インタビュー

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を早期発見するには? 注意すべき症状や診断方法について解説

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を早期発見するには? 注意すべき症状や診断方法について解説
渡邉 健 先生

ハレノテラスすこやか内科クリニック/内科・血液内科 院長

渡邉 健 先生

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特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura:ITP)は、血液中の血小板が減少することで出血しやすくなる病気です。指定難病の1つであり、診断はほかの病気の可能性を取り除いていく除外診断が基本となります。ITPを早期発見するために、具体的にどのような症状が現れたら受診すべきなのでしょうか。注意すべき症状、受診すべき医療機関、診断と治療法などについて、ハレノテラスすこやか内科クリニック 院長の渡邉 健(わたなべ けん)先生に伺いました。

血液を構成する血球成分には、全身に酸素を運ぶはたらきがある赤血球、細菌やウイルスなどと戦う役割を担う白血球、そして出血を止めるはたらきを持つ血小板があります。ITPとは、このうち血小板が免疫*の異常によって壊されるために減少してしまう病気です。血小板が減少することで、青あざ紫斑(しはん))ができやすくなることからこの病名が付けられています。

通常、血小板数が10万/μL未満になるとITPを疑います。ただし実際に青あざなどの症状が現れて治療を行うか判断するのは、血小板数が2〜3万/μLを下回ったときです。さらに1万/μL以下になると脳出血など、命に関わるリスクが出てきます。

*免疫:細菌やウイルスなどの異物から体を守る機能のこと。

ITPの新規発症数は、年間で10万人あたり2.16人と推計されています。発症しやすい方は6歳以下のお子さんと20~34歳の女性、高齢者です。

ITPは、主に急性型と慢性型に分けられます。急性型とは発症から6か月以内に血小板数が回復するものをいい、小児の患者さんに多いという特徴があります。一方、慢性型とは発症から6か月以降も血小板減少が継続するものをいい、成人に多いといわれています。

ITPでは、青あざなどの出血症状が現れます。たとえば、 “点状出血”と呼ばれる、ペンで書いたようなポチポチとした赤色あるいは紫色の点状の斑点が足のすねなどに出てくることがあります。点状出血よりも大きな“斑状出血”という斑点ができることもあります。

さらに血小板数が1万/μL以下になると、鼻や口の中、目の奥(眼底)などの粘膜に出血が起こることがあります。眼底に出血が起こると、突然片目が見えなくなる可能性もあります。 また、消化管出血や血尿、脳出血などが起こるケースもあるでしょう。

症状は急に現れるケースが多いと思います。たとえば私が診てきた患者さんの中には、「急に青あざが出てきた」「突然、口の中に血の味がするようになった」などと訴えて受診された方がいらっしゃいます。

足のすねに赤色や紫色の斑点や、押しても消えない皮疹(ひしん)が出たり、触っていないのに鼻血を繰り返したり、かんだ覚えもないのに口の中で出血が起こったり血豆ができたりした場合には、できるだけ早い受診をおすすめします。放置していると、脳出血など命に関わるような状態につながることがあるからです。特に口の中の出血は致死的な出血の前兆なので、症状があればすぐに受診しましょう。

また、発症しやすいといわれている20~34歳の女性で月経量が異常に多いときや、普段ぶつけることの少ない体幹(たいかん)(首から上・腕・足を除いた胴体)の部分に青あざができている場合も、病気を疑い受診を検討してほしいと思います。

これらの症状のほか、健康診断や何らかの検査で血小板の減少が明らかとなり、まれにITPが発見される例もあります。ただし、血小板数は健康診断の標準検査項目に入っていないことが多いため典型的な発見例ではありません。実際には、お話ししたような出血症状で受診された結果、病気が見つかるケースが多いでしょう。

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ITPをできる限り早く発見するためには、当院のような血液内科を専門とするクリニックを受診するのがもっともよいと思います。しかし、全国でも数は少ないため見つけることは難しいかもしれません。お近くに見つからない場合には、まずは内科クリニックを受診されることをおすすめします。小児科など違う診療科の医師でも、血液専門医*を取得している場合もありますので、そのような医師のいる医療機関を探してみるのもよいでしょう。

