インタビュー

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療とは〜3つの段階別の治療内容や注意点〜

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療とは〜3つの段階別の治療内容や注意点〜
村田 満 先生

国際医療福祉大学 臨床医学研究センター 教授

村田 満 先生

目次
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特発性血小板減少性紫斑病(とくはつせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう)(ITP)は、血小板の減少によってさまざまな症状が現れる病気で、慢性型、急性型などの違いによって治療法が異なります。その特発性血小板減少性紫斑病の治療について、慶應義塾大学病院臨床検査科の村田(むらた) (みつる)先生にお話を伺いました。

特発性血小板減少性紫斑病の治療におけるポリシーは、患者さんが薬を使わずに日常生活を送れる状態にすることです。主に重篤な出血症状を伴わない緩やかな急性型、および慢性型の特発性血小板減少性紫斑病と診断がついた場合には、以下のとおり治療を行います。

※重篤な出血症状を伴う急性型に対する治療については、次項でご説明します。

まずピロリ菌の検査を行います。ピロリ菌は、慢性型(6か月以上血小板減少症が続く)の特発性血小板減少性紫斑病の原因の1つです。ピロリ菌が陽性だった場合、すぐに除菌療法を始めます。

ピロリ菌が陰性だった場合には、血小板の数に応じて治療方針を決定します。

【血小板数3万/μL以上+出血症状がない場合】

血小板数3万/μL(マイクロリットル)()以上かつ出血症状がなければ、検査から1週間後に再び患者さんの様子を見て、特に問題がなければ無治療・経過観察となります。

【血小板数2~3万/μL+出血症状がない場合】

血小板数2~3万/μL未満かつ出血症状がない、もしくは軽微な場合には、注意深い経過観察となり、1週間に1回ほどの外来によって経過観察を行います。

【血小板数2万/μL未満もしくは明らかな出血症状がある場合】

血小板数が2万/μL未満、もしくは明らかな出血症状(多発する紫斑・点状出血・粘膜出血)がある場合には、基本的に治療を行います。特に1万/μL未満 の場合は重篤な出血症状が生じる可能性があるので、積極的な治療が必要です。

特発性血小板減少性紫斑病の治療では、まず副腎皮質ステロイド療法を選択します。基本的には、最初の1か月ほど多量の副腎皮質ステロイドを使って血小板数を上昇させ、それから徐々に薬の量を減らしていきます。

一般的に、副腎皮質ステロイド療法を経て、患者さんの20〜25%は血小板数5〜6万/μL以上に回復し、その後は無治療が可能な状態になります。患者さんの50%は、継続的に少量の副腎皮質ステロイドの服用が必要となります。残りの20%は副腎皮質ステロイドが効かない、もしくは大量のステロイド服用の維持が必要です。その場合には、セカンドライン治療へ移行します(詳しくは後述します)。

副腎皮質ステロイドはもともと副腎から出ているホルモンで、免疫を抑制する作用を持ちます。ただし、薬として服用する副腎皮質ステロイドは量が桁違いに多く、3つの副作用があります。特に、感染症リスクの上昇とステロイド誘発性糖尿病には注意が必要です。

感染症リスクの上昇:副腎皮質ステロイドは免疫を抑制するため、感染症のリスクが上がります。

ステロイド誘発性糖尿病:副腎皮質ステロイドを長期服用した場合、代謝の異常によって血糖値が上昇し、糖尿病を誘発することがあります。

ステロイド骨粗しょう症:副腎皮質ステロイドは、3か月以上の継続的な服用によって骨の量・質を低下させることがあります。

消化性潰瘍(しょうかせいかいよう):副腎皮質ステロイドの服用により、胃潰瘍をはじめとする消化性潰瘍が現れることもあります。消化性潰瘍が疑われるケースでは内視鏡検査が推奨されます。

副腎皮質ステロイド療法が効かない、もしくは大量の維持量が必要なケース(患者さんの20%ほど)、もしくはステロイド療法を選択できないケース(糖尿病など)では、セカンドライン治療として、トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)やリツキシマブの投与、あるいは脾臓(ひぞう)の摘出を検討します。

トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)の投与

トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)は、巨核球や造血幹細胞に現れるTPO受容体に結合することで血小板の産生を促す治療薬です。もともとサードライン治療として扱われていましたが、80%以上の症例で有効とされており、副作用も軽度である確率が高いことから、現在はセカンドライン治療として行われています。

一方、TPO-RAには多くの場合で継続的に治療が必要となることや血栓症・頭痛・骨髄線維化などの副作用が見られる恐れがあること、新しい治療薬で妊娠中の投与の安全性、10年以上の長期的な治療成績が分からないことなどの注意点もあります。

リツキシマブの投与

リツキシマブはB細胞を減少させることにより、抗体の産生を減少させる治療薬です。リツキシマブはTPO-RAの投与や脾臓の摘出と比較すると50〜60%と有効率が劣ってしまいますが、治療が4週間と短期で終了し、20〜30%の確率で長期的な奏効率を得られる可能性があるといわれています。また、現段階では特に40歳未満の若い女性に対する有効率が高いと考えられています。

