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大人の自閉症スペクトラム障害の特徴である適応困難とは?〜特徴には男女で若干差がある〜

大人の自閉症スペクトラム障害の特徴である適応困難とは?〜特徴には男女で若干差がある〜
太田 晴久 先生

昭和大学 発達障害医療研究所 准教授

太田 晴久 先生

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自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)とは、対人コミュニケーションの問題やパターン化した興味や活動などを主な特徴とする発達障害の一種です。“自閉スペクトラム症”、“自閉症スペクトラム”と呼ばれることもあり、自閉症スペクトラム障害の中には“自閉性障害”“アスペルガー障害”などが含まれます。一般に自閉症スペクトラム障害は幼少期に診断されると考えられていますが、大人になってから病院を受診してはじめて診断されるケースもあります。では、大人の場合はどのような特徴が見られる場合に自閉症スペクトラム障害を疑うとよいでしょうか。

自閉症スペクトラム障害と診断される人の多くは男性ですが、女性が診断されることもあります。基本的な症状は男女で共通していますが、特徴には若干性差があることが指摘されています。以下では、大人の自閉症スペクトラム障害の特徴を男女それぞれに分けてお伝えします。

大人になって初めて診断を受ける方の大部分は知的障害を伴っておらず、高学歴であることも珍しくありません。受診するタイミングは、大学入学、就職活動、就労などでの適応困難がきっかけになることが多いです。適応困難の主な例としては、“人の気持ちにうまく共感できない”“冗談やたとえ話が理解できず、コミュニケーションに齟齬(そご)が生じる”などが挙げられます。基本的な会話は問題なくできていても、あいまいな指示への理解や言外の意味を読み取ることができないために、社会生活に困難をきたします。そのほかの特徴としては変化への弱さがあり、急な予定変更には対応できないことも挙げれます。

さらに適応困難が深刻化すると、不安・抑うつなど精神疾患を抱える場合や、家庭内暴力・引きこもりに発展する場合もあります。特に引きこもりは高校卒業、大学の入学、就職などライフステージの変化が著しい18〜20歳頃に始まることが多いといわれていますが、近年では中高年のひきこもりも問題視されています。

女性の自閉症スペクトラム障害は上述した男性と基本的な症状は変わりません。ただし、女性は男性と比べて症状が一見分かりにくいといわれています。これは、表情変化など表面に現れるコミュニケーションの問題が比較的目立たないことが多いためだと考えられています。しかし、本人はコミュニケーションの中で“話し出すタイミングが分からない”“どんな話をしたらいいか分からない”などのストレスを感じていることもあります。

女性の自閉症スペクトラム障害の特徴の1つとしては男性よりも軽症(非典型的)であることがありますが、当事者の苦悩も同様に軽いとはいえません。むしろ、男性の自閉症スペクトラム障害よりも不安や抑うつなどの精神症状を伴いやすい可能性も指摘されています。これは、女性では診断に至るまでに時間がかかること、求められる社会性が男性よりも高くなりやすいことなどが影響している可能性が考えられます。

大人になってから自閉症スペクトラム障害を疑った場合には、まず精神科・心療内科などの診療科を受診することを検討しましょう。また、近年は大人の発達障害専門の外来を持つ医療機関もあるため、それらを受診してもよいでしょう。

自閉症スペクトラム障害は、アメリカ精神医学会の“精神障害の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)”に掲載された診断基準に基づいて診断されます。また、自閉症スペクトラム質問紙(AQ)と呼ばれるテストが行われることもありますが、あくまで自己記入式の尺度であり、この結果のみを根拠に診断をすることはできません。

自閉スペクトラム障害の診断には幼少期からその特徴が存在していることが必須で、診断される時期が遅れることはあっても大人になってから発症することはありません。したがって、現段階の本人が訴える症状だけで自閉症スペクトラム障害と診断するのではなく、過去の発達歴などを加味して継続的に症状が現れているのかを確認しながら診断を行う必要があります。

なお、発達障害は脳構造・機能の異常に由来していると考えられていますが、現時点では脳画像検査を診断に応用することは研究段階であり(2020年6月時点)、症状の観察や聞き取りから得られた情報を基に判断していきます。

自閉症スペクトラム障害では自身の特徴を理解することにより対処方法を身につけることに加え、自分にあった環境を選択していくことが必要です。

大人の自閉症スペクトラム障害では、専門機関による面談や必要に応じた社会技能訓練などが行われることがあるほか、勤め先によっては産業保健スタッフからの支援を受けられる可能性があります。また、医療機関では抑うつ・不安などの精神症状が現れた際には、症状を和らげるための薬物治療が行われることもあります。

大人になってから自閉症スペクトラム障害が疑われる特徴がある場合、まずは心療内科・精神科・大人の発達障害専門外来など医療機関の受診を検討しましょう。大人の自閉症スペクトラム障害に対して、発達障害専門デイケア・ショートケアプログラムの有効性が指摘されており、実施している医療機関の情報が成人発達障害支援学会のホームページに掲示されています(2020年6月時点)。

自閉症スペクトラム障害には今のところ根本的な治療方法はないため完治させることはできませんが、専門機関による診療対によって日常生活が送りやすくなる可能性が期待できます。そのため気になることがある場合には、我慢せずにまずは医師、もしくは家族など話しやすい人に相談するところから始めるとよいでしょう。

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