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不適切に多い薬剤の処方・服用による悪影響とは?ポリファーマシー問題について

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  • 公開日:2016/02/19
  • 更新日:2016/02/19
不適切に多い薬剤の処方・服用による悪影響とは?ポリファーマシー問題について

病気やけがの治癒や健康維持のために処方される「薬剤」。持病などをもっており、日ごろから何種類もの薬剤を服用しているという方も多いでしょう。このように、私たちが健やかに生活するために不可欠な存在ともいえる「薬剤」ですが、今、“不適切に”多い薬剤の処方や服用が、健康や財政に悪影響をもたらすとして問題視されるようになっています。薬剤にまつわる見過ごせない問題について、やわらぎクリニック副院長の北和也先生にお話しいただきました。

ポリファーマシー問題について

われわれにとって薬剤というものは、非常に重要な存在です。薬剤の開発により、過去には治癒不可能であった病気が治るようになり、多くの方がその恩恵を受けています。例えば1920年頃、アレクサンダー・フレミングという英国の細菌学者によりペニシリンという抗菌薬が発見されましたが、これにより細菌感染症から多くの人々の生命が守られてきたという歴史があります。

その一方で、薬剤にまつわる見過ごせない問題もあります。薬剤の副作用で体調を崩される方はとても多く、実は飲む必要がなかった薬が原因で体調を崩される方も中にはおられます。

このように“不適切に”多い処方により、健康や医療費に多大な影響を与えてしまうことが問題視されています。この際の多剤処方・多剤内服のことをポリファーマシーと呼び、世界中でこのポリファーマシー問題が注目されています。

※ただ単に多いのみならず、実際は飲まなくてもよいお薬を飲んでいる場合など、不適切な処方・内服をひっくるめてポリファーマシーとする考え方もあります。

ポリファーマシーって日本でも問題になっているの?

日本ではまだあまり馴染みの少ない言葉かもしれません。「そもそも日本は世界有数の長寿国でしょ?それほど気にしなくても大丈夫なのでは?」と思う方も多いでしょう。「たくさん薬を飲んでいるけど、わたしはいたって健康よ!」という方もたくさんおられるでしょう。

たしかにそのご意見には一理あると思います。しかし、日本の処方は諸外国と比べて少し多すぎるのではないか、という話があるのをご存知ですか?

世界における日本の人口は2%程度であるのに対し、世界における日本の薬剤費の占める割合はなんと10%にもなるのだそうです(参考:the global use of medicines outlook through 2016)。こうやって具体的な数字を目にすると、流石にちょっと多い気もしてきます。これは日本人が先進医療を受けることができていることを意味したり、医療機関へのアクセスの良さを間接的に表していたりするのかもしれませんが、本当にそういった楽観的な解釈のみでよいのでしょうか。

ご存知の通り、日本の医療費による財政への影響は甚大ですから、これを無視して処方をし続けることは、もはやできなくなっています。また、日本は長寿国であるといっても、健康寿命が本当に優れているかというと、それははっきりしていません。お薬の飲み過ぎにより、健康寿命を損ないつつ、不健康寿命が引き延ばされている、という状況もあり得るかもしれません。日本の在宅医療の調査(4243名、平均82.7歳)では、およそ半分の方に医学的に不適切処方があり、また8%ほどの方に副作用が生じてしまっているというデータもあるのです(BMJ Open 2015;5:e007581.)。海外の研究になりますが、5剤以上の内服により体が弱り、機能障害や転倒、そして死亡が増えるということがわかっています(Journal of Clinical Epidemiology 65 (2012) 989−995)。

日本で救急対応をしていると、不適切な処方が影響していると考えられる救急搬送、入院を非常によく目の当たりにしますし、こういった体調不良がきっかけで体力が落ち、寝たきりになってしまったり、不幸にも死に至ってしまうケースにも実際に遭遇します。

なんでポリファーマシーになる?

