インタビュー

慢性特発性血小板減少性紫斑病(慢性ITP)の治療とその変遷、病気との向き合い方について

慢性特発性血小板減少性紫斑病(慢性ITP)の治療とその変遷、病気との向き合い方について
柏木 浩和 先生

大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学

柏木 浩和 先生

目次
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特発性血小板減少性紫斑病(とくはつせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう)(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura:ITP)は、何らかの原因によって免疫に異常が生じ、自身の血小板を攻撃してしまう病気です。血小板数が減少すると止血能力が低下するため、あざができやすくなる、歯茎や口内の粘膜から出血する、月経過多となるといった症状が現れます。また、血小板数が著しく減少している場合には脳出血などの重篤な出血を引き起こす可能性もあります。

一方で、慢性ITPは治療によって血小板数が安定すれば、生活上の制限などはほとんどなく過ごすことができる病気だと大阪大学血液・腫瘍(しゅよう)内科の柏木(かしわぎ) 浩和(ひろかず)先生は言います。

本記事では柏木先生に、2021年2月時点での慢性ITP治療の考え方や今後の展望についてお聞きしました。

ITPは自己免疫疾患の1つです。自己免疫疾患は免疫に何らかの異常が起こり、自己抗体(自身の体内にある特定の成分に反応する分子)や細胞傷害性T細胞(異物とみなした細胞を破壊するはたらきをもつ細胞)などによって自分の体が傷害されます。ITPにおいて作り出される抗体の多くは抗血小板自己抗体です。これにより、主に脾臓(ひぞう)で血小板が破壊(貪食(どんしょく))され、血小板が通常よりも減少してしまいます。加えて自己抗体が血小板の産生も障害することにより、血小板減少をさらに悪化させます。

血小板は止血を司っている細胞です。そのため、血小板が減少することで出血しやすい(出血が止まりにくい)状態となってしまいます。ITPで見られる症状の一例として、以下が挙げられます。

  • 皮膚に見られる出血(点状あるいは斑状のあざ
  • 歯茎や口腔(こうくう)粘膜からの出血、鼻血
  • 月経過多

また、重症の場合(血小板数が1万/μl以下と著しく減少している場合)には、まれではありますが脳出血などの重篤な出血が生じることもあります。

ITPは5歳以下の子ども、20~40歳台の女性、高齢者に好発し、特に最近では高齢者のITP患者さんが増加傾向にあります。小児ITPと成人ITPではその経過が異なることが多く、小児ITPの場合は多くが急性型といって、6か月以内に自然治癒します。

一方、成人ITPの場合には血小板の減少が6~12か月以上にわたって続く慢性型が多く、長期間にわたる経過観察や治療が必要になります。

以降では、主に成人慢性ITPの治療などについて解説していきます。

血小板数の基準値は、15万~40万/μl程度とされています。一方、慢性ITPの治療においては、血小板数3万/μlが1つの目標値となります。基準値よりも低い値で問題ないのかと心配する方もいらっしゃるかもしれませんが、治療の大きな目標は血小板数を基準値まで戻すことではありません。

慢性ITPの治療においてもっとも重視すべきは、命に関わるような出血を回避できるだけの血小板数を維持しながら、生活の質(QOL)を保つことです。3万~5万/μl程度の血小板数があれば、日常生活を送るうえで大きな制約はほとんどありません。反対に、血小板数をより基準値に近づけるために長期にわたって過剰に薬剤を投与すると、副作用によって生活の質が低下してしまう可能性もあるのです。

一方で、血小板数3万/μlという目標値もあくまで目安でしかありません。2019年に改訂された成人ITP治療の参照ガイド(治療の指針をまとめた資料)では、経過観察を含む治療方針の決定において重視されるのは、血小板数と出血症状の程度、そして患者さん自身のライフスタイルや年齢、合併症、さらに今後の希望・予定であるという旨が記されています。

