新型コロナウイルス感染症特設サイトはこちら
連載「発達障がい」だって大丈夫

「戦略的ハードル設定」のコツ 「心」ではなく「行動」に着目

公開日

2019年11月07日

更新日

2019年11月07日

更新履歴
閉じる

2019年11月07日

掲載しました。
Abf8803329

国際医療福祉大学病院 小児科 部長・病院教授

門田 行史 先生

発達障がいの子どもが「困る行動」をしてしまったとき、「どうして?」と聞いてただそうとしてもうまくいかないことがしばしばあります。それは、周りの大人はもちろん、本人にも「なぜか」が分からないからです。ではどうすればいいでしょうか。コツは「行動に注目する」です。

小学校入学から半年 授業中に動き回ってしまうのは…

小学校に入学して半年が経過。幼稚園の時よりも動き回ってしまうように感じる。授業が始まると同時に椅子から立ったり、また座ったり……。「どうして学校のルールが守れないの?」「いやなことがあるなら教えて」と、先生も子どもに寄り添いますがうまくいきません。両親も「何度も言い聞かせているのによくならない。やはりしつけの問題なのか……」と悩んでいました。

「心だけに着目」では解決できないことも

「なぜ落ち着かないの?」「何度もだめって言っているでしょう!」――。

誰しも幼いころ、このように言われた経験があるでしょう。子どもがルールを守らない(守れない)行動をした場合に、大人は「子どもの心」に問いかけます。ここでの「心への問いかけ(心だけに着目)」とは、困る行動をしてしまった理由を明らかにしながら反省させ、次から同じ行動を減らせるよう努力させようとすることです。その結果よい行動が増え、ルールの大切さを理解できるならば、この「問いかけ」は子どもの成長・発達に必要です。

しかし、発達障がいによる「頑固な傾向」が原因で起きている行動に対しては、結果を出すのが難しい状況をしばしば経験します。なぜでしょう。

連載第1回(「発達障がいを『障がい』でなくす方法」)で、発達障がいは生まれつきの脳機能の障がいによって、頑固な傾向が表れること▽頑固な傾向は、本人も出したら損をするとわかっているにもかかわらず頻回に出てしまうこと――を紹介しました。困る行動を出したくないのに出てしまう。その時に、大人から「心への問いかけ」があったとしても解決できないことがしばしばあります。解決できずに失敗経験をくりかえしてゆくと、「どーせ私はできない」「大人は私を理解してくれない」と考えるようになり、悪循環に陥ります。こういった悪循環は二次障がいと呼ぶことが多いです。

着目対象を「心」から「行動」に

目標設定の様子

図のように、「心(Why)」に着目した場合、脳の機能障がいで起きている症状では、行動の理由が説明できないことが多く、前に進みません。一方で「行動(When、Where、How)」に着目した場合は、本人も周囲の人も説明することができるので、簡単に目標設定ができます。また、行動だけに注目することで「善悪」などをひとまず脇に置いて冷静に作戦会議ができるメリットもあります。

「どうしてそのような行動が起きてしまうの?」という問いは「心への問いかけ=Why」です。これを、動きにだけ着目して、

  • When:いつ起きますか?
  • Where:どのように起きますか?
  • How: どのくらい起きますか?/どうしたら増えますか?/どうしたら減りますか?

――などと置き換えるのです。そのうえで、前回(「発達障がいの子どもが“結果”を出せる 「戦略的ハードル設定」とは」)ご説明したように子ども本人と大人が話し合い(作戦会議)、すぐにできる小目標を設定しながら、ゴールを目指します(シェイピング法)。これを「戦略的ハードル設定」と呼んでいます。

ゴールまでの具体的なステップ

冒頭で紹介した、頑固な症状として授業中に動き回ってしまうことがある(多動)子どもを例に、どのように「行動に注目」してゴールを目指すのかを考えてみましょう。

まずは、

Why(どうしてそうなる? なぜルールを守れない?)から入る、子どもの心への着目をいったん休憩し、行動に着目します。

  • What:何が起きる?→席を立つ/教室の中を歩く
  • When:いつ?→1限目が多い
  • How:どのように?→授業が始まると10分くらい
  • How:どうすると悪くなる?→その場にいさせられると/チャイムの音と号令があると/国語の時間に多い
  • How:どうすると良くなる?→少し時間がたつと/静かになると(算数の授業の最初にある一斉課題など)

