検査をしてもとくに病気がみつからないのに、鼻やのどの不快感が続くという方が、特に中高年に多くいらっしゃいます。治療をしても改善が見られず、深刻に受け止めてしまうケースも。こうした症状は、鼻が本来持っている機能の衰えに起因していることがあります。その場合は深刻に受け止めすぎずに自宅でもできる簡単な方法を試してみると、症状が緩和され快適な生活を取り戻すことができるかもしれません。
「始終のどの奥に鼻水が落ちてきて、どろっとして気持ち悪いんです。何とかなりませんか」。60代の女性、Aさんは、困った表情で受診されました。鼻水がのどに常に流れるため、気になってずっと口からティッシュに出しているようです。
70代の女性、Bさんのお悩みは「花粉症の季節は鼻水が止まらない。それなのに鼻水が治まると今度は鼻が乾燥してしまいます」という症状。困って受診されました。
のどの症状で受診された50歳代女性、Cさんは「のどのつまり感と不快感が何年も続いていて、何かできているのではないか」と心配になり、いくつかの医療機関を受診されたのですが解決しなかったため、当院へ受診されました。
このような症状を訴える患者さんの診察では、まず詳しい問診を行います。症状が起こったきっかけがないかなどを重点的にお聞きします。
次に行うのが、このような症状を起こす疾患がないかどうかの検査。鼻の代表的な病気である「副鼻腔炎」や「アレルギー性鼻炎」、さらには感冒(風邪)、咽頭(いんとう)の炎症や腫瘍などないか調べます。具体的には、器具を使って鼻の中を目視する「鼻鏡検査」▽鼻から咽頭、喉頭まで観察する「ファイバースコープ検査」▽副鼻腔(ふくびくう=鼻の奥の頭蓋骨内にある空洞)のレントゲンやCTなどの画像検査――を行います。アレルギー性鼻炎が疑わしい場合は、アレルギーの原因物質に反応があるか血液検査などをします。
普段息をしているときに意識することは少ないでしょうが、鼻は単なる空気の通り道ではなく、
――などさまざまな機能があります。これらについて詳しく見ていきましょう。
加温については、例えば外気温(吸気の温度)が22~25℃だと、鼻に入ってきた空気は、気管に達するころには37℃前後まで上がります。これには鼻粘膜にある静脈洞という太い血管を流れる血液が、吸気を温めることに関与していると考えられています。
また、外気の湿度が35%程度であっても、鼻腔(鼻の内部)を通ることで下気道に達するころには95~99%にまで加湿されることが知られています。
鼻腔から分泌される水分量は毎日変化していますが、約1Lあるとされ、そのうち鼻腔内で加湿に使う水分は約700mLといわれています。鼻腔の内部は粘膜で覆われ、乾燥した空気は粘膜から分泌される水分を利用して湿度が上がるよう作用します。逆に息を吐く時には、湿度の高い空気が鼻を通過する際に徐々に冷やされることで、呼気中の水蒸気が細かな水滴になって鼻粘膜に付着し次の吸気の際に加湿するために使われます。
鼻から異物、ウイルス、アレルギー物質などが侵入すると、最も大きなものは鼻毛で捕捉されます。鼻毛を切りすぎると大きなゴミが鼻の中に入ってきて、鼻粘膜を傷める結果になりますので切りすぎないように注意してください。さらに12.5μmより大きい粒子は、鼻粘膜を被う粘液層に吸着されます。ちなみに、スギ花粉の直径は30μmですから、その半分以下のものまで除去されます。粘膜にとらえられた異物は鼻粘膜の表面にある微細な繊毛の機能により後方に流れていきます。この流れは平均6mm/分です。この繊毛運動は外から入ってくる異物や細菌などを、“相手を選ばずに”捕捉・処分する「非特異的防御機能」ということになります。
いうまでもなく、においを感じ取るということですが、こちらについての詳細は別の機会に述べたいと思います。
「鼻からのどにかけて、鼻水が流れる」というのはだれにでもある症状です。
上で説明したように、鼻腔内は、常に湿った状態に保たれ、入ってきた異物を粘液で包み込んで繊毛によって輸送し、のどへ排泄(はいせつ)しようとする機能があります。
ですので、鼻水がのどに流れるというのは生理的な機能で、これを「後鼻漏(こうびろう)」といいます。通常は、無意識に飲みこんで食道から胃に流れているのですが、量が多くなったり粘りが強くなったりすると、後鼻漏を自覚したり不快に感じたりします。
その原因が副鼻腔炎などの疾患であれば、抗菌薬などの投薬治療を行うことで多くの場合は症状が軽減します。ところが、副鼻腔炎などの所見がないのに治療に反応がなく、症状の軽減が見られない症例にたびたび遭遇します。
疾患の原因を何度精査しても異常が認められないにもかかわらず、冒頭の3人の患者さんのように「のどに鼻水が流れる」「鼻水が止まらない」「鼻が乾燥する」「のどのつまり感、不快感」などの症状が続く場合があります。
なぜそのような症状が起こるのでしょうか。
それには、加齢が関係しているのです。人間だれしも、年を重ねるとさまざまな機能が衰えてきます。前述の加温・加湿機能、フィルター機能、嗅覚も例外ではありません。
こうした機能が衰えると、どうなるかを考えてみましょう。
まず加温ができなければ鼻の中の温度が低下し「鼻からのどへ冷たい空気が流れる」ということが起こります。加湿機能が低下すると「鼻が乾燥する」という症状が起こりえますし、加湿・加温の調節がうまくいかないと「水鼻が止まらない」ということになります。またフィルター機能が衰えると「異物の排泄機能が低下することになって感染などがおこりやすくなり、鼻腔粘液は増加し粘度が増す」ことになります。この鼻水がのどへ流れると不快な症状となります。
検査で明らかな異常を認めない場合、機能の低下による症状も考えられます。その場合には、手軽で簡単な対処法があります。
加温・加湿機能を補うために有効な方法の1つは、鼻の上に暖かく蒸したタオルを5分間載せておく方法です。加温・加湿効果が期待できることに加え、リラックスできることで症状が和らぐことがあります。さらに適度な運動を試みたり規則正しい生活を送ったりすると、自律神経の機能低下を防ぐことができ、鼻の症状も緩和されることが期待できると思います。
今回述べたような症状で困っておられる方は、意外と多いものです。
Aさん、Bさん、Cさんもさまざまな治療法を試していましたが、症状が改善せず治らない病気ではないかと思いこんでいました。そのように症状を深刻に受け止めてしまうと、かえって病状を悪くするケースも見られます。
温かいタオルを鼻に載せるというような簡単なことで、症状が消失することがなくても緩和されると安心感も生まれます。自身の現状を受け止め、機能低下を補うよう試してみることで、よりよく快適な生活を送れるようにしたいものです。
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