内科クリニックなどで血小板数が減少しているという結果が出たら、それをきっかけに血液専門医を紹介され、本格的な検査による診断を行っていくことになると思います。

*血液専門医:一般社団法人日本専門医機構認定の血液専門医のこと。以下“血液専門医”とある場合はこれを指す。

ITPの診断方法の基本は、除外診断です。除外診断とは、ほかの病気の可能性を取り除いていくことで、最終的にその病気であると診断することをいいます。問診や検査を通して、主に以下の3つの観点からほかの病気の可能性を除外していきます。また、ITPでは、ほかの血球成分である赤血球や白血球の数値には異常がなく、血小板数のみ下がっていることが診断のポイントとなります。

造血障害(血球をつくるはたらきのある骨髄(こつずい)の異常)が起こる病気の可能性を確認していきます。生まれつき造血障害が起こる病気には、ベルナール・スーリエ症候群、ウィスコット・アルドリッチ症候群、メイ・ヘグリン症候群などがあり、これらの病気の可能性を確認するため、問診によって家族歴など詳細な聞き取りを行います。

後天的な病気としては急性白血病、骨髄不全症(骨髄異形成症候群再生不良性貧血、発作性夜間ヘモグロビン尿症)、骨髄線維症などが代表的なもので、進行すると血小板以外の血球の数にも変化が生じてきます。このため、血液検査によって赤血球や白血球などほかの血球成分とのバランスを確認し、重篤になりやすい白血病の可能性を除外するところからスタートします。なお、骨髄異形成症候群などが疑われる場合は、必要に応じて骨髄検査を行うことがあります。

血小板の消費の亢進(こうしん)(過剰になった状態)が起こる病気の可能性を確認していきます。たとえば、播種性管内凝固症候群(DIC)や血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)などの病気、あるいは体内に巨大血腫(血の塊)がある場合は、血小板が異常に消費されるために減少します。入院中の患者さんであれば、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)という病気の可能性もあります。主に血液凝固検査(血液の固まる機能を調べる検査)によって、消費の亢進が起こっていないかを確認し、これらの病気の可能性を確認していきます。

血小板の破壊の亢進が起こる病気の可能性を確認していきます。たとえば、肝硬変の患者さんなどで脾臓(ひぞう)が腫れて大きくなっている場合や、膠原病や感染症、薬剤などによって血小板が過剰に破壊される可能性があります。さらに欧米では、HIV感染の初期に、免疫の異常によって血小板が過剰に壊されて減少することはよく知られているようです。血液検査などを用いてこれらの病気の可能性を確認します。

このように“造血障害がないか”“血小板が過剰に消費されていないか”“血小板が過剰に破壊されていないか”という観点でほかの病気の可能性を除外し、最終的にITPと診断します。

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ITPの治療にはいくつかの選択肢がありますが、今回は成人に多い慢性型の治療法について解説します。

ピロリ菌の除去

致死的な出血傾向がなく、ピロリ菌の感染が陽性であればピロリ菌の除菌を行います。除菌が成功した場合は、50~70%の確率で血小板の増加がみられることが確認されています。ただし、ピロリ菌を除去する際に使用する薬の副作用で血小板が減ってしまうこともあるため、適応には慎重な判断が必要です。

副腎皮質ステロイドによる治療

ピロリ菌の感染がない、あるいはピロリ菌除去で効果がない場合や、血小板が2万/μL以下の場合は、副腎皮質ステロイドによる治療(以下、ステロイド治療)を行います。ステロイド治療は、感染症のリスクや、血糖値やコレステロール値、血圧の上昇などさまざまな副作用が起こる可能性があるため、大量の投薬を長期に続けることは避けたほうがよいでしょう。

なお、ステロイド治療では1~2週間おきに減薬しながら経過を見ていくため、3か月程は1〜2週間に1度の通院が必要になります。

ピロリ菌の除去や、ステロイド治療で効果が見込めない場合は、二次治療を行います。二次治療には、主にトロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)あるいはリツキシマブを用いた薬物治療、脾臓の摘出があります。

トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)による治療

TPO-RAは、血小板のもととなる造血幹細胞を刺激することで血小板を増やす薬です。現在、皮下注射と飲み薬の2種類の薬があり、どちらも治療効果が高く副作用が少ない点がメリットといえるでしょう。