たとえば、血小板数3万/μl程度を保てている方でも、運動を頻繁にする、職業柄けがのリスクが高い、あるいは手術や歯科治療が控えている場合などには、さらに血小板数を増やすために治療を検討します。しかし、同じ血小板数であっても、出血症状がなく、激しい運動を行う習慣もない場合には経過観察を選択することもあります。

また、治療を行う場合には、患者さんが通院可能な頻度や妊娠希望の有無などによって、どの治療を行っていくかを主治医と相談していくことになります。大切なことは、患者さん自身が自分の状態やITPの治療についてしっかりと理解したうえで、どうしていきたいのかということを主体的に考え希望を主治医に伝えるなど、“自身も治療方針の決定に参加する”という意識をもつことだといえるでしょう。

2019年改訂の成人ITP治療の参照ガイドにおける大きな変更点は、これまで実施優先度が低いとされていた治療法の安全性などが確認されたことによる、治療選択肢の増加です。これにより、より患者さんのライフスタイルに即した治療法の選択が可能となりました。

成人ITPにおける治療の流れ
成人ITPにおける治療の流れ

ピロリ菌除菌

ITPと診断された際は、初めにピロリ菌の感染有無を確かめ、感染が確認された場合、除菌を実施します。日本において、1回目のピロリ菌除菌が成功する方は68~93%程度で、さらに除菌が成功した方の中で血小板の増加が見られる割合は50~70%程度です。

また、ピロリ菌除菌が成功し、血小板数が10万/μl以上まで回復すると、その後長期にわたって再発が少ないということも分かっています。

副腎皮質ステロイド療法

副腎皮質ステロイド(ステロイド)療法では、血小板や血小板の元となる細胞の破壊を抑えたり、血小板を破壊する抗体(抗血小板自己抗体)の産生を抑えたりすることで血小板数の増加を目指します。ピロリ菌に感染していなかった場合、もしくはピロリ菌の除菌で効果が見られなかった患者さんに対して最初に検討される治療法です。

およそ70~80%の患者さんで血小板数の増加が得られる一方で、減薬に伴って血小板数が減少してしまうことが多く、血小板数を保ったままステロイドの投与を中止できるのは10~20%程度といわれています。また、副腎皮質ステロイドは長期にわたって大量に投与してしまうと免疫機能の低下や骨粗しょう症などさまざまな副作用が起こるため、血小板数に関わらず、数か月以内に維持量以下に減量することが推奨されています。

ステロイドによる治療で効果が見られなかった場合や、合併症などによりステロイドの投与が十分にできない場合、ステロイドの長期的な投与による強い副作用が懸念される場合には、トロンボポエチン受容体作動薬療法、リツキシマブ療法、脾臓の摘出を患者さん個々のライフスタイルや希望などによって検討します。

トロンボポエチン受容体作動薬療法

血小板の産生を促すことで血小板数の増加を目指す治療です。

この治療で血小板数の増加が見られる方は80%以上というデータがあり、有効率は比較的高いといえます。そのため、従来の治療が無効だった方でも血小板数の増加が望めるケースが増えています。その一方で、投与を中止した場合でも長期的な寛解を維持できる(血小板数が必要な値で安定する)可能性は低く、多くの場合で継続的な治療が必要です。また、妊娠している方には原則使用できません。

リツキシマブ療法

血小板を破壊する抗血小板自己抗体の産生を抑えることで血小板数を増やす治療です。

投与した方の50~60%で血小板数の増加が期待できます。ただし長期的な有効率は20~30%にとどまります。

リツキシマブ療法は治療の有効率で見ればトロンボポエチン受容体作動薬や脾臓摘出には劣るものの、短期間で治療が終了し、一部の症例では長期的な寛解も期待できることが特徴です。

脾臓摘出

ITPにおいては、主に脾臓で血小板が破壊されたり、抗血小板抗体が産生されたりします。そのため、脾臓を摘出することで血小板の破壊や抗体の産生を抑えて血小板数の増加を目指す治療が脾臓の摘出です。

