インタビュー

特発性正常圧水頭症の治療と合併症、その後のリハビリと介護について

特発性正常圧水頭症の治療と合併症、その後のリハビリと介護について
厚地 正道 先生

医療法人慈風会 厚地脳神経外科病院  理事長

厚地 正道 先生

この記事の最終更新は2015年11月10日です。

完治が難しいといわれている認知症のなかでも、特発性正常圧水頭症は、手術による治療で術前と術後の症状が劇的に変わる場合があります。実際にはどんな治療法があるのか、また手術をした場合の合併症とその後のリハビリ・介護について、引き続き厚地脳神経外科の厚地正道先生にお話をうかがいました。

特発性正常圧水頭症は、原因が不明のため薬物療法は行えませんが、髄液の循環不全を改善すれば症状が良くなるため、手術治療がすすめられます。現在日本で行われている水頭症手術には 1.脳室腹腔短絡術 2.脳室心房短絡術 3.腰椎腹腔短絡術の三通りの方法があげられます。

特に 3.腰椎腹腔短絡術は 1.脳室腹腔短絡術と比較して手術成績に差がみられず、一方で「脳を触らない」「局所麻酔で可能」というメリットがある点から日本を中心に手術症例数は増加傾向にあり、脳神経外科の手術の中では比較的簡単かつ安全に行うことのできる手術です。

一般的な手術の合併症として、出血、細菌感染、神経損傷、腸管損傷があげられます。その他手術により髄液がある一定量排泄されると症状改善がみられるものの、髄液が過剰に排泄されてしまうと、低髄圧症候群(起立性頭痛)、慢性硬膜下水腫・血腫などの合併症が発生してしまうことがあります。このような合併症を防ぐために、最近では様々なシステムが開発されており、体の外から磁石(電磁石)を用いて圧設定を変えることのできる圧可変式バルブや、髄液の過剰排泄を防止するアンチサイフォンなどが使用されています。

特発性正常圧水頭症の患者は、外来初診時より日常生活に問題を抱えていることが多く、できる限り早く介護サービスの助けを借りて問題点を整理して解決することが求められます。ただしこの際、かかりつけ医やケアマネージャー、訪問看護、デイサービス・デイケア事業所に勤める介護従事者がこの病気のことを知り、改善可能性を信じて接することが大変重要です。これが回復の可能性を大いに高めると考えています。

今まで、手術を受けても適切な介護支援を受けられず状態が悪くなる患者さんを大勢見てきました。こうしたケースに理解あるかかりつけ医の適切な健康管理と、能動的な介護を提供する介護従事者が介入することで、予想以上に回復する例も多数ありました。特発性正常圧水頭症の患者さんが回復するためには、適切な診断や手術以上に、術後の積極的な介護サービスの介入が必須であり、患者の運命は、かかりつけ医や介護に携わるさまざまな職種の方に委ねられています。特に看護師の方々、介護に携わる方々には、IADL/BADL評価(日常生活における動作の評価)を定期的に行うなどリハビリマインドを持って、常に回復の可能性を捜しながら患者さんに向き合っていただけるように望みます。

特発性正常圧水頭症は、発症してからの人生を有意義に過ごせるよう、いかに状態を回復するかが求められ、治療目標や生活目標の設定が重要です。本人や家族が「歳だから」とあきらめずに、この病気を疑ったら理解のある脳神経外科・神経内科、精神神経科、老年科にぜひ相談して下さい。

近年「運動器不安定症」と診断されて原因精査が行われなかったために適切な治療が受けられず、そのまま適切でない医療機関や介護施設にかかっている水頭症の患者さんもいらっしゃいます。このような患者さんには、今の状態よりもっと良い状態まで回復する可能性があるかもしれません。また、もし適切な治療を受けていても、患者さんご本人が寝たり起きたりするだけの生活にならないよう、そして毎日の生活を楽しめるよう、居心地の良い家庭環境作りにぜひ積極的に取り組んでください。

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