インタビュー

ITP(特発性血小板減少性紫斑病)の治療ー子どもや妊婦の場合

ITP(特発性血小板減少性紫斑病)の治療ー子どもや妊婦の場合
宮川 義隆 先生

埼玉医科大学病院 血液内科 教授

宮川 義隆 先生

目次
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この記事の最終更新は2016年08月05日です。

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は血小板が極度に減少し、出血しやすくなる難病であることを前ページでお話ししました。日本ではITPに関する情報が不足しているため、一部の病院では過去の知見に基づいた治療が行われており、患者さんの生活に厳しい制限が課されているのが現状です。しかし実際は、ほとんどのITPの患者さんには運動制限が不要であり、血小板が3万/μL以上であれば妊娠や出産も可能です。埼玉医科大学病院 総合診療内科(血液)・教授の宮川義隆先生は、こうした情報を積極的に発信し、医師や患者さんに正しい治療を知ってもらうことが重要だとおっしゃいます。引き続き、宮川義隆先生にお話をお伺いします。

ITPは、通常6カ月以内に血小板が正常化して回復する「急性型」と、生涯にわたり血小板が少ない状態が続く「慢性型」の2種類があります。急性型は子どもに多く、大人のほとんどが慢性型とされています。

急性型ITPと慢性型ITPの比較
急性型ITPと慢性型ITPの比較

なぜ大人と子どもでこのような違いが生じるのか、はっきりとした理由は解明されていません。小児喘息や小児アトピー皮膚炎などが成長とともに自然に治るのと同じように、子どもは成長に伴い免疫のバランスが変化していくことで免疫機能が正常化し、自然治癒するのではないかと考えています。

また、上記表のとおり、ITPは男性よりも女性に多く発症します。女性に多発する理由には、おそらくホルモンが関係していると考えられます。

膠原病(こうげんびょう)や甲状腺機能低下症などの自己免疫疾患は、総じて女性(特に20~30代のホルモン分泌が活発な時期)に多発するという特徴があります。ITPは膠原病の親戚のような疾患ですから、膠原病と同様、女性に多くみられると予測されます。

医師と看護師と触れ合う子供

日本の場合、ITPによって子どもの血小板が1万/μLを切れば緊急入院となり、免疫グロブリン製剤を大量投与する治療が行われます。また、子どもが3歳以下の場合はベッド上からの転落・出血を防止するため、ベッド周囲に柵をつけ、さらにバスタオルで天井に蓋をしているという施設がいまだにあります。確かに転落は防げるかもしれませんが、子どもは不安ですし窮屈でしょう。

一方アメリカでは、たとえ血小板が8,000/μLだとしても、出血がみられない限りは外来で診療が終了します。欧米では子どもの血小板の数値に関わらず、たとえ1万/μLを切っていたとしても、出血がみられなければ治療をしません。このように日本と欧米では、子どものITPに対する対応方針が全く異なります。

なぜ日本と欧米ではこのような差が生じるのでしょうか。これは、日本にはITPの小児血液専門医が非常に少なく、また海外に比べて情報が不足している点にあると考えます。

日本では小児血液専門医の9割以上が白血病を専門としています。また、子どものITPの治療ガイドラインが十数年以上改訂されておらず、昔からの治療が現代にまで引き継がれてしまっています。つまり、日本にはITPの情報が不足しているため、治療方針を変えていくことがほとんどできず、子どものITPに対して非常に慎重な管理対応をしてしまっているのです。

実際には、血小板が一定以上に保てていれば強い治療は必要ありませんし、過度な運動制限をする必要もありません。柔道など頭部外傷の可能性がある運動は避けるべきですが、それ以外の活動であれば制限は基本的に不要です。

現在の日本では、こういったアドバイスができる医師はほとんどいません。

セカンドオピニオンを受ける患者と医師

ITPの子どもをもつ親御さんに不安を抱かせないためには、医師が正しい指導をするということが重要です。

たとえば親御さんが最初に受診した医師に「あなたのお子さんは血小板が少なく出血しやすいため、自転車に乗ったり体育で激しい運動をしたりすると非常に危険ですから、運動は控えて体育はすべて見学させてください」という指導を受ければ、当然子どもの怪我が心配になります。また、医師のいうことを守ろうとして厳しく生活を制限してしまうでしょう。実際、このような指導をする医師は現在でも多く、子どもたちはつらい思いをしています。

