概要
血友病Aとは、血液を固める物質である12種類の“血液凝固因子”のうち第Ⅷ因子の産生量や質に異常が生じる病気のことです。多くは性染色体(性別を決定する染色体)にある遺伝子の変異が原因で引き起こされる生まれつきの病気で、血液が固まりにくくなることから出血が止まりにくい、あざができやすいといった症状が幼少時から繰り返されます。
そのほか、免疫作用の異常によって第Ⅷ因子を攻撃する物質(抗体)が体内に産生されることで血友病Aを引き起こす“後天性血友病A”が見られることもありますが、極めてまれと考えられています。
先天性血友病Aに対する基本的な治療は、血友病Aの根本的な原因となる第Ⅷ因子を補う第Ⅷ因子製剤補充療法です。近年、血友病Aの治療はますます発展しており、血友病Aが原因で命を落とすケースは少なくなっています。また、関節内で出血が繰り返されることによって生じていた関節運動の障害などの合併症も少なくなり、適切な治療を継続すれば、健常者とほぼ変わらない生活を送ることができるケースも増えているのが現状です。
原因
血友病Aは血液を固める物質のひとつである“血液凝固第Ⅷ因子”の産生量が少なかったり、機能が低下したりすることによって発症します。
その主な原因は、性染色体の一種であるX染色体上にある第Ⅷ因子の遺伝子の変異です。X染色体は男性に1本、女性に2本存在し、性染色体が“XY”型の男性では1本のX染色体に遺伝子変異があると100%血友病Aを発症します。一方、性染色体が“XX”の女性では、1本のX染色体に異常があっても、もう片方になければ血友病Aは発症しないことが一般的です。このため、血友病Aは男児に多く発症するのが特徴です。
一方、このような生まれつきの遺伝子変異によるもの以外にも、血友病Aは免疫反応の異常によって血液凝固第Ⅷ因子を攻撃する“自己抗体”が産生されることが原因で発症することがあります。このような血友病Aを“後天性血友病A”と呼びますが、明確な発症メカニズムは解明されておらず、加齢、妊娠、関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患が発症の引き金になりうると考えられています。
症状
血友病Aの多くは遺伝子変異による生まれつきのものであり、幼少期から打撲などがなくても、ささいな刺激で関節内や筋肉内など、体の深い部分に出血を繰り返すのが特徴です。また新生児期や乳児期では、まれに頭蓋内出血を起こすこともあり、命に関わることも考えられます。
そのほか、擦り傷や切り傷などの出血が止まりにくい、歯磨きをすると歯茎からの出血が止まりにくくなる、といった症状が現れることも多いとされています。
血友病Aは幼少期から膝関節内などに出血を繰り返すため、関節内の構造が破壊され関節運動に障害が生じる“血友病性関節症”を発症することがあります。
一方、後天性血友病Aは前触れもなく急激に出血しやすくなるのが特徴で、広範囲に原因不明なあざが広がったり、筋肉が腫れたりする症状が見られます。
なお、出血の程度は血液中の血液凝固第Ⅷ因子の量によって異なり、健常者の血中濃度を100%とした場合、1%未満を“重症”、1~5%未満を“中等症”、5〜40%未満を“軽症”と分類します。中等症や軽症の場合は、症状として現れるのが遅い傾向にあり、きっかけがなく出血することや命に関わるような出血は起こりにくいのが特徴です。
検査・診断
出血のしやすさ、あざや足首や膝の痛みを伴う腫れなどの状態、家族歴などから血友病Aが疑われるときは診断のために血液検査が行われます。
第一に血友病Aである可能性の有無を探る検査として調べられるのは、血小板数、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、プロトロンビン時間(PT)といった出血のしやすさを評価するための一般的な指標となる項目です。
これらの検査項目の結果から、より血友病Aの疑いが高いと考えられる場合は、血液凝固第Ⅷ因子のはたらきを調べる特殊な血液検査が行われます。
そのほか、同じく出血しやすくなる病気であるフォン・ヴィレブランド病などとの鑑別をするため、フォン・ヴィレブランド因子抗原量などを調べる検査が行われることも少なくありません。また、関節症状がある場合には、状態を評価するため、エコー(超音波)検査のほか、CT検査やMRI検査などの画像検査が行われることがあります。
治療
血友病Aと診断された場合は重症度などに合わせて次のような治療が行われます。
第Ⅷ因子補充療法
血友病A患者に不足している正常なはたらきの血液凝固第Ⅷ因子を注射で投与する治療法で先天性血友病A患者に対する治療です。通常は出血を防ぐため、出血が見られていない状態であっても定期的に投与を行います。このような方法を“定期補充療法”と呼び、血友病性関節症の発症を抑える効果があるとして、現在では重症および一部の中等症の患者さんに対して一般的に行われるようになっています。
一方、出血が生じた際には、止血に必要な第Ⅷ因子を急速に投与する“オンデマンド療法”が行われます。
デスモプレシン投与
軽症~中等症先天性血友病Aのケースでは、出血時にデスモプレシンと呼ばれる尿量を調節するホルモンを投与する治療法があります。デスモプレシンには、体内に蓄えられている第Ⅷ因子を血液中に放出させる効果があるため、結果として止血を促すとされています。ただし、患者によっては第VIII因子が放出されない場合があること、また大量出血の場合や重症な場合には十分な止血効果が得られず、頻回に投与を行い過ぎると蓄えられていた第Ⅷ因子が使い尽くされ、効果が現れなくなるといわれています。
自己抗体(インヒビター)に対する治療
生まれつき血友病にかかっている人は、治療で多量の凝固因子製剤を投与するため、体の中で凝固因子に対する自己抗体(インヒビター)を作ってしまうことがあります。自己抗体が生じると、補充された凝固因子のはたらきが邪魔され、凝固因子製剤を投与しても効果がなくなってしまいます。
そこで、自己抗体のある患者には、“免疫寛容導入療法”や“中和療法”、“バイパス療法”などが行われます。免疫寛容導入療法とは、多量の凝固因子製剤を高い頻度で投与することによって自己抗体の産生を抑える治療方法です。中和療法とは、出血が止まらないときに行われる治療で、より多量の凝固因子を投与することで出血を抑えます。バイパス療法とは、血友病Aによって異常の起きている第Ⅷ凝固因子ではなく、それ以外の凝固因子を用いて血液を固めようとする治療です。一例として、活性型第Ⅶ因子製剤などが投与されます。
抗体製剤“エミシズマブ”の投与
抗体製剤“エミシズマブ”は注射によって投与することで、第Ⅷ凝固因子と似たような役割をする抗体製剤です。2018年に販売されるようになった比較的新しい薬剤で、インヒビターを持っている患者にも有効です。
後天性血友病Aの治療方法
後天性血友病Aの治療では、免疫抑制療法や中和療法、バイパス療法による止血治療が行われます。頭や胸、腹部など、出血すると命に関わるような部位から出血した場合や、出血することによって貧血が進行するような部位からの出血の際に行われることが一般的です。
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