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連載「発達障がい」だって大丈夫

発達障がいを「障がい」でなくす方法

公開日

2019年05月13日

更新日

2019年05月13日

更新履歴
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2019年05月13日

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国際医療福祉大学病院 小児科 部長・病院教授

門田 行史 先生

発達障がい」という言葉をよく聞くようになりました。ただ、認知度が上がったからといって、それにともない正しい知識が広まったというわけではないようです。発達障がいとは何か、そして本人や周囲はどうすれば「生きづらさ」を軽減できるかを正しく知ることが大切です。

落ち着きのないわが子への不安

市町村が実施する3歳児健診の結果を持った両親と来院した3歳の男の子。次年度に入園予定の幼稚園体験入園で1人落ち着きなく動き回り、先生の声かけに反応しないわが子を見てママが心配になり、健診の心理相談で保健師に話してみたそうです。健診結果には「全体的な発達の遅れ(言葉の遅れ、落ち着きがない)」と書かれ、発達障がいを疑って専門医を受診するよう勧められました。

外来で男の子は、マイペースに動き回る▽視線を合わせることが少ない▽会話してくれない――という傾向が見られました。パパは「小さいころの俺もやんちゃだったし、似たのかな?」と、あまり気にしていないようです。一方のママは「しつけの問題なら、対応を教えてください。最近、叱ってばかりなんです……」と、終始心配そうに子どもの様子を見ています。

発達障がいの症状と原因

「発達」とは、身体的な運動の発達(立つ、歩く、走るなど)だけでなく、言葉など精神面の発達、社会性の獲得など多様な側面を持ちます。発達障がいの症状である「発達の遅れ」には、言葉の遅れ▽コミュニケーション能力の低さ▽不器用▽学習困難▽不注意――などがあります。

他の病気と異なり、「しつけの問題」「本人の努力の問題」として考えられやすいのですが、実際には生まれつきの脳の機能異常が原因とされています。

本人が発達の遅れを取り戻したくても、すぐに結果を出すのは非常に難しい状態にあります。周囲や本人が頑張りすぎると、失敗経験が増えてしまい余計にうまくいかなくなります。周囲は、良かれと思って指導や促しをしますが、なかなか結果が出ず、その結果、何度も強く叱ってしまいます。一方、本人も最初は頑張りますが、失敗が重なると意欲が低下し、その結果、できていたこともうまくいかなくなる▽時にはうそをつかざるを得えない状況に追い込まれる▽周囲の人々との距離を置く――などの悪循環に陥ることがしばしばあります。

「頑固な傾向」は相談を

発達障がいを早期に発見し、診断することは、本人の特性理解や支援・治療に重要です。早期発見につながるキーワードが以下のような「頑固な傾向」です。

  • 頑固な傾向は小さいころから続いている。
  • 頑固な傾向は家だけでなく外(学校、職場、外出先)でもある。
  • 頑固な傾向は頻度が多い
  • 頑固な傾向で年々困るようになっている
  • 頑固な傾向で起きた困ったことを隠したりうそをついたりせざるを得なくなっている

ここでいう「頑固」とは「頑固な風邪のせき」と言う時と同じように、「時と場所を選ばずに何度も繰り返し出る」ことを意味します。個人差はありますが、このような頑固な傾向があり、困っている場合は発達障がいの症状である可能性があります。

大人と同様、子どもにも損得勘定はあると思います(個人差はありますし、個人的な見解です)。例えば、幼稚園や学校で、先生や友達、親から賞賛されたい。「そのために(得するために)、どんな行動を選択すべきか」あるいは「叱られないために(損をしないために)、どんな行動を選択すべきか」について、日々、子どもながらに考えています。

頑固な症状は、そうした損得勘定があるにもかかわらず、出てしまう症状なのです。その場合、本人こそが、頑固な症状を消したいと日々考えています。そこに周囲の大人が叱るだけの行動を選択すると、子どもの自尊心は低下し、同時に、大人との信頼関係はなくなっていきます。

手をつなぐ親子

“困難さ”があるとき「障がい」に

ただし、「年齢に見合わない発達の“遅れ”がある」ことだけでは「障がい」とはなりません。その遅れが原因となり、学校、家庭、仕事場で“困難さ”を生じたときに「障がい」となります。ですから「今までは困っていなかったので障がいではない」という場合もあります。

