新型コロナウイルス感染症の拡大防止を目的として、全国的に療育やリハビリなどの発達支援事業の縮小や休止が余儀なくされています。また、全国緊急事態宣言が出されて以降、子どもたちの学びの場での活動も制限されています。そのような中、家にいる子どもたちや大人をサポートできないかと、国際医療福祉大学病院の作業療法士(リハビリテーション室小児チームの小林岳先生)とアイデアを出し合い、家庭でもできる「不器用さ」克服の練習法を作成しました。キーワードは「つまずきやすい動きだけに注目する」です。
お子さんに、小学校就学までにはさみや箸を上手に使えるようにさせたい、小学校低学年までに縄跳びができるようにさせたい、と考えている家庭は多いと思います。ただ、心身の発達がゆっくりな場合、子どもの「不器用さ」に対して、親が「繰り返し何度も練習しなさい!」と一生懸命練習させても、なかなか結果が出ないことがあります。
はさみや箸を使いこなす、縄跳びを続けて跳べるようになる。そのためには、手指や足を連携して器用に動かす訓練が必要です。
大人が教える場合、「とにかく何度も何度も(全ての動きを)練習をすればできるようになるはず」と思い、一生懸命教えよう、鍛えようとします。ところが、実は非常に高いハードルを設定してしまい、結果的に子どもがうまくできるようにならないということをしばしば経験します。例えばはさみを使いこなすのは、「はさみを持つ」「はさみを開く」「物を切る」「利き手以外の手で切るもの(紙など)を支える」などの複数の動きを同時に行うことで初めてできることです。大人にとっては簡単で、意識せず連続的にこうした動作ができますが、不器用さのある子どもは、このうち1つまたはいくつかの動作がうまくできなかったり、それぞれの動作を連動させることができまかったりしてつまずいてしまいます。ですから、その子どもが“全ての動き”を何度も繰り返し練習することは、非常に高いハードルになります。
作業リハビリの視点では、動きを分けて練習します。そして、上手になろうとする運動のなかの「つまずきやすい動き」に注目します。
以下にはさみ、箸、縄跳びについて、作業療法リハビリテーションで訓練するときの具体的な方法を紹介します。ただし、子どもの発達により効果は異なりますので、以下の訓練をすれば必ずできるようになるというものではありません。
はさみを開くためには手指を伸ばす動作を上手にする必要があります。ほかの動作は休憩して、開く動作だけに注目しましょう。子ども用サイズのはさみを準備し、場合によっては(刃を開く動作を介助してくれる)「介助はさみ」を使用しても良いと思います。開閉動作自体は繰り返しの練習により会得できるお子さんが多いと思います。
物を切る感覚をつかむことを苦手とするお子さんが多いと思います。そこで、「切っている感じ」を感触できる物で練習をしてみましょう。
例えば、最初にストローから始めて、次に厚紙で練習します。慣れてきたら、普通の紙(コピー用紙や折り紙のように、形状が変化しやすい薄い物)に挑戦させます。
この順番で練習をするとうまくいくことが多く、当院で採用しています。特にストローと厚紙での練習には時間をかけます。「どの角度ではさみを入れると切れるのか」ということを学んでもらう目的があります。また刃の向きを変えずに1回で切りきれる幅で練習することが重要だと思います。普通の紙まで切れるようになったところで、子どもが好きなものに挑戦してもよいでしょう。自信がついてきたら、次のステップに進みましょう。
はさみを持っていない非利き手で切るものを動かすことも重要です。2)までを上手にできるようになった後に、両手を使わないとうまく切ることのできない幅の広い紙で練習します。複雑な図形を切る必要はありません。太く見やすい、直線を切る練習をしましょう。お子さんの非利き手に介助者が手を添えながら、両手を使用する習慣を身につけていきます。
