さこう

鎖肛

監修:

概要

鎖肛(さこう)とは、直腸および肛門(こうもん)が生まれつき正常に形成されない病気です。新生児に生じる消化管の先天異常のなかではもっとも多く、約5,000人に1人の割合で発生します。この病気は、胎児の時に消化管が作られる過程で異常が起こり、直腸や肛門が正常に形成されなかったために生じます。

鎖肛には複数のタイプがあります。もっとも特徴的なのは肛門の穴が完全に欠損しているケースですが、そのほかにも肛門が本来あるべき位置から離れた場所に形成されているケースや、直腸の末端が本来とは異なる箇所につながっている瘻孔(ろうこう)を伴うケースなどがあります。

肛門は便の出口にあたるため、肛門の穴がない、または位置に異常があると、便が出ない、お腹が張る、嘔吐といった症状が現れます。治療では、ストーマ(人工肛門)を作ったり、新たに肛門を形成したりする手術が行われます。

種類

鎖肛は、直腸の末端が周辺の筋肉(恥骨直腸筋など)とどのような位置関係にあるかで3つのタイプに分けられます。直腸は肛門の手前にある腸管で、大腸の最後の部分にあたります。また、瘻孔の有無やその位置により分類されることもあります。一般的に、直腸の末端が本来の肛門の位置から遠くなるほど、重症度が高くなります。

  • 低位型……直腸の末端が直腸周囲の筋肉(恥骨直腸筋)よりも下方にあり、肛門の近くにあるタイプです。手術は比較的容易で予後も良好です。
  • 中間位型……直腸の末端が直腸周囲の筋肉(恥骨直腸筋)とほぼ同じ高さにあるタイプです。
  • 高位型……直腸の末端が直腸周囲の筋肉(恥骨直腸筋)よりも上方にあり、肛門の位置からも離れているタイプです。手術は複雑になることが多く、予後はもっとも重症度が高くなります。

原因

鎖肛の原因は、胎児期に直腸や肛門などの消化管が形成される過程(発生過程)で異常が起こることです。

正常な発生過程では、胎児期初期に直腸や肛門が膀胱などの泌尿器系とつながり、1つの空洞を形成しています。その後、妊娠2か月半頃までに直腸と肛門がそれぞれ分離し、発育が進みます。女児の場合、この分離によって生じたスペースに生殖器官(腟や子宮)が形成されていきます。

この消化管の発生過程で何らかの異常が生じることで、鎖肛を発症します。男児の場合は直腸と排尿に関わる器官(膀胱や尿道)の間に、女児の場合は直腸と生殖器(子宮や腟)の間に、本来存在しない通路(瘻孔)が形成されることがあります。そのほか、VATER症候群*などほかの先天性疾患の症状の1つとして鎖肛が生じる場合もあります。

*VATER症候群:脊椎(Vertebral)、肛門(Anal)、気管・食道(Tracheo-Esophageal)、腎臓(Renal)などに複数の部位に先天性の異常を伴う病気。

症状

鎖肛の主な症状は、外見的な肛門の異常と、それに伴う排便障害として現れます。生まれたときから肛門の穴がなかったり、正常な位置からずれていたりすることがあります。

このような状態では適切な排便ができないため、新生児期にいくつかの症状が現れます。生まれてすぐに便が出ない、腸内にガスや便が溜まることでお腹が強く張る、母乳やミルクを飲んでも嘔吐するなどの症状がみられます。重症例では、腸に穴が開いて腹膜炎*を引き起こす場合もあります。

また、瘻孔と呼ばれる異常な通り道が形成されることもあります。性別によって症状は異なり、男児では尿の中に便やガスが入ってしまうことがあります。女児の場合、便が腟内に流れ込む、尿が腟や子宮内に溜まるといった症状が現れ、腹部が膨らむことがあります。さらに、一見正常に見える肛門でも、形成異常により便が細くなりやすく、便秘になりやすいことがあります。このような症状から、幼児期になって初めて鎖肛が発見されることもあります。

*腹膜炎:お腹の中にある臓器を覆っている膜(腹膜)が炎症を起こす病気。

検査・診断

検査では、肛門の観察を行います。多くの場合、出生直後のお尻の見た目や、体温を測る際に体温計が直腸に挿入できないことで発見されます。まずは肛門の有無を確認し、X線検査や超音波検査で直腸と肛門括約筋の位置を確認して病型の診断を行います。また、瘻孔が疑われる場合には、瘻孔造影検査を実施します。この検査では造影剤を用いて、瘻孔の位置や内部の状態を確認します。

治療

鎖肛の主な治療方法は手術です。手術を行う時期は1期的あるいは2期的の大きく2つに分かれ、病型によって治療方法や治療の時期、治療後の予後などが異なります。

手術の時期

  • 1期的……1回の手術で肛門を形成します。多くの場合では新生児期に手術が行われますが、女児では乳児期に行われることもあります。
  • 2期的……新生児期に一時的に人工肛門を造設し、数か月の期間を空けて肛門を形成します。

低位型

低位型の場合、1期的手術が選ばれ、新生児期に肛門を形成する手術(経肛門的造肛術)を行うことが一般的です。ただし、女児で腟付近に瘻孔がある場合には、瘻孔を拡張して便の排出路を確保することもあります。また、一時的に人工肛門を造設し、体の成長を待ってから肛門形成手術や腟形成手術(正常な腟の構造にする手術)を実施することもあります。人工肛門とは、腸管の一部をお腹の表面に出して便を排出できるようにする治療法です。一時的な人工肛門は、肛門を形成する手術が完了し、肛門からの排便が可能になった後に閉鎖されます。

中間位型・高位型

中間位型や高位型の場合、直腸の末端が通常の肛門の位置から離れており、肛門や直腸を取り巻く筋肉(恥骨直腸筋などの肛門挙筋や内・外肛門括約筋など)の発達が未熟なことが多いです。そのため、2期的手術が選ばれることが一般的です。治療の第一段階として新生児期に、一時的な人工肛門の造設を行います。この処置により、排便ができるようになり、母乳やミルクからの栄養摂取も可能となります。その後、成長に伴って体重が増え、体が大きくなってから肛門を形成する手術を実施します。

手術方法

  • 経肛門的造肛術……肛門の予定部位まで腸を引き下ろす術式。
  • 腹会陰式造肛術(ふくえいんしきぞうこうじゅつ)……お腹側(開腹)と肛門の両方から手術を行う術式。
  • 仙骨会陰式造肛術……会陰(尾骨と肛門の間)と肛門から手術を行う術式。
  • 腹腔鏡補助下造肛術(ふくくうきょうほじょかぞうこうじゅつ)……腹会陰式造肛術と同様の手術ではあるが、お腹側は腹腔鏡を入れて手術を行う術式。

予後

一般的に、低位型では排便障害が比較的生じにくいといわれていますが、中間位型や高位型では便意(便が肛門まで到達し、便をしたいと思う感覚)を感じられない、もしくは便意がないために、便が肛門まで到達しても気付くことができず、便秘や便失禁(自分の意思とは関係なく便が漏れてしまう状態)といった排便障害が起こることがあります。排便のコントロールができるようになるまでには時間がかかる場合もありますが、医師の指導と家族のサポートの下、適切な排便訓練を行うことで、便を漏らすことなく肛門からの排便が可能になることを目指します。

最終更新日:
2025年07月25日
Icon close
2025/07/25
更新しました
2025/07/25
更新しました

「鎖肛」を登録すると、新着の情報をお知らせします

処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

実績のある医師をチェック

鎖肛

Icon unfold more