ただし、ITPは無治療でも自然に血小板数が増加する場合があるため、脾臓の摘出は診断から6~12か月が経過してから検討されます。また、脾臓摘出手術の実施にあたっては血小板数が5万/μl以上であることが望ましいとされています。

脾臓摘出を行った場合の治癒率は約60%と、トロンボポエチン受容体作動薬療法、リツキシマブ療法と比較して、もっとも治癒率が高い治療です。しかし、脾臓を摘出することで肺炎球菌や髄膜炎菌、インフルエンザ菌などへの抵抗力が弱まるため、生涯にわたって定期的なワクチンの接種が必要となります。

緊急治療

血小板数が著しく減少(1万/μl以下まで減少)し、それによって命に関わるような出血(脳出血など)が起こっている患者さんや、外科手術や分娩など出血を伴う処置を速やかに行う必要がある患者さんに対しては、緊急治療を実施することがあります。

柏木 浩和先生

新たな治療薬の登場や既存薬の適応拡大によってITP治療の選択肢は以前よりも広がりました。一方で、どのような患者さんにどのような治療を実施すればもっとも効果が見られるのかといった点はいまだ分かっておらず、現在も活発に研究が進められています。

たとえば、ある特定の検査データが陽性だった場合にはこの治療法が望ましいなど、より個別化した治療を提案できるようにしていくということが、ITP治療の今後の大きなテーマの1つです。

また、現在治験が進行している治療薬もあり、それらは既存の治療薬と血小板を増加させる仕組み(作用機序)が異なるため、今後ITP治療の選択肢はさらに広がっていくことが期待されます。

治療の選択肢が増えれば増えるだけ、それぞれの患者さんのライフスタイルやライフプランを尊重しやすくなっていくでしょう。

ITPであるからといって必要以上に生活を制限する必要はありません。「出産は諦めなくてはいけないのか」と質問をされることもありますが、決してそんなことはありません。できるだけ患者さんの希望を実現できるよう主治医と相談しながら進めていくのがITPの治療です。

妊娠、出産に限らず、旅行に行きたい、こんなスポーツをしてみたいなど、やりたいことがあればまずは積極的に主治医に相談してみてください。実現にあたって現在の血小板数では難しいという場合でも、必要に応じて治療を変更し希望を叶えることができるケースもあります。

一方で、数値が安定していた方であっても急激に血小板数が減少することもあるため、出血症状にはある程度気を配って日々観察するようにしてください。ただし、必要以上に気にしすぎることは逆にストレスにもなりますので注意しましょう。

また、急激に血小板数が減少するパターンとして多いのが、風邪などの感染症がきっかけとなるものです。そのため、できる限り感染症にはかからないよう心がけてください。

また、治療が長期にわたることも多いため、徐々に服薬が雑になってしまう方も見られます。誤った服用によって効果が十分に得られない場合も多々あります。自身が服用している薬の服用方法をしっかりと理解して実践し、十分な治療効果が得られるようにしましょう。

慢性ITPは以前と比較して、確実に治療の選択肢が増えてきています。どの治療がよいのかということは、患者さんのライフスタイルやライフプランによっても異なります。

慢性ITPの治療において大切なことは、患者さんご自身が病気について理解したうえで自分がどのような生活をしていきたいのか、何を重要視したいのかを考え、治療法を医師と共に探っていくことです。医師任せになるのではなく、ぜひ患者さんにも“主体的に治療に参加する”という意識を持っていただければと思います。

繰り返しになりますが、慢性ITPは血小板数が安定すればほとんど制限などをせずに日常生活を送れる病気です。治療は長く続くことが多いですが、決して悲観的・消極的にならずにやりたいことがあれば主治医に相談し、それを実現しやすくなるような治療方針を共に考えていきましょう。

ITPに関する詳しい情報は、難病情報センターで検索することで誰でも閲覧することができます。また、治療について医師向けに書かれた参照ガイド(2019改訂版)も一般の方が閲覧できるようになっています。

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    柏木 浩和 先生

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