「死」への思いをはじめ、子どもの病気への姿勢は大人とは異なるのは当然です。もちろん重なる部分はありますが、ご両親など保護者のもとで生きていることが最大の相違といえるかもしれません。それだけに「こどもホスピス」の緩和ケアは患者さんのお母さんやお父さん、そして兄弟姉妹(きょうだい)への関わりが大切になってくるようです。小児緩和ケアの特徴について大阪・淀川キリスト教病院の「ホスピス・こどもホスピス病院」院長の鍋谷まこと先生に、お話をうかがいました。
病気についてご本人にどのようなかたちで伝えるかということついて、ご家族の考えはさまざまですので、お母さんやお父さんと話し合いながら考えていきます。
子どもは9歳くらいから死を意識するようになるといった研究結果は多々示されています。死や病気のことを子どもがどう考えているのか、というのはとても深い問題です。でも実際に、ここで子どもたちと接していると、ケースバイケースですし、実は私もあまり深くはわからないのです。子どもは育った環境や生まれ持った性格などで理解力も違いますから「型」にはめられないというのが実感で、子どもの考えについてはご家族もよくわかっていないことがほとんどです。
とはいえ、入院中に仲のよい子が亡くなった小学生の患者さんは悪魔をやっつけている絵を描いたり、亡くなった子の弟さんが白い羽根が生えている子どもを描いたりしている場面も目にしますので、死への意識が確かにあるのはわかります。
それに患者さんや、そのごきょうだいから「(死んだら)どこへ行くの?」と聞かれることもあります。単にごまかすのではなく、たとえば「お空に行くんだよ」という、わかりやすい表現などで、少しは答えていかないといけないと思っています。
ただし、私たちがするのは基本的に「病気の説明」であって「死の説明」ではありません。その中で、「死」の可能性を完全に無視することはできない場合があります。年齡によって、どのように表現するかという基準はありませんが、病気のステージによって伝えることは違います。最近はインターネットも普及しているので、小学生でも自分で調べて「こういう病気なんでしょ」とはっきりと聞いてくる子どももいますが、ご家族が「いわないでほしい」ということは伝えません。
私たちは「こどもホスピス」の理念を「こどもの望む場所でご家族、仲間と楽しく過ごすことを支える病院」にしています。このため建物(5階建て)の2階にあるこどもホスピス病棟には「おそと」と呼ばれる遊び場や、システムキッチンと食卓、リビングを配置した「おうち」と呼ばれるスペース、勉強や作業ができる「がっこう」と呼ばれるスペースもあります。
スタッフは医師、看護師ら通常の医療機関と同様メンバーのほか、淀川キリスト教病院(YCH)はキリスト教精神に基づいた病院ですからチャプレン(牧師)がいます。またボランティアとして病院に笑いをもたらしてくれる道化師「ホスピタルクラウン」や「お笑い福祉士」のほか、音楽療法士、臨床美術士の方なども来てくださって定期的にイベントも開催しています。フェイシャルアートの資格を持った方もおり、子どもたちや家族にフェイシャルエステやネイルアート、フットマッサージをしてくださいます。
小児緩和ケアの医療スタッフには患者さんやご家族との言葉によるコミュニケーション以外に、遊びや音楽、生活介助などのあらゆる場面で患者さんやご家族と関わる能力と技能が要求されます。「こどもホスピス」では、このようなコミュニケーションスキルが最も重要な技能のひとつになっています。
私も含めた淀川キリスト教病院のスタッフが中心になって「こどもホスピス」の活動などをまとめた『輝く子どものいのち~こどもホスピス・癒しと希望~』(いのちのことば社)を2015年5月に出版しました。この本のなかで英国小児緩和ケア専門医の馬場恵さんが、子どものホスピス先進国である英国での子どもと成人のホスピスとの実際の違いをまとめてくれています。
・いのちにかぎりのある子どもたちに、ホスピスの施設、もしくは自宅で、レスパイト(介護者に休息を与えるケア)、緊急時ケア、看取りのケアを提供。ケアは数年にわたって行われることが多い。
・多職種の人材によって成るチームが、子どもとその家族全体をサポート。
・ホスピス施設でのレスパイトは、家族全員での宿泊が可能で、きょうだいたちのための活動プログラムや親たちの休息、交流の場として用いられる。
・レスパイトや看取りのケアのための宿泊のほか、デイサービスや訪問看護、キーワーカー(ケアマネージャー)による家庭訪問、電話でのアドバイス、グリーフケアなど、多様なサービスを提供。
・看護師主体の運営で、常駐の医師のいない施設が多い。
・おもに末期がんの患者を含んだ余命6か月未満とされる成人を、症状の緩和、看取りのケアを目的として行われるケア。主にホスピス施設で行われるが、在宅看護を提供するホスピスもある。
・レスパイトを行っているホスピスもあるが、こどもホスピスと比べるとその数は圧倒的に少ない。
・こどもホスピスのほとんどの患者が退院(入退院を繰り返す)のに対して、成人のホスピスは、帰宅する患者は50%ほど。
・緩和医療専門医と看護師のチームによる医療。理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカー、チャプレンもチームの一員。
(『輝く子どものいのち~こどもホスピス・癒しと希望~』P.137)
※お知らせ※
「ホスピス・こどもホスピス病院」は2017年2月末日に閉院し、その機能を淀川キリスト教病院(本院)へ移転致します。
淀川キリスト教病院 副院長、日本小児心身症学会 代議員、大阪地域発達支援ネットワーク研究会 代表世話人
淀川キリスト教病院 副院長、日本小児心身症学会 代議員、大阪地域発達支援ネットワーク研究会 代表世話人
日本小児科学会 小児科専門医日本小児神経学会 小児神経専門医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(新生児)日本小児精神神経学会 認定医
広島大学医学部を卒業後、1988年、神戸大学小児科学教室に入局。呉共済病院での一般小児科研修を経て、神戸大学医学部大学院で神経生理学を研究。その後、姫路市総合福祉通園センターで発達障害、身体障害、てんかんなどの神経疾患の診療に従事し、2003年から淀川キリスト教病院小児科へ。同病院小児科部長を経て現職。発達障害の専門家として悩める親子を支えてきた経験を持ち、日本の子どもホスピスのパイオニアのひとり。新生児肢体血幹細胞治療の研究など、脳性麻痺の予防研究にも積極的に従事している。
鍋谷 まこと 先生の所属医療機関
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