
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)とは、出血を止める血小板という血球が減少して起こる疾患です。患者数は国内に27,000〜30,000名で、急性型は子どもに多いという特徴があります。特発性血小板減少性紫斑病の症状・原因・分類について、慶應義塾大学病院臨床検査科の村田満先生にお話を伺いました。
血液のなかには、赤血球・白血球・血小板の3つの血球があります。赤血球は酸素を運ぶ、白血球は外部からの細菌やウイルスを攻撃する、血小板は出血した際に止血するといったはたらきをしています。
【血球の役割】
赤血球が減れば貧血に、白血球が減れば白血球減少症に、血小板が減少すると血小板減少症になります。血小板が減少する疾患は20種類以上あり、特発性血小板減少性紫斑病は、そのうちの1つに位置付けられます。特発性血小板減少性紫斑病は、基本的には血小板だけが減少することが特徴ですが、なかには赤血球や白血球にごく軽度の異常が認められるケースもあります。
血小板は、骨髄でつくられています。血小板が減る理由には、大きく2つの種類があります。1つ目は血小板そのものがつくられないパターン、2つ目は正常につくられた血小板が早く壊れてしまうパターンです。このうち、特発性血小板減少性紫斑病は後者のパターンで血小板が減少します。
特発性血小板減少性紫斑病になると血小板減少によって止血する力が弱くなり、紫斑(皮下出血)などの症状があらわれます。症状については次項でご説明します。
2017年の調査では、国内の特発性血小板減少性紫斑病の患者数は27,455名でした。この数字から、日本における特発性血小板減少性紫斑病の患者数は27,000〜30,000名ほどと推測できます。また患者数に過去10年間(2007〜2017年)大きな変化はありません。
前項でお話ししたように、特発性血小板減少性紫斑病は血小板減少によって止血する力が弱くなります。この状態を「出血傾向」と呼びます。特発性血小板減少性紫斑病の症状である出血傾向とは、なにもしないで自然に出血する状態と、怪我・月経などによる出血が通常よりも多量となる状態の2つをさします。
【特発性血小板減少性紫斑病の出血傾向】
特発性血小板減少性紫斑病は、さまざまな出血症状が起こります。まず圧倒的に多いのは紫斑と呼ばれる皮下出血で、点状出血(直径1〜5mm)やそれよりも大きい斑状出血があります。次に多いのは、歯肉出血(歯茎からの出血)、その次が鼻血です。女性の場合には、月経過多になることがあります。また血尿、下血(肛門からの出血)、脳出血が起こることがあります。
【特発性血小板減少性紫斑病の出血症状】
血尿と下血は粘膜出血のため、これらが症状としてあらわれた場合には注意が必要です。なぜなら粘膜からの出血は、外からはみえない臓器(たとえば胃や腸など)の出血を示唆するからです。さらに脳出血はもっとも緊急性が高く、早急な診察と治療が必要です。
特発性血小板減少性紫斑病は、おもに手足など点状出血をきっかけに病院を受診し、検査を経て診断のつくケースが多いです。高齢の方で歯周病などがある場合には、歯肉出血がきっかけになるケースもみられます。
また食事など日常で起こりうる小さな刺激によって口腔粘膜(頰の内側・舌の裏側など)に血豆ができることがあります。この症状は粘膜出血のサインでもあるので、早急に診察を受けることを推奨します。
まったく症状がない患者さんが、健康診断などでたまたま血液検査をした際に血小板減少が認められ、検査を経て発見されるケースもあります。あるいは別の疾患の治療で病院を受診し、採血をきっかけに血小板減少に気づくケースもみられます。
私たちの体は細菌やウイルスなどの異物が体内に侵入したとき、抗体をつくることで異物を排除する免疫機能を持っています。この免疫機能に何らかの異常が起きると、自分の細胞に対する抗体をつくってしまうことがあり、この抗体を「自己抗体」といいます。自己抗体ができることが、特発性血小板減少性紫斑病の原因と考えられています。
脾臓(ひぞう)は、循環する血液のなかの古くなった血小板を処理しています。特発性血小板減少性紫斑病になり、血小板に抗体がつくと、脾臓はそれを処理するべきだと判断し、次々に血小板を処理していきます。このようにして血小板が処理され続けることで血小板が徐々に減少し、出血傾向を引き起こします。
特発性血小板減少性紫斑病は、急性型と慢性型にわけられます。6ヶ月以内で治る特発性血小板減少性紫斑病を急性型とし、それ以上続く場合には慢性型とします。
急性型の特発性血小板減少性紫斑病は小児に多く、おもにウイルスが原因です。子どもが感染しやすいウイルス、たとえば麻疹(はしか)、風疹、水疱瘡、水痘、風邪などを原因として、感染症状がおさまった数週間後に特発性血小板減少性紫斑病を発症します。特発性血小板減少性紫斑病を発症した子どもの9割は、数週間〜数ヶ月で完治に至ります。
特発性血小板減少性紫斑病が急性型で発症し、6ヶ月以上続いた場合、慢性型へ移行したと捉えます。一方で、はじめから慢性型として発症するケースもあります。慢性型の詳しい原因はまだ解明されていませんが、慢性型の何割かはピロリ菌が原因であることがわかってきました。
ピロリ菌は、胃がんや胃潰瘍の原因となります。日本人の50%ほど(高齢層の場合には60〜70%)は胃にピロリ菌を保有しているとされます。ピロリ菌のなかにはCagAという物質があり、血小板のタンパク質とよく似た構造をしています。そのため免疫機能が血小板をピロリ菌と間違えて認識し抗体をつくることで、血小板が減少していくと考えられています。
特発性血小板減少性紫斑病の検査については記事2『特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の検査』を、治療については記事3『特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療』をご覧ください。
慶應義塾大学 医学部臨床検査医学 教授
村田 満 先生の所属医療機関
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