認知症は、4人に1人が65歳以上であるという超高齢化社会を迎えた日本において、誰もが身近に意識する病気です。ひと口に認知症といっても種類がありますが、なかには回復する可能性の高い認知症疾患もあることが分かっています。これが特発性正常圧水頭症です。今回は、正常圧水頭症のうちでも、特にこの特発性正常圧水頭症について厚地脳神経外科の厚地正道先生にお話をうかがいました。
1965年にHakkim先生とAdams先生が正常圧水頭症の存在を報告され、1975年に初めて特発性正常圧水頭症の存在が指摘されました。1970年代には「治る認知症」として日本でも脳室拡大のある患者さんに水頭症手術が行われていましたが、手術成績は芳しくなく1980年代にはほとんど手術治療が行われなくなったという負の歴史があります。
その後「空白の20年」を経て、過去の失敗体験を糧に、良識ある先生方の尽力により「治る歩行障害」>「治る認知症」のコンセプト(「治る認知症」というよりも「治る歩行障害」という認識が正確であるという考え)で2004年度に日本から世界で初めて診療ガイドラインが発刊されました。その一年後に国際学会より診療ガイドラインが発表され、現在世界中で特発性正常圧水頭症の診断・治療について活発な議論が交わされるようになっています。このガイドラインに基づいた診療により徐々に治療成績は向上しています。特発性正常圧水頭症は、いわば古くて新しい、超高齢社会の中で解決が求められている21世紀の病気であることをみなさんに知っていただきたいと思います。
現在、超高齢化社会を迎えた日本では認知症の患者さんの増加が問題となっています。多くの認知症は、一度発症すると改善することがないと認識されていますが、中には治療を行うことにより改善する認知症疾患もあります。そのひとつが正常圧水頭症です。
正常圧水頭症には、大きく分けて原因不明の特発性正常圧水頭症と、原因が明らかな続発性正常圧水頭症の2種類があります。続発性正常圧水頭症の原因には、くも膜下出血、髄膜炎、頭部外傷などが挙げられます。
一方、原因のわからない特発性正常圧水頭症は認知症患者さんの5〜6%にみられます。好発年齢は60歳以上とされており、年齢が上がるにつれて患者数は増えていきます。高齢になるにつれて誰でもかかる可能性が高くなる病気であるこの特発性正常圧水頭症について、次記事以降でさらに説明を進めていきます。