発達障がいは幼少期~学童期に診断されるケースが主ですが、思春期や成人になって初めて診断される人も少なくありません。特性はあるが困らない状況であれば、障がいに含まれない可能性があります。「去年は困っていたから障がいだけど、今年は困らないので障がいではない」と考えられることもあります。ですから、本人の工夫、周囲の支援や治療により「遅れはあるけれど困らない」状態を作るためにベストを尽くすことが大切です。

発達障がいにとっての“マスク”は

風邪でせきが出て困っている人に「せきを止めなさい」と言うことは少ないと思います。「仕方ないのでマスクをしましょう」とか、静かにしなければならない状況ではせきが止まるまで別の部屋にいて収まったら戻る、といった工夫をするでしょう。つまり「病気なのだから症状が出るのは仕方がない」と考えられるのです。

ところが、発達障がいは、周囲も本人も、症状を消そうと努力してしまう傾向があります。せきが出ている人がマスクをすれば、本人は学校、家庭、職場で困らずに生活できます。発達障がいの対応で、この“マスク”とは何でしょうか。

それぞれの障害の特性

一口に発達障がいといっても、そこにはさまざまな疾患が含まれます。代表的なものとして注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障がい(LD)があり、症状の特徴は異なりますが図のように重なり合う人も少なくありません。ですから、“マスク”もそれぞれの特徴に合ったものにする必要があります。

自閉スペクトラム症のケース(60点~80点を目指す、許す)

ASDは特徴の1つに「感覚の過敏さ」があります。例えば音に対する過敏さを持つ子どもは、大きな音や特定の音に対して過敏になります。音楽の時間にピアノの音がつらくて、もじもじしたり泣いたり離席したりしてしまうなら、耳栓やヘッドホンをして音楽の授業に出られれば合格でいいのではないでしょうか。ピアノの演奏がない時だけ参加するのも合格にしたらどうでしょうか。その間は音楽以外の授業にでることをOKとすることもできるかもしれません。「みんなが音楽の授業に出ているのだから出席しなければいけません」「過敏さを克服しなさい」と100点を目指すのではなく、60~80点がとれたら「頑張ってできてすばらしい」と言ってあげるなどの声かけが大事です。

ADHDのケース(できたときにこそ褒める)

ADHDの人には次のような特徴があります。

  • 不注意(集中できない)→人の話を聞かないで上の空
  • 多動・多弁(じっとしていられない)→椅子に座っているときにぐずる

その逆に、人の話をしっかり聞くことができたり、椅子におとなしく座っていることができたりしたときにしっかりと褒めてあげましょう。

発達の遅れがあっても学校、家庭、職場で本人が困らないようにするためには、ハードルを下げる、褒める、ということが大切です。これが“マスク”の役割を果たします。

発達障がいの人は意図的に症状を出しているわけではなく、自分のそういった症状に嫌悪感や罪悪感を持っていることがしばしばあります。彼ら、彼女らは好んで発達障がいになったわけではないことを理解しましょう。

脳の成熟が症状を軽減

前述のように、発達障がいでは脳、その中でも「前頭前野」という部位の働きが重要とされます。人の脳(皮質)の約30%を占め、思考する、行動を我慢する、記憶する――などを担い「人間らしさの中心」ともいわれます。脳の中でも最も成熟するのに時間を要し、24歳くらいまでかかるとされます。

発達障がいではそうでない人に比べてさらにゆっくりと成熟すると考えられていますが、それでも9~12歳ごろに成熟が活発になります。それにともないADHDでは多動・衝動性が9歳ごろから軽減、ASDでは12歳ごろからそれまでに分からなかった相手の気持ちが分かるようになるなどの変化があります(ただし、ここにも個人差はあります)。

一方で、それまでの自分の失敗などを振り返ったり理解したりできるようになり、急に落ち込むようになる人もいるので注意が必要です。

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国際医療福祉大学病院 小児科 部長・病院教授

門田 行史 先生

日々、子どもの心の診療に関わる診療に携わる中で、『発達障害の診断や治療に役立つ客観的検査法の開発』という着想に至り、約10年間にわたり脳機能研究を続けている。中央大学理工学部をはじめとする複数の施設との医工・多職種連携から生み出された研究成果は複数のジャーナルや複数のメディアで紹介されている。現在、国際医療福祉大学病院の小児科部長として小児一般診療に従事しながら、社会実装を念頭に置いた臨床研究を目指し、特許出願やアウトリーチ活動をすすめている。自治医科大学とちぎ子ども医療センター 准教授、中央大学研究機構 客員准教授。 (門田研究室ホームページ:http://ped-brailab.xii.jp/wp/)