概要
血球貪食症候群とは、白血球の1つである“マクロファージ”などが骨髄・脾臓・リンパ節などで異常に活性化することで血液細胞が貪食され、さまざまな臓器に障害が生じる病気です。マクロファージとは、体の中に入ってきた病原体や古くなった細胞などを取り込み分解する白血球の一種で、この取り込みや分解をまとめて“貪食”といいます。
通常、マクロファージは正常な血液細胞を貪食することはありませんが、体に免疫の異常や強い炎症反応が起こると、赤血球・好中球・血小板などの血液細胞を貪食することがあります。血球貪食症候群では血液細胞が貪食されることで、持続する発熱やリンパ節の腫れ、皮疹などのさまざまな症状が生じます。病気が進行すると命に関わることもあるため、速やかな治療が大切です。
種類
血球貪食症候群は原因によって、一次性と二次性に分けられます。
一次性血球貪食症候群
生まれつき遺伝子異常があることで生じる血球貪食症候群を、一次性血球貪食症候群(家族性血球貪食症候群)といいます。5万~30万人に1人の割合で発症し、一般的に2歳以下で発症するといわれています。
また、生まれつきの免疫不全症候群によって血球貪食症候群を引き起こす人もいます。
二次性血球貪食症候群
ウイルス感染症、悪性リンパ腫、自己免疫疾患などが原因となって生じる血球貪食症候群を二次性血球貪食症候群といいます。特に悪性リンパ腫や自己免疫疾患などによる血球貪食症候群は、大人になってから発症する傾向があります。
原因
発症に至る詳しい仕組みは分かっていませんが、以下のような原因で発症することがあります。
一次性血球貪食症候群
家族性血球貪食症候群の場合、perforin、syntaxin11、MUNC 13-4、Munc18-2など特有の遺伝子異常が発見されていますが、まだ原因遺伝子が分かっていない家族性血球貪食症候群の患者もいます。
また一次性血球貪食症候群は遺伝子異常だけでなく、Chédiak-Higashi症候群などの免疫不全症候群や、X連鎖リンパ増殖性疾患などで引き起こされる場合もあります。
二次性血球貪食症候群
二次性血球貪食症候群を引き起こす原因として、以下が挙げられます。
- 感染症……ウイルス感染が関与している可能性があります。
- がんなどの悪性腫瘍……主に悪性リンパ腫などが関与しています。
- 自己免疫疾患……成人では全身性エリテマトーデス、成人発症スチル病に続発する傾向があります。また、子どもでは全身型若年性特発性関節炎の患者に多くみられます。
症状
血球貪食症候群では、ほとんどの患者に持続する発熱がみられます。そのほか、皮疹や脾臓の肥大による腹部の痛み、おなかの張り、リンパ節の腫れ、下痢、顔のむくみ、皮下出血、鼻血、口腔内と肛門などからの出血といった症状が現れることがあります。病気の進行は早く、重症化すると急変することもあります。
検査・診断
血球貪食症候群の診断は、臨床的な所見と検査所見に基づいて行われます。一次性血球貪食症候群は確立された診断基準がありますが、二次性血球貪食症候群にはこれまで複数の診断基準が提唱されており、総合的に判断することが大切です。特に自己免疫疾患の患者の場合、症状や検査所見が自己免疫疾患によるものなのか、血球貪食症候群によるものなのかを見極めながら診断を行う必要があります。
行われる検査内容としては、血液検査、尿検査、骨髄検査などが挙げられます。また一次性血球貪食症候群では、遺伝子検査も検討されます。
治療
血球貪食症候群の治療方法は一次性・二次性によって異なります。いずれもマクロファージの異常な活性化を抑える目的で治療が行われます。
一次性血球貪食症候群の場合
一次性血球貪食症候群では、抗悪性腫瘍薬のエトポシド、免疫抑制薬のシクロスポリン、副腎皮質ステロイドのデキサメタゾンを併用した薬物療法が検討されます。これらの薬物療法は免疫化学療法と呼ばれることもあります。
また根治を目指して、造血幹細胞移植が検討されることもあります。造血幹細胞移植とは、化学療法や放射線治療などからなる移植前処置の後に、健康な造血幹細胞を点滴で投与する治療法のことです。強い副作用が生じることもあるため、治療を受ける際は移植専門医とよく相談しましょう。
二次性血球貪食症候群の場合
二次性血球貪食症候群の治療の基本は、原因である病気をコントロールし、免疫機能の異常や過剰な炎症状態を改善することです。それに加えて薬物療法として、ステロイドの投与や一次性血球貪食症候群と同様の免疫化学療法などが検討されます。また、近年はステロイドの効かない症例に生物学的製剤の使用などが検討されることもあります。
極めて重症な例では、複数の抗がん薬を用いた化学療法や造血幹細胞移植が行われることもあります。
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