インタビュー

乾癬で起こる全身症状――関節の痛み、発熱や倦怠感が出たら要注意

乾癬で起こる全身症状――関節の痛み、発熱や倦怠感が出たら要注意
鎌田 昌洋 先生

帝京大学医学部附属病院 皮膚科 准教授

鎌田 昌洋 先生

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皮膚が赤く盛り上がり、カサカサした白い粉ができる“乾癬(かんせん)”。皮膚にしか症状が出ないと思っている方も多いかもしれませんが、発熱や関節の痛みなど皮膚以外にも症状が出現する可能性があります。こうした症状が出た場合には、重症化を防ぐために早めに治療を開始することが大切です。

今回は乾癬が及ぼす全身への影響を中心に、乾癬とはどういった病気であるのか、帝京大学医学部附属病院皮膚科 准教授である鎌田 昌洋(かまた まさひろ)先生にお話を伺いました。

乾癬(かんせん)は、皮膚が赤く(紅斑(こうはん))盛り上がり(浸潤)、その上に銀白色の粉(鱗屑(りんせつ))ができる病気です。慢性的に経過することが特徴で、症状は数年、数十年単位でよくなったり悪くなったりを繰り返します。また皮膚の症状(皮疹(ひしん))だけでなく、関節の痛みや腫れ、発熱やむくみなどの全身症状が出ることもあります。

さらに、乾癬は患者さんの精神面にも多大な影響を与えます。たとえば、顔や手など服で隠すことができない場所に目立つ皮疹があると、気分が落ち込んでしまったり、他人との接触を避けてしまったりする傾向があります。また、腕や脚に皮疹があると半袖や半ズボン、スカートを避けるなど好きな服を着ることができなかったり、皮疹が服で隠れたとしても温泉やプールに行きづらかったりするなど生活のあらゆる場面で行動制限が生じ、大きな精神的ストレスにつながります。

乾癬は、ただの皮膚の病気と思われがちですが、患者さんの人生に大きな影響を与えてしまう病気です。

なお乾癬はその音の響きから、人に“感染”する(うつる)病気だと思われることがありますが、決して人にはうつりません。

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提供:PIXTA

乾癬には大きく5つのタイプがあります。乾癬の大部分を占めるのは、皮膚の所々に皮疹が現れるタイプの“尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)”です。その次に多いのが、“乾癬性関節炎”です。これは、皮膚症状に加えて関節に痛みや腫れが生じるタイプの乾癬を指します。

また、皮疹がほぼ全身に広がったものを“乾癬性紅皮症(かんせんせいこうひしょう)”、全身の皮膚の赤みや鱗屑に加えて、白い(うみ)の入った袋状のもの(膿疱(のうほう))ができるタイプのものを“膿疱性乾癬”と呼びます。膿疱性乾癬ではこうした皮膚症状に加えて発熱やむくみなどの全身症状を伴い、全身の炎症が続くことで時に命を脅かすこともあります。

また、感染症を契機として小さな皮疹がポツポツとできる“滴状乾癬(てきじょうかんせん)”というものもあります。ほかの4つの乾癬が慢性的な病気であるのに対し、滴状乾癬の多くは感染症が治った後、遅れて症状は消えてなくなります。ただし、一部の患者さんで尋常性乾癬に移行することもあるため注意が必要です。

乾癬は皮膚科で診断します。皮膚症状だけの場合、多くは皮膚の観察だけで診断可能です。その際、湿疹脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)*といった似た症状が出る病気との見極めが大切です。皮膚の観察だけでは診断が難しい場合には、皮膚生検**が必要となることもあります。

また、関節症状がある場合にはX線検査やMRI、超音波検査をしたり、発熱などの全身症状がある場合には採血をしたりすることもあります。関節や全身に症状が出ている場合には「皮膚の病気とは関係ないから」と思わずに、きちんと皮膚科の医師にも伝えるようにしましょう。

*脂漏性皮膚炎:皮脂の分泌が盛んな頭や髪の生え際、顔などに湿疹ができる病気

**皮膚生検:皮膚の一部を切り取って、それを顕微鏡で詳しく調べる検査

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提供:PIXTA

乾癬になりやすい遺伝的要因に何らかの環境要因が加わることで発症すると考えられています。しかし、発症原因は完全には明らかになっていないのが現状です。なお、環境要因としては、肥満、感染症、不規則な生活習慣、精神的なストレスなどが考えられています。

乾癬の典型的な症状は、皮膚が赤くなる紅斑と皮膚が盛り上がる浸潤・肥厚に加えて、鱗屑という銀白色の粉のようなものが出現することです。1つ1つの皮疹の大きさには個人差があり、小さいこともあれば、だんだんと皮疹同士がくっついて大きく広がることもあります。

また、皮膚症状は圧力や刺激によって出やすいことも特徴です。そのため、刺激が加わりやすい頭皮、肘、膝、お尻に出ることが多いです。下腿(膝より下)にもよくみられます。そのほか爪や陰部に症状が出る方もいます。中には、かゆみの症状に悩まされる患者さんもいらっしゃいます。

