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「接触」していなくても現れる金属アレルギー…夏は特にご用心!

公開日

2019年07月22日

更新日

2019年07月22日

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2019年07月22日

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東邦大学医療センター大森病院皮膚科 臨床教授

関東 裕美 先生

間もなく梅雨明け。夏本番も間近です。暑い夏、こまめに拭かずに汗を放置しておくと、お肌が潤っていると思いきや実は、皮膚を守るための水分が蒸発して逆に乾燥してしまいます。乾燥でバリア機能が落ちると、かぶれや感染症が起こりやすくなります。暑い夏は皮膚トラブルが多くなり、皮膚科が混雑するシーズンなのです。そんな患者さんの中には、汗が原因と思ったら実は金属アレルギーだった……というケースもあります。

「仕事中のゴム手袋」で手に発疹?

28歳の助産師Aさんは、「手指の間の発疹がかゆくて困っています。仕事では感染予防などのためゴム手袋を頻繁に使い、汗をかくと発疹が余計悪くなってきました」と受診しました。Aさんは手袋が合わないのかと思い、別種の手袋に替えてみましたが、症状は変わらず困っているそうです。

診察すると、手のひら側は指の付け根のところに皮膚が赤くなった「紅斑」と、角質細胞が細かくはがれた「鱗屑()(りんせつ)」がみられます。さらに、一部はかきこわしてただれて、じっとりと湿った状態になる「湿潤」もありました。

金属アレルギーの手の様子
「全身型金属アレルギー」で皮膚炎症が現れた患者さんの手=筆者提供

症状やお仕事の状況から手袋による接触皮膚炎を疑い、持参された手袋と、関連する素材がアレルギーの原因物質(アレルゲン)となっていないか、資料を肌に貼って判定する「パッチテスト」を実施してみました。また、Aさんの指の間にかゆみのある小さな水疱()(すいほう)が多数見られたため、金属アレルギーの疑いもあり、金属アレルゲンも貼付しました。その結果、使用していた手袋、ゴム、ビニールの全てで反応が現れない「陰性」でしたが、ニッケルとパラジウムに対する金属アレルギーがあることが分かりました。

Aさんの皮膚炎の原因は、手袋ではなく「自身の汗」だったことが判明したのです。手袋は安心して使用できますが、「汗をかきやすい時期には、ニッケルを多く含む食品の過剰摂取でかゆい汗が出ますよ」と指導しました。

食べ物以外の原因として、歯科の保険治療では金銀パラジウム合金が使用されることが多いので、炭酸やかんきつ類、酢などの摂取が多いと詰め物やかぶせ物として使われている歯科金属が口腔()(こうくう)内で溶け出し、汗とともに流れ出す可能性があります。

“犯人”は汗に含まれる金属イオン

Aさんのような金属アレルギーは「全身型金属アレルギー」といい、上述のように歯科金属や食事の影響で生体内の金属イオンバランスがくずれ、汗の中に溶け出た金属イオンによって起こります。脇の下や乳房下、足の付け根などの皮膚同士がこすれあう部分から全身に広がります。金属製品との接触がないのに、汗がたまりやすい部分に皮膚炎が起こり自分の汗でかぶれたように思える皮膚症状が起こるので、全身型金属アレルギーは「内因性アトピー性皮膚炎」としても理解されるようになってきています。

夏は汗でかぶれると感じている方の中には、全身型金属アレルギーが原因という可能性もあるので注意しましょう。

接触部分に現れる金属アレルギーも

「全身型」のほかに、金属アレルギーには「接触アレルギー」もあります。これは、汗で製品から金属が溶け出て皮膚表面から吸収された金属が原因となってアレルギーの反応が起こります。

人間の皮膚は、金属に直接触れてもアレルギー反応を起こしません。ところが、汗や唾液などで金属が溶けて“金属イオン”になると話は別です。金属イオンは「ハプテン(不完全抗原)」と呼ばれる接触アレルゲンとなって表皮から体内に入り込み、花粉のようなたんぱく質などとは異なる経路でアレルギー反応を起こします。

