかける――などです。
これですべてのダニを駆除することはできませんが、ダニの量を減らすと症状は軽く済むと考えられます。
現在、ダニによるアレルギー性鼻炎に対して最も行われているのは薬による治療で、抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイド薬(ステロイド点鼻薬)、抗ロイコトリエン薬などがよく用いられています。ただし、これはあくまで症状を抑えるだけの対症療法で、症状に合わせ薬品を組み合わせて処方します。通年性の方で重症になると、1年中薬を手放せないことになります。鼻の症状が軽いうちに受診し、正確に診断を受けることが重要です。
アレルギーの体質そのものを変える治療法として、花粉症治療の回(「花粉症の根治目指す治療 今開始はNG」)で説明した「アレルゲン免疫療法」があります。最近、舌下免疫療法として舌の下に錠剤を置く治療が行えるようになりました。ただし通年性アレルギーで、この治療ができるのは血液検査もしくは皮膚の検査でダニのアレルギーがあると診断された方だけです。そのほかの原因抗原では、今のところできません。
抗原に体を慣らしていくため、少量から徐々に増量していきます。毎日の服用が必要で、期間は3~5年間続けることが推奨されていています。
冒頭で紹介したAさんのように、長い間ダニアレルギーと“共存”してきて症状に慣れてしまい、自分では「困っていない」と思い込んでいる方も多く見受けられます。そのような方でも、実は睡眠不足になったり、嗅覚が落ちたりしていることがあるのです。ところが、そうした問題に気づかないため治療も受けておらず、たまたま受診した際に見つかることも多いのです。鼻づまりがあっても病院には受診せず、代わりに「連用してはいけない」と記載のある市販の点鼻薬を連用。かえって薬剤性の鼻炎を発症して鼻づまりを悪化させてから受診される方もおられます。
症状が軽いうちであれば適切な薬剤でコントロールが可能です。また、Bくんのようになかなか薬がやめられない場合は、舌下免疫療法を考慮します。特にお子さんがダニアレルギーを発症すると、成人まで症状を持ち越すことが多くみられます。舌下免疫療法はおおむね5歳から可能ですので、症状の改善だけでなく将来的なことも考え、治療の相談をされることをお勧めします。
薬物の治療などを行っても鼻の粘膜の腫れがもとに戻らない場合は、手術を考慮することもあります。外来で行うレーザー手術から、入院で行う内視鏡手術まで方法はさまざまです。それぞれに利点と欠点があり、医療機関で診断を受けたのち、医師と相談することをお勧めします。「症状は今までもあったからこのままでもよい」と思い込まず、一度病院を受診してみてください。
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