最後に、血友病と上手につきあっていくための、日常生活での注意点や、今後の課題について、引き続き、奈良県立医科大学の嶋緑倫先生にお話を伺いました。
血小板機能を低下させる薬剤の使用は避けたほうがいいでしょう。特に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アスピリン(ASA)などは、避ける必要があります。
また、出血時に備え、血友病患者は診断名、重症度、インヒビターの有無、使用血液製剤、主治医の連絡先、などを記載した証明書を身近に携帯しておくと安心です。携帯することにより、緊急時の治療が容易になり、不要な検査を避け早期に適切な治療を受けることができます。
とはいえ、最近では定期補充療法によって出血リスクも抑えられるようになってきているため、日常生活で過度に出血を気にする必要はありません。スポーツに関しても、レスリング、柔道、体操など落下や骨折、激しい接触が伴うスポーツはあまり勧められませんが、きちんと凝固因子レベルが維持できていれば、部活や体育の授業も問題なく行うことができます。むしろ適度に筋力を鍛えることは、関節内出血の予防にもつながるといえます。血友病でもプロの野球選手、マラソン選手などスポーツ界で活躍されている方もいらっしゃるほどです。
女性保因者の場合、1本のX染色体は正常で、もう1本が異常染色体をもつことになります。凝固因子活性が50%以上あれば、特に症状が現れることはないのですが、なかには活性が5%以下の保因者の方もいます。症状は一般的には血友病患者と比べると軽いことが多いですが、症状に幅があることが特徴となり、治療が必要な場合もあります。
例えば女性保因者では、出産で予期せぬ大量出血が生じるといったリスクもあります。こういったリスクを事前に回避するため、保因者の可能性がある場合は事前に凝固因子活性を調べるように勧めています。
合併症や注意点でもお伝えしましたが、血友病患者さんに対する「根拠なき偏見」がまだまだ残っているという現実があります。例えば、血友病だとエイズになるというのはその最たる例です。ある学校では、血友病の生徒が在籍しているためにエイズの勉強をするということが行われていたり、出血リスクを恐れて、親が血友病の子供に全く運動をさせなかったり、運動系の部活をやめさせることもあります。このように、患者や家族だけではなく、教育者や一般の方など多くの方々に正しい知識を伝えていく必要があるのです。
また、母方から受け継ぐ遺伝性の疾患という特質上、子供が血友病を発症した際に、母親が大きな責任を感じてネガティブになってしまったり、過度に子供を甘やかすといったケースが見受けられます。また、奥さん自身が保因者であることを抱え込み、悩まれることも少なくありません。しかし、遺伝病は誰の責任でもありません。血友病患者さんのご家族が血友病とうまく付き合っていけるよう、診断や治療を行うだけではなく、カウンセリングなどのサポート体制を整え、医療従事者も一緒になって血友病と向き合っていく必要があると考えています。
奈良県立医科大学 副学長(医学部長)
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