連載耳鼻咽喉科医に聞く とおりのいい“鼻し”

花粉症の根治目指す治療 今開始はNG

公開日

2019年03月13日

更新日

2019年03月13日

更新履歴
閉じる

2019年03月13日

掲載しました。
Fbb4083dba

地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター  耳鼻咽喉科 主任部長

川島 佳代子 先生

花粉症は、現在では国民病といわれるほど患者数が多いとされています。鼻汁、くしゃみ、鼻づまりという3大症状に加え、眼のかゆみや充血を起こすことが多く、症状がひどくなると睡眠障害や学習・仕事の能率低下などを引き起こし、生活の質を低下させることが知られています。日本では、春先にスギ花粉、ヒノキ花粉が大量に飛散し強い症状を引き起こします。従来は症状を抑えるだけの対症療法のみでしたが、最近になって根治も目指せる薬が登場しました。でも、治療には少し注意が必要です。

「花粉の季節が怖い」男性の問い合わせ

「毎年花粉症の時期が恐ろしいです。鼻がつまって、眼がかゆくてたまらないです。薬を飲んでもあまり効きません」。40代男性、Aさんは花粉症でとても困っているのでなんとかしてほしいと訴えました。毎年3月、4月は鼻がつまって眠れなくなり、反動で日中に眠気を催すとのことでした。

「根本的に治す方法はありませんか? 先日テレビで『舌下免疫療法』という治療法の特集を見ました。それだと花粉症が治る可能性があるんですよね。ぜひ今日からでもお願いします」

Aさんが見たという舌下免疫療法は、確かに花粉症が根治する可能性があります。しかし、残念ながら花粉症がつらい時期に始めることはできないのです。

眠そうな男性

従来の薬では根治できない

現在、花粉症に対しては薬物療法が主となっています。使われる薬は、花粉が体内に入った時に免疫反応で放出されくしゃみなどを引き起こす化学物質をブロックし、体に作用するのを抑制しています。一方で、免疫反応そのものを変えることはできないため、根本的な治療にはつながらないのです。

これに対し、舌下免疫療法を含む「アレルゲン免疫療法(減感作療法)」は、アレルギー体質そのものを変える治療法です。どのような治療かを理解するためにまず、花粉症の仕組みを知っておきましょう。

花粉症のメカニズム

そもそも花粉症とは、決まった季節におこるアレルギー性鼻炎のことです。

私たちの体は、花粉などの異物が体内に侵入すると、まずそれを受け入れるかどうかを考えます。そして、受け入れがたい異物=アレルギー物質(アレルゲン)であると判断すると、対抗するための「抗体」をつくり粘膜などにある細胞に結合します。この準備段階を「感作」と言います。感作された状態でふたたび花粉が入ってくると、異物に反応して抗体が結合した細胞から「ヒスタミン」などの化学伝達物質が放出され、神経や血管、分泌腺に働きかけ、くしゃみ、鼻水、涙、鼻づまりといった症状が出るのです。こうした免疫システムの過剰反応をアレルギーといいます。代表的なアレルゲンとしてはスギやヒノキなど植物の花粉、ダニなどがあります。

アレルギー体質変える「アレルゲン免疫療法」

従来の薬物治療が対症療法であるのに対し、体質そのものを変えるのがアレルゲン免疫療法です。アレルゲンを体内に投与し、体を慣らすことで症状を和らげることを目指します。加えて、従来の薬の減量や、花粉による小児アレルギー性鼻炎の患者さんでは気管支ぜんそくの発症予防なども期待できます。アレルギーのある人は反応する抗原が増えていく(アレルギーの対象が増える)傾向がありますが、この治療を受けると抑制される効果も認められています。海外の研究では、治療を終了してからも効果が持続することが報告されています。

この治療法はもともと、アレルゲンを皮下に注射する方法で行われていました。その後1980年代から海外で、アレルゲンを舌の下に投与する治療法が行われるようになりました。これが「舌下免疫療法」です。皮下注射よりも有効性と安全性に優れ、自宅でもできるといったメリットがあります。

日本でも2014年に保険適応になり4シーズンが経過しました。この間に発表された複数の論文で、スギ舌下免疫療法によって症状の改善がもたらされたと報告されています。

当初、薬は液剤でしたが、昨年から錠剤による治療も保険適応になりました。錠剤は持ち運びが簡単で、常温で保存でき、有効性も液剤より高い結果が示されました。そのため新たにスギの舌下免疫療法を開始する際は、錠剤が推奨されています。

今のところ対象はスギ花粉とダニだけ

ここまで読んで「そんなにいい治療法があるなら今すぐにでも始めたい」と思った方もいるかもしれません。ですが、舌下免疫療法を始められるのは花粉飛散シーズンが終わってからなのです。なぜかというと、花粉が飛んでいる時は、アレルゲンに対する体の反応性が過敏になっているために副作用が起こりやすくなると考えられているからです。

また、舌下免疫療法で治療できるのは、日本では今のところスギ花粉とダニアレルギーだけです。

スギ

具体的にはどのように治療するのでしょうか。

スギ花粉以外のアレルゲンに反応している場合には治療はできません。ですから最初にするのが、アレルギーの原因が本当にスギ花粉かどうかの確認です。血液検査や皮膚の検査でスギ花粉症と診断されたら治療スタート。投与方法は舌の下に錠剤を数分置き、完全に溶けた後に飲みこみます。アレルゲンの量は少量からスタートし、徐々に増量します。

万が一、重篤な副作用が起こった場合でも対処できるよう、初回は病院で服用後30分様子をみます。開始当初は口の中のかゆみや腫れなどが起こりますが、1カ月程度で治まります。理論的にはアナフィラキシーといった全身的な副作用が起こる可能性がありますが、頻度は非常にまれといわれています。

長期の取り組みが必要

長期的な効果を期待するならば3~5年間、継続することが望まれます。服薬は毎日確実に行うことが重要。とびとびになると有効性も低下するとされており、長期間にわたりしっかり取り組まなければなりません。加えて、月に1度は通院も必要です。

治療をしても効果のない人が1割程度いるといわれています。薬が効くかどうか、事前にわかる検査はありません。実際に行ってみて有効かどうかを定期的に評価していきます。薬にかかる費用としては1カ月1300円程度(3割負担の場合)で、月単位で見ると従来の薬とほぼ変わりませんが、治療中は通年で必要になります。

効果を実感、感謝の言葉も

これまでなじみがない治療で、効果が出るかもわからず長期間続けないといけないということで、開始をためらう方も多いかもしれません。当センターを受診する方でも初めから希望される方ばかりではなく、毎年の症状に困っておられる方などにこちらから勧めることもあります。

いざ始めてみてスギ花粉の時期になり、効果が実感できるようになると「始めてよかった」とおっしゃる方が多いです。患者さんから「今年はいつもの薬がいらなくてすみそうです」「毎日よく眠れます」という言葉を聞くこともあります。これからも、必要な方にはどんどん取り入れていきたいと思っています。

いつも花粉症の症状で困っておられる方、従来の治療に満足されていない方は、今年の花粉シーズンが終わったら、ぜひ舌下免疫療法を検討してみてください。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。