インタビュー

先天異常と小児外科医(4)―手術の工夫と効果の検証

先天異常と小児外科医(4)―手術の工夫と効果の検証
岩中 督 先生

地方独立行政法人埼玉県立病院機構 理事長、東京大学 前小児外科学教授、日本小児外科学会 元理事...

岩中 督 先生

この記事の最終更新は2015年07月19日です。

「先天異常」という言葉を聞いたことがある方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。妊娠中のお母さんやこれから子どもを作ろうとしている方であれば、もしかすると一度は調べたことがある言葉ではないかと思います。小児外科医は先天異常に対して、先天異常の子どもが成長・発達していく過程に影響を及ぼさないよう、さまざまな工夫をしてきました。
東京大学で小児外科学の教授を務めた後、現在は埼玉県立小児医療センターで病院長を務めながら、日本の小児医療と外科医療双方の向上を目指し日々尽力されている岩中督先生にお話をお聞きしました。

先天異常では生まれたばかりの赤ちゃんに手術をしなければならないことも多々あります。
成人の医療においては、胃がんになった患者さんに対して胃をとります。しかし、生まれたばかりの赤ちゃんは、臓器をとってしまうとその後の発達・成長に支障をきたすことがあります。小児外科医は何とかして成長・発達に影響を及ぼさない医療を展開していきたいと考え、さまざまな工夫をしてきました。

「先天異常と小児外科医(2)―どれくらいの頻度で起こる?」でも紹介したように、「鎖肛」は生まれつきおしりに肛門のない病気です。そのため、肛門を作ってあげなければいけません。しかし、生まれたばかりの状態で肛門を作ると、「出したいときに出せる」性能の良いしっかりとした肛門にはならないのです。「出したいときに出す、止めたいときには止める」ためには肛門括約筋をコントロールする必要があり、繊細な肛門括約筋を丁寧に温存しなければいけません。

そのため、まず一時的に人工肛門をつけます。こうすることによって、まずはミルクを飲んだりできるようになるため、当面の栄養がとれるようになります。こうして、体がふた回りくらい大きくなるのを待ちます。こういった段階を経て、肛門括約筋がきちんとある、良い肛門を作ってあげます。同時に、作った肛門のトレーニングもしていきます。そして、そのあとで人工肛門を閉じてあげます。

この方法にも難点があります。生まれた直後に肛門を作ると1回で手術が済みますが、この方法ですと、3回手術をしなくてはなりません。しかし、最初から無造作にいきなり作ってしまうより、はるかに機能の良い肛門ができます。普通の肛門から考えると、100点とまでは行かなくても80点くらいの肛門はできるようになります。そうなれば、特に日常生活においてハンディキャップなく過ごすことも可能になります。

8000人に1人程度の頻度で起こる「食道閉鎖症」という病気があります。2011年には年間約160人、食道閉鎖症の子どもが生まれました。食道が閉鎖していると、ミルクが飲めません。また、肺炎のリスクがとても高くなります。このような子どもに対しては、生まれて1~2日のうちに食道をつないであげないといけません。

今までは右側から開胸して、食道―食道吻合術という手術をしていました。しかし、生まれたばかりの赤ちゃんに開胸術をしてしまうと、肩甲骨の動きが悪くなり、将来的に肩自体の動きが悪くなるリスクがあることが知られていました。
もちろん、食道閉鎖症はすぐに手術をしなければ死んでしまう病気です。それでも、後になって運動機能に障害が出てしまうのは大きな問題です。そうならないようにするにはどうすればよいか、という工夫を、小児外科医は考え続けてきました。

私は2005年から、胸腔鏡を用いて非常に小さい穴から直径3mmの食道を吻合していく手術を実施しています。手術自体は開胸でやる手術の倍くらいの時間がかかりますし、麻酔科とも連携しながら行っていかなくてはいけません。術野(手術時の視野)を広げ、見やすくするのも大変です。しかし、将来的に機能障害を残さないためには、胸腔鏡でやる手術が有効である可能性があります。これを実施している施設は、日本には埼玉県立小児医療センターを含めて数施設しかありません。

ここまで、胸腔鏡での食道閉鎖症に対する手術を紹介しましたが、従来の方法でも工夫すれば運動障害は出ないとも言われています。しかし、これをどう検証すればよいのでしょうか? 年間160人の患者さんしかいない希少疾患をどのように検証していけば良いのでしょうか? 希少疾患ではどの治療が本当に良いのか、どの手術が本当に良いのかを検証していくことが極めて難しくなります。

このような経験をしていくなかで、私はビッグデータの必要性を感じていました。そこから、すべての小児外科医が協力して、全手術のデータを出さなければ小児外科は進歩していかないと考えました。ビッグデータを利用した将来のあるべき小児外科診療の形の提案が始まったのです。

 

  • 地方独立行政法人埼玉県立病院機構 理事長、東京大学 前小児外科学教授、日本小児外科学会 元理事長/元監事/元会長

    日本小児外科学会 小児外科指導医・小児外科専門医日本外科学会 外科認定医・外科専門医・指導医

    岩中 督 先生

    東京大学小児外科学教授、東京大学附属病院副院長を経て埼玉県立小児医療センターで病院長を務める。全外科系学会を束ねた「ナショナルクリニカルデータベース」においては代表理事を務めており、ビッグデータを用いて小児外科だけではなく外科分野、さらには全体的に日本の医療レベルを上げるために精力的な活動をしている。現在は埼玉県病院事業管理者として病院経営に深く携わる。

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