「血友病」と聞くと、どのようなイメージを持たれるでしょうか。「一生治らない病気」や「血が止まらなくなる病気」というような、ネガティブなイメージを持たれる方もいるかもしれません。その一方で、現在血友病治療は目覚ましく進歩しており、新しい製剤の研究も進んでいます。今回は血友病についての基本的知識から、現在研究段階の最新の治療法まで、血友病の専門医でいらっしゃる奈良県立医科大学小児科教授の嶋緑倫先生にお話を伺いました。
通常、出血してしばらくすると損傷した部分に止血栓とよばれる血を止めるためのふた(かさぶた)が形成され、血が止まります。血管が傷ついてから血を止めるまで、体の中では止血のメカニズムが働きます。
まず、血管が損傷した部分から出血すると、その部分の血管が少し縮んで血液量を減らし、血管内皮を構成しているコラーゲンという物質が露出します。次に損傷部位に血小板と呼ばれる血液構成成分が集まってきて、一次血栓になります。その後、凝固因子と呼ばれる止血を強固にする物質が網の目のように一次血栓に付着し、二次血栓を形成します。このように、一次血栓、二次血栓という2段階を踏むことで、より強固に止血を行うことができます。
血友病とは、先ほど述べた止血のメカニズムのうち、後半の二次血栓を形成する凝固因子が欠乏することによって生じる病気です。凝固因子が欠乏するということは、止血がしにくく、出血をしやすい状態であるということです。
具体的には、血友病A、血友病Bの2種類に分けられます。凝固因子は多種類から成り立っており、血友病Aは第Ⅷ因子、血友病Bは第Ⅸ因子の活性が生まれつきに低下または欠乏していることが原因で発症します。重症度が同じであれば症状はA、Bとも変わらず、血液検査で血友病の種類を調べることができます。
現在、男児出生数の5,000〜1万人に1人が血友病患者であると報告されており、全世界にはおよそ40万人以上の血友病患者さんがいます。
一方、日本における2013年の血友病患者は、約6,000人弱(血友病Aが4,870人(82.4%)、血友病Bが1,034人(17.5%))で、血友病Aが血友病Bのおよそ5倍となっています。男の子しかならない病気と思われがちですが、女性の血友病も割合は少ないながら報告されています。(血友病Aは4,870人のうち35名、血友病Bは1,034人のうち14名が女性)
また、血友病患者数は世界的にみても増加しています。しかし発症数が増えているわけではなく、診断によって検出率が上がったということと、治療の進歩によって患者さんの寿命が延びているからだと考えられます。一方で、日本での発症割合は欧米に比べるとかなり低くなっています。この原因としてはっきりとしたエビデンス(根拠)は出ていませんが、人種差ではないとされています。つまり、軽症の血友病患者はまだ診断されていないという可能性が考えられているのです。
どちらにせよ、血友病患者の寿命は、現在行われている適切な治療を受けることができれば正常の人と変わりません。ご自身やお子さんに少しでも異常を感じたら、病院を受診されることをお勧めします。
奈良県立医科大学 副学長(医学部長)
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