概要
自閉スペクトラム症とは、“広汎性発達障害”とほぼ同じ概念を指すものであり、自閉症やアスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害などを含む概念です。自閉症やアスペルガー症候群などには互いの境界線を引くのは極めて厳しいこともあるので、病気の一連の続きとして“スペクトラム”として捉えられています。
自閉スペクトラム症では、“臨機応変な対人関係が苦手で、自分の関心・やり方・ペースの維持を最優先させたいという本能的志向が強いこと”を特徴とする発達障害です。ただし、置かれた環境によっては自分の関心を押し通すことがポジティブに捉えられ、「ちょっと変わった人」とは思われながらもコツコツと仕事に従事する人とも認識されることがあります。しかし、不適切な環境では人間関係に支障をきたすことも出てきてしまい、自閉スペクトラム症が明らかになることもあります。
自閉スペクトラム症の人は一定数存在するとされており、具体的な数字としては人口の1~2%存在すると報告されています。現在調査中ですが、最新のわが国の研究ではさらに多く、3~5%程度という報告が出されています。また、男性のほうが多いとされています。
障害の特性は生後2~3年の幼年期に明らかになることが多いですが、知的発達の障害を伴わない場合や症状が軽い場合には、大人になってから初めて診断されることもあります。
自閉スペクトラム症は個性として捉えることも大切であり、本人や周囲の人が円滑に生活を送れるよう、特徴にあった工夫をしながら対応することが求められます。
原因
自閉スペクトラム症については、これまでのところ確実にそれと断定されている原因はありませんが、先天的な脳の機能異常により引き起こされていると考えられています。これまでの研究結果からは、遺伝的な要素が発症に関与していると推定されています。
さらに、自閉スペクトラム症になりやすい体質を持って産まれているお子さんもいると推定されていますが、何がきっかけとなって実際に“自閉スペクトラム症”を呈しているかは不明です。遺伝子的な側面以外にも、たとえば、母胎のウイルス感染症、環境中の化学物質などとの関係性を唱える人もいますが、どなたにもあてはまるような要因は明らかにはなっておらず、いずれの場合も議論の余地が残されているところです。
症状
自閉スペクトラム症は、1.対人交流とコミュニケーションの質が偏っていること、2.著しく興味が限局すること、パターン的な行動があることの2つの特徴によって形付けられる症状を呈します。
自閉スペクトラム症の人は、対人関係を築くことが苦手であり、人の気持ちを推し量ることが難しく1人でいることを好む傾向にあります。コミュニケーションの取り方にも特徴を見ることとなり、話し言葉の遅れやおうむ返し、言葉の意味を理解することが難しく言外のニュアンスを察知するのも苦手です。自分の置かれた環境に対してそぐわない丁寧すぎる言葉遣いや言葉のチョイスをすることもあります。また身振りや手振り、目の動きなどもコミュニケーションには重要な役割を果たしますが、これら非言語コミュニケーションの意味合いを正確に察知することも苦手です。
興味の限定も自閉スペクトラム症で見る特徴的な症状です。特定の物事に対して強い興味をもつ、特定の手順を繰り返すことにこだわる、手をひらひらさせるなどの常同的な動作を繰り返す、興味をもった領域に関してばかり膨大な知識を持つなどの特徴を挙げることができます。
検査・診断
自閉スペクトラム症の診断に際しては、症状を詳細に聴取したり行動を観察したりすることによってなされます。先に挙げたような特徴を有していないかどうか、幼少期からの状況や成育歴、集団生活における様子を含めての情報を集めつつ、心理テストなども交えながら診断を行うことになります。
治療
自閉スペクトラム症では、早期の段階でこだわりの強さといった個性を周囲が認識し、社会的な適応がスムーズにいけるように行うことが重要です。自閉スペクトラム症は個性の一種であり、置かれた環境によって大成功する人もいれば、逆に社会の中から孤立してしまい生きづらさを感じてしまう人もいます。前者の場合は“自閉スペクトラム”という個性でおさまる範疇とも捉えることができますが、後者の場合は“自閉スペクトラム症”に陥ってしまうことになります。自閉スペクトラム症の特徴を有する人がうまく社会に適応できるようになり、障害として認識されなくてもすむよう、早期発見からの介入を行うことが重要です。
早期発見を行うことで、親御さんを含めて、本人に対しての接し方が変化することが期待できます。その後、本人に対しての継続的な支援・療育を取り入れることが重要です。
生活に支障が出るほどの症状やその他の病気が並存している場合には、薬による治療が検討されることもあります。薬物療法で自閉スペクトラム症の特徴を根本的に治療することは難しいとされていますが、症状が落ち着くことで生活が送りやすくなる可能性があります。
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