汗をかきやすい夏には皮膚表面で金属がイオン化しやすく、過剰に擦ったりかいたりして皮膚のバリアが壊れるとイオン化した金属が皮膚に吸収されやすくなります。加えて細菌感染も起こりやすい季節ですから、感染が加わることで金属アレルギーを発症する率が高くなってしまうのです。

皮膚組織を貫通するピアスが、金属アレルギー発症要因としてリスクが高いのは周知の事実です。欧米では装飾品への配合が規制されたことからニッケルアレルギーは減少したのですが、日本では規制がないので金属アレルギーがいまだに増加しているようです。

必要に応じて金属パッチテストも

金属アレルギーを診断するには、慎重な問診と症状の表れ方などの観察が必要です。接触アレルギーの場合は、例えばピアスのような原因製品と、ピアス部のかぶれといった皮膚症状の関係が明らかならば容易に診断できます。

一方、高齢化社会に対応する現代医療では、歯科治療や人工関節置換術などによって体内に金属が埋め込まれる治療も増え、生体内の金属イオンバランスの崩れが引き金になる全身型金属アレルギーも知られるようになりました。ただ、金属アレルギーが成立していたとしても個々人の免疫状況によって、発症リスクがそろわなければ皮膚症状は出ません。知らないうちに金属アレルギーが成立している可能性がありますので、高齢者が治療などで生体内に金属を挿入する必要がある場合は、術前の金属パッチテストを要請に応じて実施しています。

生活上で注意すべき点は

発汗時期に金属アレルギーが判明した患者さんには、次のように具体的な注意をするようにしています。

1)歯科金属との関与――口内炎アフタ(粘膜の潰瘍)ができていないか?

歯科金属周囲にできている時には、酸を取りすぎていないかを自身でチェックします。また、炎症が起こっていないかどうか歯科医を受診してください(炎症があると金属が溶出しやすい)。

口腔内の症状がひどい時には歯科医院でアレルギーの原因となる金属を除去し、別の安全な素材に置き換える治療が必要になることも。ただし生命維持には金属は必要ですから、歯科金属除去をしても金属アレルギーが完治するわけではありません。

2)食事との関与――玄米食や、香辛料やナッツ、豆類をとりすぎていないか?

金属を多く含む食材

皮膚症状がひどい時には上記の表を参考に生活指導をしますが、体に必要な食品ばかりですからバランスよく食べることが大事です。禁煙指導をし、便秘薬(大黄末)については他剤に変更します。

夏のお肌はリスクがいっぱい

金属アレルギー以外にも、皮膚の弱い乳幼児や高齢者はあせもが多発して膿瘍(のうよう=重症おでき)ができることがあります。虫刺されをかきこわして化膿することもありますし、他人に感染する伝染性膿痂疹()(でんせんせいのうかしん=とびひ)を繰り返して何度も抗菌薬のお世話になることもあるでしょう。さらに、身の回りの製品に含有される種々の化学物質が溶け出して接触皮膚炎(かぶれ)を起こすのも夏に多くみられることです。特に擦れやすいような部位に接触する眼鏡、衣類、靴、装飾品、化粧品などはご注意を。多くの植物が成長する季節でもありますから、草取りや庭木の剪定()(せんてい)をする際にはかぶれにも注意が必要――と、夏のお肌はリスクがいっぱい。汗をこまめに拭く、虫よけを上手に使うなどの自衛を心がけてください。

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東邦大学医療センター大森病院皮膚科 臨床教授

関東 裕美 先生

所属する東邦大学医療センター接触皮膚炎外来において、年間200例以上の接触皮膚炎診療を行う。なかでも化粧品による皮膚炎の診療数は関東随一で、幅広い世代の女性に絶大な信頼を寄せられている。「化粧品は皮膚を守るもの」をモットーに、肌荒れをしていても化粧をやめない、乾燥を予防するスキンケアを推奨する。