一方、リツキシマブは急性輸注反応による発熱、頭痛などが生じることがあるほか、免疫力の低下や感染症の悪化などが見られる恐れがあります。

脾臓の摘出

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の症状・原因・分類』でご説明したように、特発性血小板減少性紫斑病は免疫機能の異常によって脾臓が血小板を処理することで起こります。そのため脾臓を摘出すると、50〜60%の患者さんが無治療+経過観察の状態にまで回復します。また血小板数が上昇すれば副腎皮質ステロイドの服用量を減らせることもでき、大きなメリットとなります。

一方、脾臓を摘出する場合、手術に関連する合併症が生じる恐れがあるほか、脾臓を失うことによって生涯に渡って感染症にかかりやすくなったり、静脈血栓症にかかりやすくなったりする恐れがあります。そのため、脾臓の摘出は診断から半年、あるいは1年以上経った後に検討することが推奨されています。

ファーストライン治療・セカンドライン治療で効果が出ない特発性血小板減少性紫斑病に対しては、サードライン治療として、患者さんの状態・副作用への耐性を考慮し、治療法を1つずつ試していきます。また、時には複数の治療方法を併用することが検討されます。

以下では、サードライン治療として検討されることのある主な薬剤をご紹介します。なお、ここで紹介する治療薬は保険適用外となることに注意が必要です。

【サードライン治療で行う薬物療法】

  • アザチオプリン
  • シクロスポリン
  • シクロホスファミド
  • ジアフェニルスルホン
  • ダナゾール
  • ビンカアルカロイド系抗悪性腫瘍薬
  • ミコフェノール酸モフェチル(MMF)

子どもに多い急性型の特発性血小板減少性紫斑病では、通常の血小板数が15万〜35万/μLのところ、1万/μLまで急激に減少し、粘膜を含めて重篤な出血症状が出ることがあります。特に、脳出血を起こしている場合には迅速な治療が必要になります。そのような場合には緊急的な治療として血小板輸血、免疫グロブリン大量療法、メチルプレドニゾロンパルス療法を検討します。

血小板を点滴静脈注射で輸血します。ただ特発性血小板減少性紫斑病は、正常につくられているはずの血小板が壊れて起こる病気ですから、血小板を輸血しても根本的な解決にはなりません。そのため特に緊急性の高い状況において、脳出血などの致命的な出血を防ぐために血小板輸血を行います。

免疫グロブリンとは、血液中に含まれる、免疫機能において重要な役割を果たすタンパク質です。脾臓のはたらきをブロックする免疫グロブリンを大量に点滴静脈注射することで、数日後から血小板が増え、およそ1週間後に血小板数が最大になります。

免疫グロブリン大量療法は効果が2〜3週間しか持続しないこと、100万円以上(保険適用後)の費用がかかることから、特に緊急性の高いケースにおいて治療に用いられます。たとえば患者さんが出産する場合や、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)がん)の手術をする場合、血小板数のピークを出産日(帝王切開)もしくは手術日に合うよう調整します。

メチルプレドニゾロンパルス療法は、メチルプレドニゾロンを1日1g、3日連続して点滴で静注することにより血小板の増加を目指す治療方法です。投与から3日後には80%ほどの症例で血小板の増加が見られることが分かっていますが、一時的な増加であることが多いため、パルス療法後に経口プレドニゾロンによる維持療法を行うことが一般的です。また、重篤な状態の場合には血小板輸血や免疫グロブリン大量療法と併用して行われることもあります。

特発性血小板減少性紫斑病における“完治”を具体的に数値化すると、血小板数が10万/μL以上の状態を指します。特発性血小板減少性紫斑病は治療を経て、急性型のうち9割、慢性型のうち1割の患者さんが完治しています。一方で、慢性型については残り9割の患者さんが何かしらの治療を継続し、経過観察を必要とします。

トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)やリツキシマブの登場で特発性血小板減少性紫斑病の治療は新しい局面を迎えました。しかし、両者とも病気を根本から治しているものではありません。今後この病気に特有な病態の解明を進め、より細分化された根治療法を目指したいと考えます。

特発性血小板減少性紫斑病の患者さんが注意すべきことは3つあります。

1つ目は、出血を避けるために打撲などを含めてけがをしないことです。患者さんの多くに現れる点状出血であれば、慌てて病院へ行く必要はありませんが、頰の内側に血豆ができ始めたら、症状悪化のサインの可能性があります。できるだけ早めに主治医に診てもらいましょう。

2つ目は、むやみに薬(市販薬・サプリメント・栄養剤・別の病気で処方される薬など)を飲まないことです。なぜなら、さまざまな薬が血小板を減らす作用を持つためです。風邪などを含めほかの病気にかかって病院を受診した際には、自身が特発性血小板減少性紫斑病であることをきちんと伝えましょう。

3つ目は、特発性血小板減少性紫斑病かつ血圧が高めの患者さんであれば、血圧を下げる治療を行います。その目的は、脳出血のリスクを下げることです。特に患者さんが高齢の場合、塩分制限や降圧薬(血圧を下げる薬)による治療で血圧をコントロールします。

村田満先生

特発性血小板減少性紫斑病は、慢性の場合は特に、多くのケースで継続的な投薬治療と経過観察を要します。しかしながら、特発性血小板減少性紫斑病は基本的に良性の病気です。主治医と相談し、社会生活への影響を最小限に抑えながら、上手に付き合っていきましょう。

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