夏も終わりに近づき、秋の気配を朝晩感じるようになりました。それとともに台風シーズンも到来、天候不順が続きます。そうしたことも影響し、季節の変わり目は免疫が不安定になります。夏の暑さをやっと乗り越え、心身の疲労を感じる時期です。弱った体は“外敵”の攻撃にも脆弱(ぜいじゃく)になりがち。この時期は“夏が置き忘れた風邪”にも、まだ注意が必要です。
3歳の娘が手足口病と診断された数日後に倦怠(けんたい)感と発熱があり、手の小水疱(すいほう)にも気が付きました。翌日には足、さらに口唇へと皮疹が拡大したため、自宅近くのクリニックで受診、対症加療(症状を緩和するための治療)をしていましたがかゆみが止まらないと、39歳の男性が受診されました。感染の機会もあり、全身症状と典型的な皮疹も見られたため、男性も手足口病と診断するのは容易でした。
この男性のケースでは、アレルギーなどのかゆみ止めとして通常使用される抗ヒスタミン剤の内服では強いかゆみを止めることが困難だったため、より強力なステロイド剤の内服併用が必要でした。皮疹は全身に広がり、重症化して皮疹が消えるまで11日間の加療が必要でした。
朝起きたところ全身の関節痛と倦怠感があり、翌日にはかゆみのない皮疹が手、さらに上肢、口唇、口腔(こうくう)内へと広がったという47歳女性のケースです。初診時の血液検査で白血球の低下や高いリウマチ反応、膠原病(こうげんびょう)の患者に見られることが多い「抗核抗体」も陽性だったことなどから自己免疫疾患も疑われました。一方、手足口病の感染機会はない方でしたが、ウイルス検査では2種類の原因ウイルスについて高値を示しました。過去の感染による高値の可能性もありましたが、経過と臨床所見から手足口病と診断して対症加療をしました。それに加えて、血液検査異常と関節痛に対しステロイド剤の内服をしてもらったところ、今回はウイルス感染が原因だったため関節痛は投薬後に明らかに改善しました。一方、皮疹が消えるまでには12日を要しました。
手足口病に加え、ヘルパンギーナ、プール熱(咽頭<いんとう>結膜熱)をまとめて「子どもの3大夏風邪」といいます。このうち、今年は手足口病が大流行しました。手足口病は、最近では2011年、13年、15年、17年と隔年で大流行する傾向にあり、今年も大流行が懸念されていたのです。そして、懸念された通り、国立感染症研究所(感染研)の集計では今年は6月23日までの1週間で、定点当たりの患者数が国の警報基準を超え、その後も患者数は増えてこの夏は過去10年で最悪レベルの流行になりました。
手足口病患者の大半は5歳以下の幼児で、口や手のひら、足の裏などに米粒ほどの小さな水ぶくれができるのが特徴です。感染研はそれに加えて今年の特徴として、39℃以上の高熱が出る点を挙げていました。子どもがかかっても比較的軽症のことが多いのですが、大人がかかった場合には重症化します。熱は発症後、数日で回復することが多いようですが、まれに脳炎など重い合併症を引き起こすケースもあります。
原因となるのは主に「コクサッキーウイルスA6」「同A16」「エンテロウイルス71」で、まれに「コクサッキーウイルスA10」によるものもあります。あるウイルスにかかれば、そのウイルスに対する免疫ができて生涯同じウイルスで発症することはありませんが、他のウイルスへの感染は防げません。手足口病の原因ウイルスは流行する年によって異なりますから、異なるウイルスによって何度もかかる場合もあります。また、同じ年に異なるウイルスが原因で複数回発症することもあります。感染研のウェブサイトには流行している病原体や日本全国での発症状況などさまざまな情報が掲載されていますので参考にしてください。
感染経路としては患者のくしゃみなどのしぶきによる飛沫感染、水疱の内容物や便に排出されたウイルスが手などを介し口や目などの粘膜に入って感染する経口・接触感染が知られています。予防のためのワクチンはありませんので、拡大を食い止めるためには集団での感染対策が必要になるのです。
手足口病には今のところ特効薬はなく、治療はかゆみがあれば抑えるなどの対症療法になります。まず大切なのが、栄養と水分の摂取です。手足口病になると、口の中にできた水疱が痛むため、飲食が困難になります。刺激にならないよう柔らかめで薄味の食べ物を勧め、脱水症状を来さないような全身管理が必要とされます。発熱に対しては通常解熱剤なしで経過観察が可能ですが、元気がない▽頭痛▽嘔吐(おうと)▽高熱▽2日以上続く発熱――などの場合には髄膜炎、脳炎などへの進展の可能性もありますから、慎重な対応が必要です。発疹にかゆみなどを伴うことはまれで、抗ヒスタミン剤を内服・外用することはありますが、通常はステロイド剤の内服・外用はされないとされています。ただし上記男性の症例のように異常なかゆみを訴えることもあり、そうした際には例外的にステロイド剤を使用することもあります。
感染研などの発生動向調査によると、今年7月は過去の流行時より患者報告数が多くなりましたが、8月になり急激に減少してきています。ただ、2017年の流行時には、1度減少した報告数が9月に再上昇したという前例もあり、気は抜けません。直接乳幼児との接触がなくても飛沫感染しますので、「自分には感染機会がない」と油断は禁物です。季節の変わり目の免疫状態が不安定な時期には、各自が体調管理に気を付けてください。
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稲田堤ひふ科クリニック
稲田堤ひふ科クリニック勤務。専門は皮膚アレルギー、特殊外来でアトピー性皮膚炎と接触性皮膚炎診療を担当する。「化粧品は皮膚を守るもの」をモットーに、肌荒れをしていても化粧をやめない、乾燥を予防するスキンケアを推奨しており、子どもから大人まで幅広い年代の女性患者が受診している。