箸を使う(箸を把持する)動きは、手指のさまざまな運動の中で、最も難易度が高いと思います。スプーンやフォークを使用して食事ができるようになった後、箸の練習をするのが、遠回りにみえて近道です。ここでも、箸を上手に持つための動きの中で、「つまずきやすい動き」に注目して訓練します。
5本ある手指をそれぞれ別々に動かす運動(指の分離運動)と、指と指で輪っかを作るような運動(指の対立運動)は特に重要となります。これらの動きの訓練で、最初は箸を使う必要はありません。指先を使うおもちゃ(ブロックや積み木、携帯型ゲームなど)で遊びながら準備をする方が効果的です。
慣れてきたらいよいよ箸の練習です。まずは介助箸を使用し、箸を使うことに慣れていきましょう。その後、介助箸と普通箸を7:3くらいのイメージで使用すると良いと思っています。ここが特に時間を割きたいタイミングです。いきなり食べ物をつまむ訓練は必要ありません。スポンジなど柔らかく、つまみやすい物で練習し、成功体験を積んでいくことも必須だと思います。スポンジをうまくつまめるようになったら、練習に使用したスポンジと同じくらいのサイズに切り分けた食事で挑戦です。
食事でもうまくできるようになってきたら、普通箸と介助箸を併用(5:5くらいのイメージ)、最後に完全に普通箸に移行します。初めは茶碗を持ちながら訓練する必要はありません。非利き手を使用しながら(茶碗を持ちながら)の箸の使用は更に難易度が上がります。ハサミの訓練とは異なり、まずは箸を持つ動きのみに注目しましょう。
縄跳びも、何度も跳んでうまくなるのを待つのではなく、「つまずきやすい動き」に注目しながら楽しく訓練しましょう。
両足で毎回同じようにジャンプすることが苦手でうまくいかない子どもたちが、実は多いのです。その場合は、同じ場所でつま先を地面につけたまま伸び上がるように跳び続ける練習から始めましょう。その際、地面にテープなどで目印をつけ、遊びを通して練習できると良いです。縄を持たせる必要はありませんが、腕に力が入りすぎないようにリラックスしてジャンプできるようにしましょう。この練習は、縄跳びの安定性につながります。
腕を後ろから前に動かす動作を苦手な子どもが多いです。ここでもまだ縄は持たず、両腕を同時に後ろから前に動かすことができるか確認しましょう。難しそうな場合は、サッカーのスローインのように頭部の後ろからボールを投げる練習などをすると良いと思います。その後、タオルなどを使用して片手ずつ縄のように回す練習をしましょう。
上記の1)と2)ができてから、いよいよ縄を持った練習をします。とはいえ、いきなり跳ぼうとしてもうまくいきません。「縄を回すタイミング」と「ジャンプするタイミング」を練習する必要があります。ここが一番難しいところです。
まずは縄をまたぐ練習をします。歩きながらでよいので、縄を後ろから前に送り、またぎましょう。その後、ゆっくりと両足ジャンプで越える練習などを積み重ねていくと良いと思います。この練習を繰り返すと、「縄を回すタイミング」と「ジャンプするタイミング」を効率よく訓練できます。
以上のように、行動(作業)を分けて訓練するのが作業療法リハビリテーションの基本です。不器用さを持つ子どもたち、ご心配されているご家族の助けになれば幸いです。
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自治医科大学附属病院 とちぎ子ども医療センター 准教授
日々、子どもの心の診療に関わる診療に携わる中で、『発達障害の診断や治療に役立つ客観的検査法の開発』という着想に至り、約10年間にわたり脳機能研究を続けている。中央大学理工学部をはじめとする複数の施設との医工・多職種連携から生み出された研究成果は複数のジャーナルや複数のメディアで紹介されている。現在、国際医療福祉大学病院の小児科部長として小児一般診療に従事しながら、社会実装を念頭に置いた臨床研究を目指し、特許出願やアウトリーチ活動をすすめている。自治医科大学とちぎ子ども医療センター 准教授、中央大学研究機構 客員准教授。 (門田研究室ホームページ:http://ped-brailab.xii.jp/wp/)