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編集部記事

記憶のない内出血やあざ、なかなか出血が止まらない〜出血が止まりにくい原因と考えられる病気

記憶のない内出血やあざ、なかなか出血が止まらない〜出血が止まりにくい原因と考えられる病気
正木 康史 先生

金沢医科大学病院 血液リウマチ膠原病科 教授

正木 康史 先生

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「ぶつけた記憶はないのに内出血やあざができている」「擦り傷・切り傷から出血が止まらない」というとき、体の中ではどのようなことが起きているのでしょうか。このような状態が長く続く場合には、何らかの病気が潜んでいる可能性もあります。本記事では、体の持つ止血作用の仕組みや、出血が止まらないときに懸念される病気の種類についてご紹介します。

血液を全身へ巡らせる役割を持つ血管は、内側から内膜・中膜・外膜の三層で構成されており、血液に接する内膜の表面は内皮細胞と呼ばれる組織に覆われています。擦り傷・切り傷など何らかの理由で血管が破れ、血液が血管の外に流れ出ることを出血といいます。人間の体には、出血が生じたときに破れた血管から血液が流れ出るのを防ぎ、血管の破れを修復する機能である“止血作用”が備わっています。以下では、出血時の止血作用の流れについてご説明します。

止血作用には、主に四つの段階があります。それぞれ、順を追ってご説明します。

一次止血

一次止血では、出血の際に血液中の血小板が集まり、ダメージ部分にくっついて固まることで血管の破れを塞ぎます。血小板とは、白血球や赤血球などと並ぶ血液の成分のひとつで、止血において重要な役割を担う成分です。一次止血によってできた血小板の塊を血小板血栓といいます。

二次止血

二次止血では、血液中の血液凝固因子と呼ばれる成分が集まって、一次止血で生じた血小板血栓の上に網目のようにくっつき、より丈夫な血栓を作ります。二次止血が完了すると、出血はほとんど治まります。

血管修復の開始

一次止血、二次止血で出血が治まると、損傷した血管の修復がスタートします。血管のもっとも内側にある内皮細胞が増殖し、血栓に代わって血管の破れを覆い、修復していきます。

線維素溶解()

内皮細胞の増殖により血管の修復が進むと、血管の破れがなくなるため、一次止血、二次止血で作られた血栓は血流を妨げる不要なものとなります。不要になった血栓は、血液中のたんぱく質によって溶かされます。このことを、線維素溶解(せんいそようかい)、あるいは線溶(せんよう)といいます。

出血といえば、擦り傷・切り傷などから体の外へと血が流れることをイメージする方が多いかもしれません。細かくいうと、これらは外出血と呼ばれます。一方、出血の種類には、血が体の外に流れ出ることのない、内出血という種類もあります。内出血にはさまざまな種類があり、身近なものは、血管から流れ出た血が皮膚の中にたまり、皮膚が青や紫色のあざになってしまう状態です。皮膚の中に出血し、それが皮膚内にとどまることを皮下出血といいます。

皮下出血による青あざは、ぶつけたときにできることがあり、健康な体であれば時間とともに自然に治っていきます。しかし、何らかの理由で血が止まりにくい場合、血管が弱くなっている場合には、ぶつけた記憶がないのにあざができていたり、できたあざがなかなか治らなかったりします。

前述のように、元来であれば、出血すると人間に備わった止血作用によって、時間とともに止血され、傷ついた血管は修復されていきます。しかし、血液の状態によっては、止血作用がうまくはたらかず、出血が止まりにくくなってしまうことがあります。以下では、出血が止まらないときに考えられる原因について、大きく三つに分けてご説明します。

出血が止まりにくいときは、血小板の量やはたらきに問題が生じている可能性があります。たとえば、以下のような病気にかかっている場合、出血が止まりにくくなることがあります。

血小板の量やはたらきの問題によって、出血が止まりにくくなる病気には、以下のようなものがあります。

<血小板の量やはたらきに問題が生じる病気>

そのほか、急性白血病再生不良性貧血骨髄異形成症候群MDS)など、多くの病気で血小板減少が起こることがあります。

急性白血病・再生不良性貧血などによる造血障害

造血障害とは、何らかの原因によって血小板を含む血液の成分がうまく作れないことをいいます。急性白血病、骨髄異形成症候群(MDS)、再生不良性貧血、血球貪食症候群全身性エリテマトーデスSLE)、ウイルス性感染症、脾機能亢進症、ビタミンB12や葉酸欠乏などがきっかけで生じることが多いです。そのため医療機関では、「いつのまにか出血斑(あざ)ができる」「出血が止まらない」と訴える方に対して、これらの病気の可能性はないか検査をすることがあります。