乾癬性関節炎膿疱性乾癬では皮膚以外にも症状が現れます。これらの乾癬における特徴的な全身症状について詳しく解説していきます。

乾癬性関節炎では、関節の炎症による痛みや腫れ、ひどくなると変形が生じます。特に手足の指の第一関節(DIP関節)によくみられます。また、症状は左右の手足に対称的に出現するのではなく、非対称的であることが多いです。

そのほか、手指や足趾(そくし)(足の指)の1本全体が赤く腫れ上がる“指趾炎(ししえん)“や、腱(筋肉と骨をつなぐ組織)に炎症が起こる”付着部炎“も乾癬性関節炎に特徴的な症状です。付着部炎はアキレス腱や、腱が多くある足の裏によくみられます。そのほか、肘、膝、肩、背骨、骨盤など、腱が存在するあらゆる部位に痛みが起こる可能性があります。そのため、手足だけでなく大きな関節、首や腰なども痛くなることがあります。付着部炎は関節リウマチなどの病気ではみられないため、病気を見極める際の大切なポイントです。

鎌田先生ご提供
指趾炎(右から3、4番目)提供:鎌田 昌洋先生

乾癬性関節炎の関節症状は、“じっとしていると痛くなり、動くと楽になる”特徴があります。そのため、朝起きたときには痛みが強くても、1日を過ごしているうちにだんだんと楽になってくることが多いです。朝に手がこわばり、昼間にはよくなるとおっしゃる方もいます。

鑑別が必要な病気の1つである、変形性関節症*では反対に“動くと痛くなり、安静にすると楽になる”特徴があるため、どういった状況で関節に痛みを感じやすいのかを医師に伝えることが大切です。

また関節の痛みはずっと続いているわけではなく、よくなったり悪くなったりを繰り返す特徴もあります。

ただし、ほかの炎症を引き起こす関節の病気でも同様の症状がみられることがあるため、医師による診察が必要です。

*変形性関節症:加齢などによって関節の構成成分である軟骨がすり減り、関節が変形する病気

乾癬性関節炎では、皮膚症状があまり出ていなくても関節の痛みや変形が強いことがあります。その逆も同様で、皮膚症状と関節症状の重症度はイコールではありません。

これを知らずにいると、「皮膚症状は強くないから、関節症状もたいしたことないだろう」と適切に治療をせず、関節の破壊が進んでしまう恐れもあります。一度破壊され変形した関節は今の医療では元には戻せません。そのため、乾癬の皮膚症状があまりなくても、少しでも関節症状があれば軽視せずに医師に伝えるようにしましょう。

爪の症状でよくみられるのが、爪に小さな穴がポツポツとできる“点状陥凹(てんじょうかんおう)”です。

また、爪が浮いて剥がれてくる“爪甲剥離(そうこうはくり)”が起こることもあります。通常、爪は薄いピンク色をしていますが、爪が剥がれると白~黄色っぽくなります。そのほか爪が分厚くなる、横溝が見られる、油を落としたように薄茶色になる(油滴状変色(ゆてきじょうへんしょく))などの爪の症状も乾癬でみられます。

鎌田先生ご提供
左:点状陥凹、右:爪甲剥離 提供:鎌田昌洋先生

膿疱性乾癬では、ぶどう膜炎結膜炎といった目の炎症が起こることがあります。具体的な症状は、視力低下、かすみ、充血、痛みなどです。こうした症状が起こることは少ないですが、もし乾癬の治療中に目に症状が見られた場合には早めに眼科を受診しましょう。

膿疱性乾癬では、皮膚の症状とともに発熱や倦怠感、手足のむくみが起こることがあります。熱は微熱から高熱まで個人差があります。全身症状が悪化すると、肺水腫(はいすいしゅ)*が起こるなどして命に関わることもあります。

*肺水腫:酸素と二酸化炭素のガス交換をする肺胞に液体が貯留した状態。呼吸困難などの症状が起こる。

乾癬性関節炎膿疱性乾癬は、尋常性乾癬からの移行によって発症することがあります。乾癬性関節炎では先に皮膚症状が現れ、その後に関節症状が起こるケースが多いといわれています。また、尋常性乾癬にかかっている期間が長ければ長いほど、乾癬性関節炎に移行する可能性が高くなることも分かっています。

膿疱性乾癬は、尋常性乾癬の重症化によって発症することもあれば、これまでに乾癬と診断されたことがない方に突然発症することもあります。感染症や妊娠がきっかけとなるケースもあるといわれていますが、明確な理由は明らかではありません。

尋常性乾癬の患者さん全員が、乾癬性関節炎膿疱性乾癬を発症するわけではありません。しかし、もし治療中に関節症状や発熱が生じた場合には、早めにかかりつけの皮膚科を受診しましょう。治療が遅れると、乾癬性関節炎では戻らない関節破壊によって不自由な生活を余儀なくされる恐れがあり、膿疱性乾癬は命を落とす危険性もあります。

なお、関節症状が出たときは整形外科やリウマチ科への受診でも問題ありませんが、その場合は乾癬であることを必ず医師に伝えるようにしてください。また診察時には、痛みのある部位、痛みを感じやすい状況についても詳細に医師に伝えるようにしましょう。