もしもITPの子どもをお持ちで、上記のような指導を受けた場合、一度セカンドオピニオンを受けてみることをお勧めします。

前項で述べたとおり、ITPは妊娠適齢期の女性に多くみられる疾患であるため、妊娠を希望する患者さんが多数いらっしゃいます。

これまでの妊娠合併ITP診療ガイドライン(1994年版)では、血小板が5万/μL以下の場合「妊娠してはいけない」、「万が一妊娠した場合は堕胎を考慮する」ということが記載されていました。当時は血小板が少なければ出産時の出血が止まらないため、母体死亡のリスクが高いと考えられていたからです。

また、かつて「ITPの患者から生まれた胎児は約3割の確率で死亡する」という発表があったことも、妊娠の禁止と中断を助長したと考えられます。ですから、ITPで妊娠を希望する日本の女性は、ITPを治療してから妊娠・出産に臨むことが奨励されていたのです。

その後の研究が進み、血小板が3万/μL程度あれば妊娠維持が可能であるということが判明します。改訂された妊娠合併ITP診療ガイドラインでは、「妊娠初期から中期の出血症状がない妊婦においては、血小板数を3 万/μL 以上に保つことを目標とする。」と表記されています。(妊娠合併ITP診療の参照ガイドより引用)

ITPの 患者さんから生まれてくる赤ちゃんのうち約1割が血小板数5 万/μL 以下、約0.5割が血小板数2 万/μL 以下となり、治療を必要とすることがあります。

2000年頃までは、経腟分娩で赤ちゃんが狭い産道を通ってくると、脳出血を起こすと信じられており、全例が帝王切開による分娩と決められていました。実際、私が若手医師だった頃も教授からそのように教わっていたのです。

しかし、当時から欧米では多くのITPの患者さんが自然分娩で出産していらっしゃいます。このような欧米の対応を知った医師のなかで、日本でも自然分娩にするべきだという意見が広がりました。

今回改訂を行った妊娠合併ITP診療ガイドラインには、血小板が3万/μL以上であれば妊娠が可能であること、また5万/μL以上であれば自然分娩での出産も行えるということが明記されています。

ガイドラインの改訂により、医師は自信をもって「妊娠して大丈夫です」ということが可能となります。

また、ガイドラインの改訂によって、患者が安心して赤ちゃんを授かることができるようになりました。これは、今回のガイドライン改訂における最大のメリットともいえます。

これまでお話ししてきたように、日本においては血液専門医でもITPを診る機会が少なく、患者さんは「ITPの情報がみつからない」「相談にのってくれる人がいない」といった悩みを抱えています。

今後このような状況を改善していくためには、ITPの正確な情報を医師・患者さんの双方に共有していく必要があります。

現状のITPの治療環境を改善するため、私は2012年にFacebookでITP患者さんとそのご家族のために「ITP患者のひろば」を開設しました。

このページには全国各地の患者さんが集まり、基本的な情報に加えて、患者さんが抱える不安や治療への疑問などを投げかけ、患者さん同士で情報交換をしあうことができます。また、このページでやり取りを重ねることで、患者さんの悩みを解消し、ガイドラインの改訂や欧米での治療方針など、ITPの最新情報を得ることが可能となります。さらに、2013年には国内初となるITPの患者会「なんくるないさー」も発足しており、患者さん同士の更なる交流を図る基盤が整いつつあります。

ITPの患者さんの不安が解消され、多くの医療機関で正しい治療が提供されることを目指し、今後も啓蒙活動を進めたいと思います。

*コラム

近年では、リツキシマブによるITP治療の可能性にも注目しています。リツキシマブによるITPの治療は、欧米では脾摘(詳細は記事1)に変わる治療法として2000年頃から積極的に行われており、日本でも保険の適用が求められてきました。

私が研究代表者を務め、2011年~2013年にかけて行われた医師主導治験により、2017年に保険適応となりました。リツキシマブにより、ITPの治療は大きく変わるでしょう。

治験が進んでいるリツキシマブ

治験が進んでいるリツキシマブ製剤のバイアル(画像提供:宮川義隆先生)

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