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連載「発達障がい」だって大丈夫

発達障がいの子どもが“結果”を出せる 「戦略的ハードル設定」とは

公開日

2019年08月01日

更新日

2019年08月01日

更新履歴
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2019年08月01日

掲載しました。
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国際医療福祉大学病院 小児科 部長・病院教授

門田 行史 先生

発達障がいを「障がい」でなくすためには、「ハードルを下げる」「褒める」ことが大切であることを前回、説明しました。「ハードルを下げるといっても、具体的にどのようにしたらよいかわからない」「それをやっても結果が出ないのであれば、解決にならない(将来自立できない)」と考える方も多いと思います。しかし、そんなことはありません。今回は本人や周囲の人々(養育者・教育者・医療者など)ができる“結果を出すためのハードルの下げ方”を紹介します。

ハードル下げ 不安で積極的になれないケースも

発達障がいの症状に「発達の遅れ」があります。実際には生まれつきの脳の機能異常が原因とされ、本人が遅れを取り戻したくても、すぐに結果を出すのは非常に難しい状態にあります。にもかかわらず周囲や本人が頑張りすぎると、失敗経験が増えて余計にうまくいかなくなり、頭痛・腹痛・めまい・睡眠不足といった体の症状が現れるほか、登校渋り・不登校に至るケースもあります。このような場合に“ハードルを下げる”という対策が有効なことが多く、積極的に勧めています。

ところが、周囲の人たちは「許容や評価の水準を下げる」ととらえがちです。その結果、「養育者も本人も楽になるかもしれないが、許してばかりでは甘やかしになるのでは?」「社会に出て通用しなくなるのでは?」と不安を感じ、積極的になれないケースをしばしば経験します。

ハードルの高さ設定は「シェイピング法」で

ハードルの“高さ”は何を考慮して設定すればいいのでしょうか。

前回紹介したように、発達障がいの特性には時や場所を選ばずに出現してしまう「頑固な傾向」があります。「傾向」の現れ方は人それぞれで、得意(強み)と不得意(弱み)の差が大きいのが特徴です。

ところが、養育者・教育者は、弱みにばかり目を向け、一生懸命になるあまりに(無意識に)ハードルを上げ、それが子どもの負担になってしまう……という悪循環をよく目にします。支援にあたっては、強みと弱みに分け、個人の指標に合わせた目標を設定し、それを達成するためのハードル設定を行うという、“戦略的なハードル設定”が重要となります。

ハードル設定のイメージ

その方法として、アメリカの心理学者バラス・スキナーが開発した「シェイピング法」があります。比較的簡単にできる目標から始めて段階的に取り組み、最終的に課題達成を目指すやり方です。小さな目標から難易度を少しずつ上げながら1段1段上がっていけるよう、具体的なステップを設定していきます。すぐにできそうな小目標から導入するので成功する可能性が高く、“できた感”を大切にして本人のやる気を保つことができます。

シェイピング法のイメージ

この過程を踏むと、本人と養育者の共同作業により信頼関係が深まるケースが多いと考えられます。

戦略的ハードル設定とは子どもと養育者が、結果につながる小さな成功を踏みしめながらベストを尽くすプロセスです。私は外来でこのプロセスを「作戦会議」と呼んでいます。本人主体となるよう大人がサポートしながらご家族で、自発的に共同で「作戦」を立案。私たちからは子どもの特性から考えうる課題解決や悩みを乗り越える方法をアドバイスしています。

「戦略的ハードル設定」とはすなわち、作戦会議+シェイピング法によって成り立ちます。

「保健室登校」から教室へのステップ

私たちが国際医療福祉大学病院で実践しているシェイピング法の実例をご紹介します。

登校渋り・女子A子さん(12歳)

頑張って登校しようと努力するが、できなくなりました。夕方から夜にかけて、明日は学校に行くと言いますが、朝になると行けなくなります。学校のことを考えるとおなかが痛い、頭痛がする、夜眠れなくなり、その結果朝起きられません。自信がなくなり行き渋りがでてくることがあります。

また、学校に行くことはできても、「教室」に不安があり、保健室登校になるケースもしばしばみられます。

実例:

作戦会議:まずはできている保健室登校を一定の期間続けてみよう

1. 保健室の扉の前に立つ(今日から1週間は廊下を歩けそうでも、扉の前で立つということのみを継続する)

2. 保健室から1歩出る(休み時間ごとに1歩出ることを1週間継続する)

作戦会議:本人「そういえば、保健室から出たときに廊下を歩いていても怖くなくなってきた気がする」

3. 廊下を歩く(休み時間ごとに歩いてトイレに行くことを1週間継続する)

作戦会議:本人「廊下に出ていたら友達から誘われて、2階にある教室に行ってみてもよいかな? 怖いけど」。医療者「試してみて、できなかったら、廊下を歩くのをもう少し長く続けるか、別の目標を立ててみましょう。ひとまず教室のある階に行くことを目標にしてみましょう」

4. 教室のある階まで行く(休み時間だと他の生徒がいるかもしれないので、授業時間に行くことを1週間継続する)