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、血液中に血小板血栓が大量に作られることで、血液中の血小板が減少してしまう病気です。100万人に対し年間4人程度発症するといわれており、指定難病にも登録されています。この病気では、出血斑(あざ)だけでなく、発熱、黄疸や貧血、精神症状(頭痛、見当識障害、せん妄、錯乱)、腎機能障害などの症状が現れます。 早期診断と適切な治療が必要です。

溶血性尿毒症症候群(HUS)

溶血性尿毒症症候群(HUS)は、O-157などの腸管出血性大腸菌などが原因の溶血性貧血、血小板減少、尿毒症を特徴とする症候群です。発症するのは比較的まれですが、幼児から小児に好発します。溶血性尿毒症症候群(HUS)では、嘔吐・下痢・血便などが前ぶれとして起こり、その後、出血斑(あざ)、腎機能の急激な悪化や貧血が起こり、けいれんや意識障害・昏睡など重篤な事態に進展することもあるため、速やかな診断と適切な治療が必要になります。

免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)

免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)は、血液中の血小板が減少することで出血の危険が高まる血液の難病のひとつです。急性型と慢性型があり、急性型は2~5歳の子どもがかかり、6か月以内に治癒します。一方、慢性型は20~40歳の大人がかかり、女性に多いです。慢性型はその名のとおり、6か月以上経過しても治癒せず、長期的に関わっていく必要があります。免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)の症状には、手足の紫斑、鼻血や口腔内の出血などがあります。また、出血が続くため、鉄欠乏性貧血を起こしている場合もあります。

服用中の薬剤の影響によって、血小板の産生量が減少して出血が止まりにくくなることがあり、これを薬剤性血小板減少症(DITP)と呼びます。また、血小板のはたらきが抑えられて出血が止まりづらくなることもあります。これらの場合、疑わしい薬剤の使用を中止し、その後の経過を観察します。ただし、治療中の病気との兼ね合いもあるため、個人の判断で勝手に服薬を中止せず、薬剤を処方した医師に必ず相談してください。

出血が止まりにくいときは、血液に含まれる血液凝固成分に異常が生じている可能性もあります。凝固異常を起こす原因となる病気としては、血友病などが挙げられます。

血友病とは、血液凝固成分が不足しているために出血が止まりにくくなる先天性の病気のことです。血液凝固因子は12種類ありますが、血友病の患者さんはそのいずれかの因子が不足しているため出血が止まりにくくなります。小児期より関節内および筋肉内出血を繰り返し、関節内出血を繰り返した結果、関節の変形に至ることもあります。また、けがや手術・治療の際に出血量が多くなりやすい傾向があります。軽度な血友病では見過ごされ、生活に影響が出ないこともありますが、重度の場合には命に関わる危険性があります。

前述のとおり、出血が止まりにくくなる原因には、血小板や血液凝固因子の異常などが考えられます。以下のような病気の場合、血小板と血液凝固因子の両方に異常が生じ、出血が止まりにくくなります。

播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC)は、本来であれば凝固しない血液が固まることにより、全身の血管に血栓ができて臓器の機能不全を起こす病気です。この病気にかかると、血液中の血小板や血液凝固因子が大量に消費されてしまうため、出血時に作用する血小板・血液凝固因子がなくなって、出血が止まりにくくなります。症状には、あざができやすい、出血が止まりにくい、腎不全症状(尿が少なくなる)、呼吸困難、下血(便に血液が混じる)、血尿・吐血などが挙げられます。

血管の壁の異常によって出血が止まりにくくなるケースもあります。たとえば、血管性紫斑病IgA血管炎)、クッシング病などが考えられます。

多くは風邪や腹痛などの症状が出た少し後に、点状の皮下出血、関節痛、炎症反応上昇、足に少し盛り上がったあざが生じ、時に腎機能障害を合併します。この場合は、血小板や凝固因子は正常で、血管の壁に炎症が起こった結果、内出血が起こります。

クッシング症候群は、コルチゾールというホルモンが過剰に分泌されることで、さまざまな症状を呈する病気です。1:4の割合で女性の患者さんが多いという特徴があります。クッシング病にかかると、血管が弱くなり、ぶつけた自覚がなくても内出血を起こすなどの症状が現れます。

以上のように、「ぶつけていないのに内出血やあざができる」「出血が止まらない」というときは、血液や血管に何らかの問題が生じている可能性があります。症状が続く場合には、早めに病院を受診することをおすすめします。

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