連載「発達障がい」だって大丈夫

子どもの言葉の遅れ~教えようとせず「今の言葉に注目」する

公開日

2020年01月30日

更新日

2020年01月30日

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2020年01月30日

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自治医科大学附属病院 とちぎ子ども医療センター 准教授

門田 行史 先生

自宅でできる!療育のコツ【1】

「子どもは1歳前後で意味のある単語を話し始め、1歳半を過ぎると語彙(ごい)が増え、次第に2語文、3語文を話すようになる」――言葉の発達について、育児書などはおおむねこのように書かれているものが多いようです。ただ、心身の発達と同様に言葉の発達がゆっくりな子どももいます。健診などで「言葉の遅れ」を指摘されたら、親は一生懸命言葉を教えようとしますが、なかなか伸びないことがあります。言葉の発達を助けるには、実はコツがあります。キーワードは「今の言葉に注目する」です。

3歳で2語文が出ない…

3歳の男の子。「ママ、パパ、ブー」など単語は少し増えたけれど、2語文以上を話しません。「○○ちゃん、こっちにおいでー」に反応するので、意味の理解はできているようです。3歳児健診で「言葉が遅れています」と言われてさすがに焦りを感じたご両親。「これは何? あれは何?」などと質問したり、絵本を読み聞かせたり、いろいろやってみましたが言葉が伸びず、「どうしたらいいのだろう」と途方に暮れています。

「教えても伸びない」2つの理由

大人が子どもに教える場合、

  • (大人が)知っていることを教えながら言葉を増やしてあげたい
  • (大人が)今興味を持っていることを教えながら言葉を増やしてあげたい
  • (大人が)大切だと思っていることについての言葉を増やしてあげたい

――といったように、“大人中心”=一方通行となり、(1)子どもが興味を持てない教え方(2)子どもにとって難しすぎる教え方――になってしまうことがあります。

子供に言葉を教える方法

それぞれを具体的に説明しましょう。

図(1)-A子どもが興味を持てない教え方になってしまう

これは、子どもがブロックで遊んでいるときに色紙を見せて色の名前を教えようとするといったケースです。

ブロックも色紙も「遊び」ではありますが、子どもにとって今の興味の対象がブロックならば、色紙に興味を示さないことがあります。特に子どもは切り替え(この場合、ブロック遊びをやめて=切り替えて、色紙で遊ぶこと)が苦手です。また、切り替えができなかった場合に、ブロックの色について聞かれているのか、色紙の色について聞かれているのか混乱してしまうことも。結果的に、子どもにとってその時に興味がないことでは、言葉が学びづらくなります。

図(2)-A子どもにとって難しすぎる教え方になってしまう

例えば、まだ単語しか出てこない子どもに「ママがおもちゃであそぶ」のような3語文を教えようとすると、難しすぎて理解できず、したがって習得もできないことがしばしばあります。

こうした問題を回避し、効果的に子どもが言葉を習得するようになるにはどうすればいいのでしょうか。そのコツが、冒頭でお示しした「今の言葉に注目する」です。上の(1)(2)の状況でどのようにすべきかを考えましょう。

「言葉を教える」から「今の言葉に注目する」に変える

図(1)-Bブロックのおもちゃで遊んでいる子どもが発する言葉をキャッチする

「ブロック」と言ったら、その後に「ブロック」と繰り返す

「赤(のブロック)」といったら、その後に「赤」と繰り返す

図(2)-B単語は話せるが、2語文が出ない子どもに対して

「ママ」といったら、その後に「ママ」と繰り返す

このように、今の言葉に注目してその言葉を繰り返す場合、その言葉は子どもにとって今、興味があるもので、教え方としても難しすぎることはありません。非常に簡単で、「繰り返すだけでいいの?」と思われるかもしれませんが、子どもにとっては、自分が話した言葉を復習できる機会が得られることになります。また、子どもは大人が寄り添ってくれていると感じて、もっと上手にたくさん話そうと考えるという相乗効果が期待できます。図A(1)(2)とB(1)(2)では、主導権(リードをとる人)が大人か子どもか、という点に大きな違いがあります。Aは大人が始めに反応して、子どもが反応する、Bは子どもが反応して、大人が反応する、ということです。療育では、子どもが主導権をとる(リードする)ことを大切にします。この、繰り返すという技法は、子どもの反応の後に大人がついてゆくことができ、効率よく子どもに主導権を与えながら言葉を練習することができると考えられています。

この、繰り返す、という技法は、「PCIT(Parent Child Interaction Therapy;親子相互交流療法)」という行動療法で使われている技法(注1)や、「インリアルアプローチ」という治療的アプローチで使われているモニタリング法(注2)を参考にしています。