5. 教室の前まで行く(授業時間に教室の前まで行くことを数回継続する)

6. 扉を開ける(放課後、他の生徒がいない状況で扉を開けてみる)

7. 入ってみる(放課後、他の生徒がいない状況で中に入ってみる。できれば椅子に座ってみる)

8. 放課後、教室の席に座り、できそうなプリントを1枚やってみる

――このケースでは、結果的には3カ月程度で一部の授業に参加できました。

お子さんのタイプにもよりますが、更に細かく段階付けをしたり、1~7に期間(いつまでに達成する)を設けたりすると、積極性が増すケースもありました。

特に意識しているのが、「目標立てと振り返り」です。個人に合った目標を立て、実際に行動しながら、振り返り・修正を加えていきます。

この過程を通して、実際に必要なスキル獲得・問題解消も目指せます。また、「自分はこれが苦手・これはできる」という自己理解や不安を言葉や文字にする事で、心的負担軽減につながるので便利な技法だと思っています。

ゲーム感覚で苦手意識を克服

書字が苦手・男子B君(9歳)

B君は発達性協調運動障がいと自閉スペクトラム症(ASD)で通院しています。

発達性協調運動障がいは生まれつきの脳機能障がいが原因で、「頑固な不器用さ」が特徴です。具体的には、書字の問題(筆圧が強い/弱い、枠からはみ出るくらい字が大きく/小さくなる)、手先の不器用さ、姿勢をキープすることが困難――などがみられます。また、学習障がいや注意欠如・多動症(ADHD)、ASDなどとの併存も多くみられます。本人は学校生活の大半で困難さを感じることが多く、書字の苦手さから、(2次障がいとして)登校渋りや不登校の原因となることもあります。

対策:

まず、作戦会議です。「君の不器用さは頑固なので、一緒に作戦を練らなければならない。どうしよう?」と、本人と養育者・教育者が相談。

本人から、

  • 書くよりも読む方が得意かな
  • 既に習った字は書きやすいような気がする
  • そういえば、ボールペンの方が書きやすかった!
  • 大きな字になってよいのなら書けるけどね

などの意見が出てきたとしましょう。

次に、シェイピング法を導入します。

目標を決める:書字の苦手意識を減らすことをゴールに一歩一歩進めてゆく

上記の対策を書面などにして、クリアしたらシールを張るなど、達成感を与えられる(ゲームをクリアしていく)ような方法をとる。苦手意識を減らす→その学習に取り組むのが楽しくなる→積極性を引き出す――という流れを意識して介入します。

当院では図のシートを使用することがあります。視覚的にも達成感を感じられるような方法もあるのではないかと思いました。これらは、もちろん、学校の先生との相談が必要です。

段階付のシート

作戦会議では、不器用さを克服しようとせずに話し合うことが重要です。作戦会議を進める過程で、子どもは、自主的に解決できる(特性と付き合える)能力がつきます。また、「自分の特性を否定せず、尊重してくれた!」と感じ、養育者・教育者と子どもの間に信頼関係ができます。まずは、家でのみ実践し、うまくいく場合に学校でも実践可能な方法を作戦会議するのもよいと思います。

「強み」を探して伸ばす

発達障がいは頑固な傾向があると紹介しましたが、この「傾向」は強みもあります。上記B君は、書字の苦手さを克服する過程でパソコンを使って文字を書かずに勉強する方法を見つけました。それだけでなく、頑固な傾向である「こだわり」を生かしてプログラミングを習得。今では全国大会で優勝するほどの実力の持ち主です。ほかにも私の外来では、4歳で言葉(日本語)の遅れがあるが英語は短期間でできるようになった男の子や、アイデアが次々と出て学級委員長として活躍している女の子もいます。発達障がいの当事者などが自身の強みについて執筆した本も最近よく見かけます。

本人も養育者も、弱みをなんとかしたいという思いから、強みを探す行動を忘れてしまいがちです。弱みによるストレスをカバーできる強みを探すのは、人生経験が少ない子どもたちよりも周囲の大人の方が得意かもしれません。強みに注目するイメージを持っていただくために、診療現場では「強みはハードルを上げて伸ばし、弱みは後からついてくる」――そんなことを説明することもあります。

「発達障がい」だって大丈夫の連載一覧

国際医療福祉大学病院 小児科 部長・病院教授

門田 行史 先生

日々、子どもの心の診療に関わる診療に携わる中で、『発達障害の診断や治療に役立つ客観的検査法の開発』という着想に至り、約10年間にわたり脳機能研究を続けている。中央大学理工学部をはじめとする複数の施設との医工・多職種連携から生み出された研究成果は複数のジャーナルや複数のメディアで紹介されている。現在、国際医療福祉大学病院の小児科部長として小児一般診療に従事しながら、社会実装を念頭に置いた臨床研究を目指し、特許出願やアウトリーチ活動をすすめている。自治医科大学とちぎ子ども医療センター 准教授、中央大学研究機構 客員准教授。 (門田研究室ホームページ:http://ped-brailab.xii.jp/wp/)