概要
血友病Bとは、血液を固めるために必要な血液凝固因子と呼ばれるたんぱく質のひとつである“第Ⅸ因子”が不足する病気のことです。幼少期から出血が止まりにくい、ひどいあざができやすいといった症状が繰り返し起こります。
多くは性染色体(性別を決定する染色体)にある遺伝子の異常が親から子へ受け継がれることによって生まれつき発症し、先天性血友病Bと呼ばれています。血友病Bの中には、親からの遺伝によるものではなく、子どもの遺伝子の突然変異によって生まれつき発症するケースもあり、これも先天性血友病Bと呼びます。また、何らかの原因で第Ⅸ因子を攻撃する抗体が生成されるようになることで発症するケースもあります。
血友病では、明確な原因がないにもかかわらず関節内や筋肉内に出血を繰り返すことがあります。その結果、関節内の構造が破壊され、関節が変形したりする血友病性関節症を発症することも少なくありません。しかし、近年では治療方法が格段に進歩したことに伴い、これらの合併症の発症率は大幅に低くなっています。
原因
血友病Bは12種類の血液凝固因子のうち、“第Ⅸ因子”が不足することによって引き起こされます。私たちの体には、出血が生じると12種類の血液凝固因子が次々に反応して最終的にはフィブリンという物質を形成し、出血を止める仕組みが備わっています。血友病Bではこの止血の過程に必要な第Ⅸ因子が不足することによって、出血が止まりにくい、些細な刺激で出血するといった症状が引き起こされるのです。
なお、第Ⅸ因子が不足する原因は大きく分けて次の二つのパターンがあります。
遺伝子の異常
第Ⅸ因子の産生に必要な遺伝情報は、X染色体(性別を決める性染色体の一種)に存在します。血友病Bの多くは、このX染色体上の遺伝子に異常があることによって発症します。X染色体は男性に1本、女性に2本存在し、性染色体型が“XY型”の男性は1本のX染色体の遺伝子に異常があれば100%血友病が発症し、“XX型”の女性は2本のX染色体のうち、1本に異常があってももう片方に異常がなければ血友病は発症しないことが一般的です。このため、血友病Bは女性よりも男性のほうが発症しやすいといえます。
X染色体上の遺伝子の異常によって引き起こされる血友病Bのうち、約70%は親から引き継がれる遺伝によるものですが、残りの約30%は遺伝子の突然変異によるもので親からの遺伝は関係しないとされています。なお、遺伝による血友病Bだけでなく、突然変異による血友病Bでも自分の子どもへ遺伝する可能性があります。
自己抗体によるもの
血友病Bの多くは上で述べたように遺伝子の異常による生まれつきのものですが、ごくまれに遺伝子の異常がないにもかかわらず第Ⅸ因子を攻撃する“自己抗体”が形成されるようになることで、成人になってから発症するケースがあります。
このような血友病Bを後天性血友病Bと呼びますが、明確な発症メカニズムは解明されていません。しかし、加齢、妊娠・出産、関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患が発病の引き金になると考えられています。
症状
血友病Bの特徴的な症状は、ほかの血友病と同じく関節内や筋肉内など体の深い部位に出血を繰り返したり、外傷や抜歯などの治療で出血が止まりにくかったりすることなどです。出血の止まりにくさは第Ⅸ因子の不足の度合いに比例するとされており、健常者の1%未満を“重症”、1~5%未満を“中等症”、5〜40%未満を“軽症”と分類します。
重症の場合には乳児期から大きなあざができやすくなり、乳児期以降は打撲などの明確な原因なく関節内や筋肉内に出血を繰り返します。時には、脳内や腹部内に出血することで命に関わることもあります。また、歯茎からの出血、消化管出血、血尿などが見られることもあるとされています。
一方、軽症の場合は原因のない出血はほとんど見られず、外傷時や抜歯や手術などの治療時に血が止まりにくいといった症状から発見されることもありますが、発症に気付かないまま一生を終えるケースも多いと考えられています。
また、血友病Bでは関節内に出血を繰り返すことで次第に関節内の構造が破壊され、関節が変形する、動きが悪くなるといった“血友病性関節症”を引き起こすのも特徴のひとつです。
検査・診断
血友病が疑われるような症状が見られたり、血友病Bの家族歴から発症している可能性が高いと考えられたりするケースでは、第一に出血しやすさや出血の止まりにくさを評価するための指標である血小板数、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、プロトロンビン時間(PT)を調べる血液検査が行われます。
これらの検査で血友病に特徴的な症状が見られた場合は、血液中の第Ⅷ因子(血友病Aとの鑑別のため)と第Ⅸ因子の量を調べる特殊な検査が行われ、確定診断に至ります。
また、これらの検査のほかにも血友病性関節症が疑われる症状が見られるときは、エコー(超音波)検査やCT・MRI検査などで関節内部の状態を詳しく評価することもあります。
治療
血友病Bでは主に次のような治療が行われます。
補充療法
不足している第Ⅸ因子の製剤を投与する先天性血友病Bに対する治療です。出血時に止血に必要な凝固因子を投与する“オンデマンド療法”も行われますが、近年では血友病性関節症などの発症を防ぐため、症状がなくても定期的に第Ⅸ因子製剤の投与を行って出血を予防する“定期補充療法”が重症及び一部中等症患者に対して一般的に行われるようになっています。
一方、長い期間補充療法を行うと3~5%の確率で第Ⅸ因子を攻撃する抗体が形成されるようになることが分かっています。このような抗体が形成されると第Ⅸ因子製剤の投与を行っても十分な効果は得られなくなるので注意が必要です。
自己抗体(インヒビター)に対する治療
後天性血友病Bや上で述べたような長期間にわたる補充療法の結果、第Ⅸ因子を攻撃する自己抗体(インヒビター)ができたときは、多量の第Ⅸ因子を投与して抗体の産生を抑え込む“免疫寛容導入方法”、出血が止まらないときは抗体量に増す第Ⅸ因子を投与することで出血を止める“中和療法”が行われることがあります。
また、自己抗体を多量に持っている場合には、“バイパス療法”が行われます。バイパス療法とは、第Ⅺ凝固因子以外の凝固因子を使って血液を固める治療方法です。治療に用いられる主な凝固因子製剤には、活性型Ⅶ因子製剤などが挙げられます。
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