1982年に英国のイースト・オックスフォードで世界初の子どもホスピス「ヘレンハウス」が誕生し、2004年には同じ地域に16歳以上の青年を対象とした「ダグラスハウス」が開設されました。いずれもシスター・フランシス・ドミニカが創設し、「ヘレンハウス」は米国やオーストラリアなど多くの国に影響を与えました。現状の小児緩和ケアの世界の動向について大阪・淀川キリスト教病院の「ホスピス・こどもホスピス病院」院長の鍋谷まこと先生に、お話をうかがいました。
2014年にWHO(世界保健機関)で緩和医療が取り組むべき重要課題として取り上げられ、世界中で注目されるようになってきています。すでに、まとめられている小児緩和ケアの原則(Supportive Care of Children with Cancer,Johns Hopkins,2004)には「小児緩和およびレスパイト(介護者に休息を与えるケア)プログラムは普遍的に利用されうる必要がある」などとした包括的なものはあるのですが、WHOは現在、世界標準の小児緩和ケアガイドライン作りを進めています。
2008年10月11日「世界ホスピス緩和ケアの日」には、世界最大の小児緩和ケア組織ICPCN(国際小児緩和ケアネットワーク)が「ICPCN憲章」を発表しました。この憲章は世界各国約20カ国で翻訳されており「全ての子どもは世界保健機構(WHO)で定められているとおり、個別性を重視した、文化的、年齢的に適切な緩和ケアを受けることができる」ことをはじめとする10カ条で構成されています。
WHOは2002年に緩和ケアについて「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、 苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである」(日本ホスピス緩和ケア協会より)と定義しています。これに加えて小児緩和ケアについて次のように追記しています。
・小児緩和ケアとは身体、精神、そして魂に対する積極的なトータルケアを指し、子どもおよびその家族に対する支援を含んでいる。
・小児緩和ケアは病気が診断された時から始まり、その後子どもが病気に対する治療を受けているかいないかに関わらず継続する。
・医療者は子どもの身体的、精神的、そして社会的ストレスを評価し軽減しなければならない。効果的な緩和ケアは、家族を含み地域資源を利用した幅広い多方面からのアプローチが必要である。たとえ地域資源が限られていたとしても、効果的に実施され得る。
・小児緩和ケアは専門施設だけでなく地域における施設や、家庭においても提供し得る
(翻訳:鍋谷まこと先生)
WHOは小児緩和ケアの定義をもとにガイドラインづくりをすすめているとみられますが、子どもの場合は成人の患者さんに対するのと同じような余命宣告の必要がないというか、余命宣告が難しく長期の緩和ケアが必要なケースが多いのが特徴だと思います。
また、日本でも各家庭で子どもが置かれている状況は多様ですから、世界各国となればさらに事情は複雑になります。
「小児在宅ホスピスの果たす役割とグリーフ教育の重要性」も書いているように「小児患者に対する定義は WHOの定義を基本にそれぞれの場所のニーズに合わせ加えられたり、書き直されたりしている」のが実情です。一方で、同書が指摘するように、患者さんの兄弟姉妹や若い両親へのケアといった子どもの患者さん独自の問題や、告知への配慮については、成人とは違うサービスが必要だという理念は共通していますから、ガイドラインの意味は大きいと思います。
私も含めた淀川キリスト教病院のスタッフが中心になって「こどもホスピス」の活動などをまとめた『輝く子どものいのち~こどもホスピス・癒しと希望~』(いのちのことば社)を2015年5月に出版しました。この本に英国小児緩和ケア専門医の馬場恵さんが子どもホスピス・緩和ケアの世界の現況について書いてくださっています。それによると、2011年に行われた小児緩和ケアの発展度合いの世界的調査によると、まだまだ子どもホスピスも含めて、子どものための緩和ケアの提供は各地でばらつきがあり、ICPCNが緩和ケアを必要とする子どもたちが世界中どこでも適切なケアを受けられるように普及活動に取り組んでいます。
馬場さんによると、英国の子どもホスピスは、これまでは特別レスパイト(家族の小休止のための一時的)ケア施設として活用されてきましたが、高度な医療技術を必要とする子どもの受け入れが増えて小児緩和医療の専門性が学術的にも確立されてきており、施設としての役割が変化していくことが予測されるそうです。しかし、馬場さんは、その流れのなかでも子どもホスピス本来の役割である「その子をありのままの姿で受け入れ、家族みんなで憩い、交わる時間と環境を提供すること」を守り続けることが大切です、とおっしゃっていて、小児緩和ケアの世界的ガイドラインの方向性を示唆されています。
※お知らせ※
「ホスピス・こどもホスピス病院」は2017年2月末日に閉院し、その機能を淀川キリスト教病院(本院)へ移転致します。
淀川キリスト教病院 副院長、日本小児心身症学会 代議員、大阪地域発達支援ネットワーク研究会 代表世話人
淀川キリスト教病院 副院長、日本小児心身症学会 代議員、大阪地域発達支援ネットワーク研究会 代表世話人
日本小児科学会 小児科専門医日本小児神経学会 小児神経専門医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(新生児)日本小児精神神経学会 認定医
広島大学医学部を卒業後、1988年、神戸大学小児科学教室に入局。呉共済病院での一般小児科研修を経て、神戸大学医学部大学院で神経生理学を研究。その後、姫路市総合福祉通園センターで発達障害、身体障害、てんかんなどの神経疾患の診療に従事し、2003年から淀川キリスト教病院小児科へ。同病院小児科部長を経て現職。発達障害の専門家として悩める親子を支えてきた経験を持ち、日本の子どもホスピスのパイオニアのひとり。新生児肢体血幹細胞治療の研究など、脳性麻痺の予防研究にも積極的に従事している。
鍋谷 まこと 先生の所属医療機関
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