――このように着目点を変えて問題を明確にしたら、次は本人主体の作戦会議。目指すゴールは「多動・衝動性を少し減らして授業に参加する」ことです。

子ども:最初の10分はあきらめる

先生:最初の10分はその教科の課題を別のスペースでやる

医療者:最初の10分は耳栓をする?(第1回で説明した「発達障がいにとっての“マスク”は」をご参照ください)

――などのアイデアが出ました。

ここで戦略的ハードル設定を行います。その際、すぐにできることを考えるのがコツです。

ステップ1:「最初の10分は別の部屋で別の課題をし、その後にクラスへ戻ってくる」を1カ月続けることになりました。

ステップ2:1カ月後、それまでと同様に作戦会議をして、動いてしまうことが多くなる国語以外の授業は、最初から参加するようにしました。

ステップ3:その後、いくつかのハードル設定をしながら少しずつできることを増やし、現在は、算数の授業は最初の10分、計算ドリルを別室で自主学習し、その後授業に参加しています。また、他の教科は普通に参加できるようになりました。

このように子ども本人も周りも、「行動」に着目して結果を出すことに集中できると、頑固な傾向を軽減して、その場で求められている結果を出しやすくなる確率が高まります。また、作戦会議をするなかで、子どもと周囲の大人との信頼関係ができます。

注意点として、子ども本人が「授業中に動き回らない方がよい」ことを理解できる発達年齢や知能であることが前提となります。もし子どもが理解していない場合は、動き回らない方がよいことを大人がわかりやすく説明することが重要です。

考える子供

「技術」がついてくることも

この過程で、子どもに技術もついてきます。心技体の「技」です。

「相変わらず授業中にそわそわしちゃうけど、足だけ動かしていれば何とか授業に参加できるよ」「ちょっとつらくなったら『教室から出たいです』と先生と交渉してるよ」

――少しだけ動く、交渉する、という技術は人生経験が必要ですから、じっくり年齢と共に成長します。作戦会議を踏まえて経験を増やすと、技術はおのずと増えてゆきます。また、小さいころからどれだけ作戦会議の経験があるかによっても異なってきます。行動に注目して二次障がいを抑え、自分で周りの方と作戦会議を開けるように外来では家族と話をしています。

テレビ電話で学校現場を支援

上述のようなステップを踏むためには、家族と病院だけでなく、「学校と病院の連携」が不可欠に思います。そこで、私が勤務している栃木県那須塩原市にある国際医療福祉大学病院と市教育委員会は、今年度からWEB相談外来を開設しました。これは、家族の同意のもと、作戦会議やその対策を協議するために、学校現場と病院の外来をインターネットテレビ電話で結び、発達障がいの子どもたちへの対応を会議する場となっています。画面を見ながら協議をするので、画像を提示しながら具体的な支援ができます(この取り組みは、那須塩原市のみで実施されています=2019年11月現在)。

モニター画面越しで作業療法士と患者さんの担任の先生が会議をする。発達障がいの症状への具体的な支援方法をジェスチャーを交えながら、時にはホワイトボードを使用して図示しながら説明している=筆者提供

 

今まで当院では、学校の先生が医療者へ相談を希望する場合、病院へ来る必要がありました。WEB相談外来では、そのために費やされた多くの時間が解消でき、医療者と教育者が通常業務をスムーズに行いながら発達障がいの支援に従事できるようになりました。

「発達障がい」だって大丈夫の連載一覧

国際医療福祉大学病院 小児科 部長・病院教授

門田 行史 先生

日々、子どもの心の診療に関わる診療に携わる中で、『発達障害の診断や治療に役立つ客観的検査法の開発』という着想に至り、約10年間にわたり脳機能研究を続けている。中央大学理工学部をはじめとする複数の施設との医工・多職種連携から生み出された研究成果は複数のジャーナルや複数のメディアで紹介されている。現在、国際医療福祉大学病院の小児科部長として小児一般診療に従事しながら、社会実装を念頭に置いた臨床研究を目指し、特許出願やアウトリーチ活動をすすめている。自治医科大学とちぎ子ども医療センター 准教授、中央大学研究機構 客員准教授。 (門田研究室ホームページ:http://ped-brailab.xii.jp/wp/)