概要
血球貪食症候群とは、血液を構成する白血球や赤血球、血小板などの血球が組織球(マクロファージ)に食べられて減ってしまう病気です。血球貪食症候群では、お腹がはるといった自覚症状のほかに発熱や息切れ、血が出やすくなるなどの症状が現れることがあります。
治療では、血球貪食症候群の大本の原因となっている基礎疾患の治療などに並行し、血球貪食症候群特有の病状に対する治療を行います。基本的には重症な病気であるため、早期に血球貪食症候群を発見し早期に治療を行うことが重要です。
原因
体には組織球と呼ばれる細胞が血管の中に存在し、通常は細胞の死骸などを食べて分解しています。体内の炎症性サイトカインが異常に増加することで組織球が異常に活性化し、正常な血球を食べてしまいます。血球貪食症候群は、基礎疾患が背景となって炎症性サイトカインが異常に増加し、組織球を活性化することで起きます。炎症性サイトカインが異常に増加する原因は下記が考えられています。
しかし、なぜ、このような病気になると炎症性サイトカインが増殖するのかについては、直接の原因はわかっていません。
原発性
パーフォリンと呼ばれる細胞の壁に穴をあけるタンパク質の設計図(遺伝子)の異常により、この病気が起きます。この遺伝子異常は、両親から遺伝することから家族性血球貪食症候群と呼ばれます。日本人の家族性血球貪食症候群のうち、約40%は原因が不明です。また、先天性の家族性免疫不全症候群の患者さんにも起きることがあります。
続発性
何らかの病気(基礎疾患)が血球貪食症候群の原因になっています。主に感染症、がん、自己免疫疾患、造血幹細胞移植後、薬剤アレルギーなどがあります。感染症の中では、ウイルス感染が高頻度となっています。
症状
血球貪食症候群では、脾臓が大きくなるためにお腹がはるといった自覚症状のほかに、血球が減ることにより生じる症状などがあります。原発性の場合、小児で発症し、続発性の場合は成人で発症します。また、播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併することもあります。
白血球減少
白血球は、ウイルスや細菌といった外敵が体の中に入り込もうとすることを防ぐはたらきがあります。そのため、白血球が不足することで感染症にかかりやすくなります。肺炎などが重症化することがあり、発熱などをはじめとする感染症状が出ます。
赤血球減少
赤血球は体中に酸素を運ぶはたらきがあります。心臓や脳は、赤血球が運んできた酸素を取り込んではたらいています。赤血球が不足すると貧血が起き、心臓や脳がうまくはたらかなくなることがあります。
心臓がうまくはたらかなくなることにより息切れが起き、足のむくみや全身のだるさを感じます。また、脳がうまくはたらかないとめまいが起き、進行すると意識を失うことがあります。
血小板減少
血小板は止血するはたらきがあります。これが不足することで、簡単に血が出やすくなったり、止まらなくなったりします。頭の中や内臓など目に見えないところに出血が起こると、頭痛や意識障害などの症状がみられ、命にかかわることもあります。
検査・診断
血液に含まれる細胞の数や形などを血液検査で調べます。フェリチンや可溶性IL-2Rといった体内の炎症性サイトカインの指標をチェックします。血液検査は基礎疾患を調べるためにも用います。
血液を作る工場である骨の中の骨髄を一部とる骨髄検査も行います。骨髄検査では、組織球が自分の血球を食べていないか(血球貪食像)を詳細に観察します。また、きちんと血液細胞を作っているか、白血病細胞がいないかどうかもチェックします。
超音波検査では、お腹の中にある脾臓や肝臓が大きくなっていないかどうか調べます。また、お腹の中の出血の有無を調べることもできます。
治療
血球貪食症候群は、早期に発見し、早期の治療が重要です。まずは、血球貪食症候群の大本の原因となっている基礎疾患の治療を優先します。これらの治療に並行して、血球貪食症候群特有の病状に対する治療を行います。
基礎疾患に対する治療
血球貪食症候群の原因が感染症の場合、抗菌薬や抗ウイルス薬で治療を行います。白血病やリンパ腫などのがんであれば抗がん剤など、がん細胞を減らす治療をします。自己免疫疾患の場合はステロイドなどの治療を行います。
血球貪食症候群に対する治療
異常に増殖した炎症性サイトカインを抑えることが治療の目的となります。まずは、ステロイドにより免疫反応を抑える治療が第一選択になります。播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併した場合は、播種性血管内凝固症候群に対する治療も並行して行います。
造血幹細胞移植療法
ドナーから提供された造血幹細胞を移植することで、血液の大本の細胞を入れ替える治療です。
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