ただし、皮下注射による治療を行う場合には、週1回、注射のための通院が必要です。飲み薬による治療は、食事やほかの薬の影響を受けやすく、時間を守って飲まなければ効果が半減してしまうことがあります。さらに、妊娠中に服用する場合の安全性が確認されていないため、妊娠中の患者さんには使いにくいというデメリットがあります。

リツキシマブによる治療

リツキシマブは、ITP診断後1年以内の40歳未満の女性において効果が高いとされている薬です。 週に1度の点滴を4週連続で行いますが、長期的に血小板が増加する確率は20~30%程と低い一方で、その4回で治療を終えられることがメリットです。

脾臓の摘出(脾摘)

脾臓の摘出は、ステロイドを減量できない、妊娠を希望しているためTPO-RAを行うことができない、リツキシマブの効果がないなどの場合に肺炎球菌ワクチンの接種などの対策を取ったうえで行います。治療効果が高いことが大きなメリットですが、入院して手術を受けていただくため、免疫不全や静脈血栓症などの合併症のリスクがあったり、肺炎球菌や髄膜炎菌などへの感染に弱くなったりするというデメリットがあります。

免疫物質を5日間かけて点滴する免疫グロブリン療法は、一時的ではありますが血小板を確実に増やすことができるため、手術前や分娩時などに行うことがあります。ただし、点滴投与時にショック症状*を起こす可能性があるため注意が必要です。

また、出血が止まらないなどの緊急時には血小板輸血を行うこともあります。ただし、ITPの方は輸血をしても短時間で血小板が減少してしまうため、積極的に行う治療法ではないと考えられます。

*ショック症状:血圧が大幅に低下し、全身へ十分な血流を保てなくなった状態。

治療を受ける医療機関は、治療の効果や副作用、治療を受けなかった場合の見通しなどについて、丁寧に説明してくれる医師がいるところを選ぶとよいでしょう。また、TPO-RAの皮下注射など毎週通院が必要な治療を受ける場合には、通院しやすさも考慮する必要があります。

長期的に状態が安定している場合は、近くの開業医の先生に2〜3か月に1回程診てもらっていれば問題ないと思います。ただし、お伝えしているようにこの病気の診断は除外診断であり、長期的に診ていく過程で別の病気であることが分かるケースもあります。そういった意味で、可能であれば、ある程度血液の病気について理解がある先生を受診なさるのがよいと思います。血液を専門とする医師がいないクリニックであっても、その先生がほかの病院の血液内科の医師としっかりと連携を取れていれば問題ないので、そこはよく確かめられるとよいでしょう。

なお、治療について不安や迷いがあれば、セカンドオピニオンを求めることも患者さんの権利です。積極的に利用してほしいと思います。

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患者さんを拝見していると、通院のたびに血小板数が正常以下であることを知って必要以上にがっかりされる方が多いようです。これは私たち医師側の問題もありますが、血小板の数値だけを見て、病気の状態を判断しないようにしていただきたいと思っています。

出血症状がなければ、あまり気にし過ぎず普通に生活して問題ないことをもっと知っていただきたいです。数値ばかり気にして、生活を制限したり諦めたりしていては、毎日がつまらなくなってしまいます。たとえば、スポーツをしている方は続けていただいて構いません。

また、女性であれば妊娠・出産を希望される方もいらっしゃいます。妊娠中はステロイド治療をしながら、出産のときに免疫グロブリン療法を行うことで、問題なく出産されたケースをいくつも見てきました。産婦人科の医師と血液内科の医師がきちんと連携していれば、出産も可能なケースが多いので安心していただきたいと思います。

繰り返しになりますが、足のすねに赤色や紫色の斑点や押しても消えない皮疹ができたり、鼻血を繰り返したり、口の中に出血や血豆が生じたりした場合には、ITPの可能性があるため早期の受診をおすすめします。血液内科を専門とするクリニックがお近くにない場合には、まずは内科クリニックを受診いただいても構いません。

私は、ITPのような血液の病気があるからといって、やりたいことを諦めたり受診のために半日~1日を費やしたりする必要はないという思いから、クリニックを立ち上げました。血液の病気があるから何かを制限しなくてはならない、大きな病院に3時間待ちで通うのが当たり前、というこれまでの“血液疾患の当たり前”を変えていきたいのです。

ITPと診断されたら、血小板数の値はあくまでも参考程度にしながら、病気と上手に付き合って充実した毎日を送っていただきたいと思っています。

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