ポリファーマシーを形成する要因として、患者要因、医療者要因、そして環境要因があるとされています(Lancet, 370: 173-184, 2007)。主な患者要因として、高齢になるにつれて多くの疾患にわずらう機会が増えてくることが挙げられます。そこで、たくさんの科を受診すると、ポリファーマシーに陥ってしまう傾向があるのです。たとえば、高血圧症、狭心症、前立腺肥大症、そして慢性腰痛があるので、循環器内科、泌尿器科、そして整形外科を受診している、といった具合で複数科を受診している方は多いと思います。しかし、もしそれぞれの科で各臓器・各疾患のみについて全力を尽くすと、処方数が増えてしまい、トータルとしてバランスの悪い診療になってしまう可能性があります。実際、処方医が1人増えると、薬剤有害事象が3割ほど増加するというデータがあります(Am Fam Physician. 2013;87(5):331-336)。これは専門医受診指向の強い方に多く見られるように感じますが、単に患者要因として片付けられず、医療者要因、そして日本の医療事情が複雑に絡み合った結果だと考えます。

その他の患者要因として、お薬に対する過度の期待(お薬に対する誤解)があります。これは何も患者さんだけが誤解しているのみならず、医療者の誤解も非常に多いのです。

ポリファーマシーに陥らないために

お年寄りは、ポリファーマシーに陥る機会に満ちています。ただでさえ加齢とともに代謝が落ちてしまうにも関わらず、処方数もどんどん増えていくので、おのずと副作用に陥る機会が増えていくのです。

お年寄りでなくともポリファーマシーに至る方はおられます。“かぜ”診療ひとつをとってもそうです。ウイルス性上気道炎を疑う状況で抗菌薬を処方されたり、“かぜ”症状に対し1度の受診で5種類ほどの処方をされたりした場合も、広義のポリファーマシーにあたるでしょう。

また、ポリファーマシーに陥っている方は、本来飲んでおくべき処方を受けていない傾向にあるという研究報告もあります(Br J Clin Pharmacol, 65 : 130-133, 2008)。われわれが努力して避けられるポリファーマシーは、是非とも避けておきたいところです。ではいったい、われわれはどのようにしていけばよいのでしょうか。

  • 処方のベネフィットとリスク(利点と欠点)を天秤にかけたうえで1回1回の処方を考える
  • 優先順位の高い薬剤(必要不可欠な薬剤)を優先的に内服し、優先順位の低い薬剤(飲んでも飲まなくても良い薬剤)をすぐにもらおうとしない
  • 寿命や健康に対して関わらない、あるいは症状を緩和しない薬剤があれば積極的にもらおうとしない(体ではなく、数値のみを気にして不要な治療を受けている患者さんもおられます)
  • 薬剤の副作用に対し、さらに処方を重ねられている場合があることを知っておく(これを“処方のカスケード“と呼びます)
  • 効いていない薬剤を漫然と続けない
  • これらを早期に察知するために、お薬手帳を常に携帯し、医療機関や薬局に立ち寄る時に必要に応じて提示する
  • お薬手帳は複数持たない
  • かかりつけ医をもち、内服している薬剤の内容について適宜相談する

対策として、上記のようなことが挙げられます。

最後に

はじめて読まれる内容にビックリされた方もおられたかもしれません。「わたし薬多いんだけど、大丈夫なのかな」と心配になった方もおられるでしょう。

しかし、あわててご自身で処方を中止したり、処方医にも告げず中断するのは非常に危険です。なぜなら、現在とくに症状のない方は、大きな問題がない方も多いからです。日本の在宅医療では、およそ半分の方に医学的に不適切処方があり、また8%ほどの方に副作用が生じてしまっているというデータ(BMJ Open 2015;5:e007581.)もあるとさきほど紹介しましたが、裏を返せば不適切処方を受けていても8割の方が何の副作用も起こしていないのです。つまり、“不適切な”処方は、“適切な”処方に組み立て直すことで、重篤な副作用を未然に防ぐことができるのです。また、「なんでもかんでも飲んではいけない」という考え方は、大きな誤解ですのでご注意下さい。必要不可欠なお薬を減らしてしまうことは何よりも危険であり、ポリファーマシー問題をみんなで共有する際の、最重要項目の1つと考えています。

こういった知識をふまえて、かかりつけ医に相談しながら、より健康かつ充実した生活を送っていただければと思います。

北 和也

北 和也先生

やわらぎクリニック副院長/西和医療センター感染制御内科

やわらぎクリニック(奈良県生駒郡)副院長。生まれ育った奈良で、父とともに地域医療に貢献すべく日々奮闘中。総合診療医として地域の人々の健康を支えつつ、日本の抱える問題「薬剤の過剰処方」について全国に情報を発信している。3人姉妹の父親としての顔も持つ“親しみやすい医師”として評判。

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