戦略的にハードルを上げるために「繰り返す+α」

前々回(発達障がいの子どもが“結果”を出せる 「戦略的ハードル設定」とは)ご説明したように、「ゴール」を目指すには、すぐにできる小目標を設定し、1つ1つ達成しながらステップアップしていきます(シェイピング法)。この時、子どもの特性に合わせて各段階の目標を設定します。私たちはこれを「戦略的ハードル設定」と呼んでいます。

言葉の習得にもこれを応用し、繰り返す技術が身についてきたら「+α」にも挑戦しましょう。子どもの言葉は発達に応じて、喃語(なんご)→単語(有意語)→2語文→3語文……とレベルアップします。この傾向に着目して、戦略的にハードルを上げる、すなわち、子どもの今の発語に着目して、さらにレベルを把握します。そして、子どもが発した言葉を1つレベルアップさせて繰り返す(+α)ことで、言葉の能力を劇的に伸ばします。

例えば、

  • 喃語を言ったら⇒単語を繰り返す:子どもが「ブー」と言いながら車のおもちゃを持っていたら、その後に「クルマ」と繰り返す。
  • 単語⇒2語文を繰り返す:子どもがブロックを持ちながら「ブロック」と言ったら、その後に「ブロックを持っている」と繰り返す。

同様に「2語文⇒3語文」で繰り返すこともできます。繰り返す+αは言葉の習得に非常に有効ですが、難しい表現を使ってしまうことがあるため、まずは繰り返しを練習しましょう。この繰り返し+αは、PCITにおいて使われている「言い換える」という技法、インリアルアプローチの「エキスパンション」という技法を参考にしています。

おもちゃで遊ぶ子ども

発語のない時は「今の動き」に注目する方法も

「子どもが何も言わずに遊んでいる時はどうしたらいいのでしょうか?」という質問をいただくことがしばしばあります。そんな時は、今の「動き」に注目する方法を紹介しています。

子どもの行動を見ながら「○○ちゃんが、青いブロックを持っています」といったように話しかけます。

スポーツなどの実況中継に似ていますね。これは子どもが話していないときでも使える優れものです。表現が難しくならないように工夫しながらアナウンサーになったつもりで実況中継しましょう。

実況中継は、PCITにおいて『行動の説明』という技法を参考にしています。

こんな時は病院に受診しましょう

言葉の発達には個人差があり、遅れていても後から伸びてくることも多くありますが、健診で指摘されたり、言葉の遅れで子どもが困っていたりする時は病院に受診しましょう。

言葉の遅れの原因として、発達障がいの中では知的障がい、自閉スペクトラム症などがあります(連載第1回「発達障がいを『障がい』でなくす方法」で図示した「それぞれの障がい特性」をご覧ください)。また、難聴も原因となることがあります。今回紹介した言葉を伸ばすための方法=「今の言葉に注目する」は、発達障がいが主因であればどの原因においても利用できる便利な方法です。ただし、それぞれの原因に対する支援や治療が重要となります。

 

注1:PCIT(Parent Child Interaction Therapy;親子相互交流療法)とは、幼い子どものこころや行動の問題育児に悩む親(養育者)の両者に対し、親子の相互交流を深め、その質を高めることによって回復に向かうよう働きかける行動科学に基づいた心理療法です。今回参考にした「繰り返す」「言い換える」「行動の説明」は、PCITにおいて、親子の間で温かい関係を作るためのスキルとして紹介されています。本記事の著者である門田は、PCIT International 認定セラピストです。興味のある方はこちら<http://pcit-japan.com/>にアクセスください)。

注2:インリアルアプローチ インリアル;INREALとは、Interreactive learning and communicationの略です。子どもと大人の相互交流から学習やコミュニケーションを促進するアプローチです。Weiss(米コロラド大学)らによって開発された方法です。学校・医療・福祉など、さまざまな現場で実践されています。当院のリハビリでも利用されているアプローチ方法です。

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。

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自治医科大学附属病院 とちぎ子ども医療センター 准教授

門田 行史 先生

日々、子どもの心の診療に関わる診療に携わる中で、『発達障害の診断や治療に役立つ客観的検査法の開発』という着想に至り、約10年間にわたり脳機能研究を続けている。中央大学理工学部をはじめとする複数の施設との医工・多職種連携から生み出された研究成果は複数のジャーナルや複数のメディアで紹介されている。現在、国際医療福祉大学病院の小児科部長として小児一般診療に従事しながら、社会実装を念頭に置いた臨床研究を目指し、特許出願やアウトリーチ活動をすすめている。自治医科大学とちぎ子ども医療センター 准教授、中央大学研究機構 客員准教授。 (門田研究室ホームページ:http://ped-brailab.xii.jp/wp/)