乾癬の治療法は、主に外用療法(塗り薬)・光線療法*・内服療法(飲み薬)・生物学的製剤(バイオ製剤)の4つの中から選択されます。

皮膚症状だけの場合は、まずは外用療法から始めます。外用療法の効果の現れ方には個人差があり、これだけでよくなる方もいればあまり効果が得られない方もいます。外用療法だけでは効果が不十分な場合は、光線療法や内服療法、生物学的製剤などの治療を検討します。

生物学的製剤は乾癬の病気を引き起こす物質をピンポイントに抑える抗体で、10年ほど前に登場した比較的新しい薬です。乾癬に対しては10種類の生物学的製剤が用いられており、種類によっては投与した約半数の患者さんにおいて、ほぼ全ての皮疹をなくすことができることが分かっています。

*光線療法:免疫反応を抑制するという紫外線のはたらきを利用した治療法

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乾癬では、基本的に外用療法を試した後、効果が不十分であれば光線療法・内服療法・生物学的製剤を検討します。たくさんの治療法がありますが、それぞれ長所と短所があるため、実際に治療を決める際には患者さんの病状やQOL(生活の質)などを総合的に考慮することが大切です。

たとえば関節症状がある場合、外用療法や光線療法だけでは関節の破壊を抑えることはできないため、できるだけ早めに内服療法や生物学的製剤を行う必要があります。

また、患者さんのQOLが症状によってどれくらい低下しているのかを考えることも重要です。たとえば、「皮疹はほとんど目立たないものの、爪の症状だけどうしてもよくならず、人前で手を出すのがつらい」など皮疹の面積は少なくてもご本人には大きな苦痛となっていることもあります。こうした患者さんには、QOL改善のために生物学的製剤の使用を検討することがあります。

「これくらいの症状は我慢しないと」と思わずに、もし少しでも気になる症状があれば遠慮せずに医師に相談してみるとよいでしょう。

乾癬の患者さんは、肥満の予防・改善に努めることが大切です。肥満により乾癬の症状が悪化することもあります。また、全ての患者さんに当てはまることではないですが、適切なダイエットにより症状が軽くなったり、治療が効きやすくなったりすることもあります。できる限りで構いませんので無理のない範囲で、規則正しい生活、バランスのよい食事、適度な運動を心がけ、太りすぎないように注意してください。

また、皮疹は刺激によって出現しやすいため、皮膚への刺激や摩擦を減らすことも重要です。そのためには、皮膚と皮膚が接触する部分には保湿剤を付けたり、締め付けの強い服を避けたりするとよいでしょう。

MN撮影

日本における乾癬の発症率は1,000人に3人程度で、患者数が多い病気ではありません。周りにあまり同じような方がいないために、「どうして自分だけがこんな病気になってしまったんだろう……」とつらい思いをしている方は多いのではないでしょうか。

もし今そういった思いを抱えているのであれば、乾癬で悩んでいるのは1人ではないことを知っていただきたいと思います。今はインターネットで情報を収集できますし、SNSなどを通じて、乾癬の患者さん同士が気軽に情報交換を行う場もいくつかあります。乾癬患者の会も全国にあります。もし悩んでいる場合には1人で抱え込まずに、そういったツールも積極的に利用していただきたいと思います。

注意点としてSNSの情報が全て正しいとは限りませんので、情報を鵜吞みにせず皮膚科の先生とよく相談してください。関節症状や全身症状があったり、塗り薬で効果不十分であったりする場合には、主治医の先生から乾癬を専門とする先生(乾癬生物学的製剤使用承認施設*など)を紹介してもらうのもよいかもしれません。

*乾癬生物学的製剤使用承認施設:乾癬の生物学的製剤使用を許可されている施設

少し昔までは、「乾癬は治らない病気です」と医師に言われ、ショックを受ける患者さんは多くいらっしゃいました。しかし今は時代が違います。生物学的製剤の登場などによって、ここ10年ほどで乾癬の治療は大きく変わり、適切な治療によって乾癬に煩わされない時間を増やせるようになってきています。

確かに、一度治療すればそれ以降まったく治療が必要なくなるという意味での“完治”は難しく、長い付き合いが必要な病気ではあります。しかし今は、「乾癬だということを忘れていた」と思えるくらいに、症状をコントロールできる方もいらっしゃいます。ですから、乾癬と診断されてもあまり悲観的にならずに、希望を持って治療に取り組んでいただきたいと思っています。

患者さんの中には、どんな治療をしてもなかなか症状が改善しないという方もいらっしゃるかと思います。その場合は、治療法を変えることで症状がよくなることがあるかもしれません。

病院によってできる治療法は異なりますので、もし現状の治療に満足していなければ、遠慮せずに主治医の先生に相談してみてください。そこから乾癬を専門とする医師がいる病院に紹介していただくことも、症状改善への糸口になるでしょう。

また、治療前に比べればよくなったように見えても、「爪だけ治らなくてつらい」、「足だけ治らないから温泉に行けない」など、少しでも我慢していることがあれば、もう一歩先の治療について、主治医の先生と相談していただきたいと思います。

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