近年、企業における「健康経営」への関心が急速に高まっています。
かつては従業員の健康管理は福利厚生の一環として捉えれていましたが、従業員の健康増進が企業の生産性向上や業績向上に直結するという認識が広まり、経営戦略として健康経営を重視する企業が増えてきました。
2017年から8年連続で「健康経営優良法人(ホワイト500)」の認定を取得し、2021年には「健康経営銘柄」にも選ばれた富士通株式会社。グループ間で連携し効果的にデータを活用することで、従業員の健康促進だけでなく事業成長にもつなげている点が特徴的です。具体的な取り組みや成果、今後の展望などについてEmployee Success本部 Employee Relation統括部長の大宮泰治さんと健康推進本部マネージャーの加藤博久さんに話を伺いました。
――健康経営に取り組み始めたきっかけは何ですか?
以前から弊社では主に従業員やその家族の健康支援を目的として、医療や介護の会社を経営するなど健康分野へ投資しており、2009年には健康管理に特化した「健康推進本部」をつくって従業員や家族の健康促進を図ってきました。その過程で世間的にも健康経営や働き方改革などの動きが強まっていき、これに順応するように本格的な健康経営をスタートしました。
2010年代には社会的に「働き方改革」や「ワークライフバランス」の時流が強くなり、働き方の部分でも柔軟に対応してきたので、そのなかで自然と健康経営の取り組みを行ってきて、現在に至ります。
具体的には、「健康経営」単体で捉えるのではなく、会社全体として掲げている「Global Responsible Business」(サステナビリティ経営における6つの重要課題)の「ウェルビーイング」という位置付けで推進しています。企業の人事部門が主幹となり、「健康推進本部」の医療専門職や「富士通健康保険組合」と連携して三位一体で進めている点も弊社の特徴です。
――具体的な取り組みや、成果についてお聞かせください。
まずは社員に向けて、健康に関して学習する場としてeラーニングを提供しています。片頭痛や予防歯科など毎年異なるテーマを取り上げて発信しています。
ほかにも、組織ごとの従業員の健康状況やエンゲージメント調査やストレスチェックの分析結果を可視化した「健康通信簿」を年に1回発行しています。この取り組みは、組織長がマネジメントするチームの健康状態を把握し、健康が業務パフォーマンスに与える影響を意識するきっかけとなっています。実際に、役員や社員がお互いに役職を問わず意見を伝え合う「タウンホールミーティング」で健康経営に関するメッセージが組織長から発信されたり、従業員のウェルビーイングにつながるイベントが行われたりといった動きが見られ始めている点は成果といえるでしょう。
また、「データドリブン」といって健康関連・勤務状況・コミュニケーションなどをさまざまなデータを組み合わせて分析することにも力を入れており、効果的な施策展開に努めています。
富士通では従来電子カルテなどヘルスケア部門でのサービスを行ってきたため、産業経営の現場で使える健康管理システムやソリューションを持っています。そのデータを分析して、正常な健康状態と不健康状態のギャップをどのように解消していくのか、AI導入なども含め取り組みを進化させ、自社の健康経営に生かしていくことを考えています。
――富士通グループとして健康経営に取り組むなかで、相乗効果などは生まれていますか?
グループ全体で国内の従業員が7万人以上いるので、それだけ膨大な健康データを得られます。これをグループ会社が事業展開している健康管理システムを使って管理・分析しています。また、これらのデータを介護サービスなど展開する事業所の現場トライアルに活用することでサービス改良や新規開発にも役立てています。
このように健康事業を展開しているグループ会社とうまく連携することで、従業員の健康促進だけでなく、事業成長にもつなげている点は富士通グループの健康経営の強みです。
――今後力を入れていきたい取り組みや重要課題はありますか?
勤務時間や場所を柔軟に選択できる「ハイブリッドワーク」を導入しており、多くの従業員が在宅やリモートで働いていますが、これにより視力低下や腰痛といった健康問題にもつながってきています。また、オンラインの場合、些細なコミュニケーションでも打合せとして設定することが多く、人によってはスケジュールがパズルゲームのようにぎっしり詰まってしまうことがあります。在宅勤務が主流となる以前から在籍している従業員は、もともとの人間関係があるため在宅でもコミュニケーションを図りやすいと思いますが、新卒や中途採用の従業員はそのつながりが薄いため孤独感を感じやすいでしょう。働く環境の変化に応じて従業員のマネジメントの方法の見直しやメンタルケアなど、社員一人ひとりが心身ともに自立した働き方を実現できるよう努めていきたいです。
ただ、フレキシブルな働き方により従業員個人にとっては仕事とプライベートのバランスが取りやすくなりましたが、企業全体の生産性にどう影響しているかについてはまだ言語化しきれていないので今後明らかにする必要があります。個人の健康に投資したとき、それが企業としての生産性にどうリーチするのか、「健康」を「経営」に結びつけていくことを次のステップとして目指していきます。
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