2015年7月1日より指定難病に認定された「コケイン症候群」は、日本における患者数が約50名という希少疾患です。完全に治す方法がない遺伝性の病気で、発育障害や若年にもかかわらず老人のような見た目になってしまう顔貌の特徴などが現れます。いまだ認知度の低い「コケイン症候群」とはどのような病気なのか、大阪医科大学感覚器機能形態医学講座皮膚科学教授の森脇真一先生にお話をうかがいました。
「コケイン症候群」とは、極めて症例の少ない早老症(若年のうちから老化の特徴が現れる疾患の総称)の一種です。2015年7月1日より難病認定がなされました。イギリスのコケイン博士によって初めて発表がされたことからその名が付き、病名(英語でCockayne syndrome)を略してCS(シーエス)ともいわれています。
私たちの体を構成する遺伝子情報を担うDNAは、絶えず何らかの形で傷が生じます(DNAの損傷)。しかし私たちヒトを含め、生物にはDNAを修復し元の状態に再生するためのDNA修復酵素が存在し、その力によって傷害されたDNAが修復されます。
しかし、コケイン症候群の患者さんはそのDNA修復に関わる酵素の遺伝子が正常に働かず、損傷を受けたDNAが修復されません。それにより正常の4~5倍のスピードで老化が進み、著名な発育障害が起き、中枢神経や末梢神経が障害されます。
コケイン症候群は100万人に2.7人が発症するといわれており、日本においては現在、約50名の患者さんがおられます。
コケイン症候群には、Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型という3つの分類があり、加えて非常に稀な色素性乾皮症合併型(XP/CS)があります。色素性乾皮症合併型は、通常は遺伝的な観点から色素性乾皮症(XP)に分類されますが、表現型(現れる特徴)がコケイン症候群のためこちらの一つと考えられることもあります。しかし、あくまでXP/CSは色素性乾皮症の一つであるため、I~Ⅲ型と違って癌の発症するリスク極めて高いという特徴があります。
コケイン症候群の9割がⅠ型であるため、Ⅰ型が典型であるといえます。以下に、XP/CS以外の3つのパターンそれぞれについてご説明します(XP/CSは記事3『色素性乾皮症とは? 傷の修復機能が正常に働かない遺伝性の病気』で説明します)。
●Ⅰ型(古典型)
Ⅰ型の特徴は、生まれたときには分からず、健診の際に背が低かったり体重が増えなかったりすることで気づくケースが多い点にあります。2~3歳ほどで顔貌が老人のように変わり、20歳前後で亡くなるケースが多いです。
●Ⅱ型(先天性、生まれたときから明らかな発育障害が現れる)
Ⅱ型は胎内にいるときから小さい状態で、出生の瞬間になっても頭が小さく、身長や体重も低いタイプです。Ⅱ型は5才前後で亡くなるケースが多く、予後(治療後の経過)は不良です。
●Ⅲ型(遅発型、成人発症)
Ⅲ型は進行が遅く、20~50歳と発症する年齢の幅は広いものの、Ⅰ型と同じような症状が現れます。
コケイン症候群の原因は、前述のとおり、DNA修復に関する遺伝子が異常をきたしていることです。常色染色体劣性という形式で遺伝し、遺伝子の傷を修復する仕組みがうまく働かないことが原因で、様々な障害が起こります。
傷害としてはとくに紫外線に対する高感受性(敏感に反応する)があります。紫外線による皮膚へのダメージが起こっても、皮膚の中のDNA損傷が修復されず、皮膚細胞の回復が見られません。
コケイン症候群が常染色体劣性遺伝の疾患であるということは、コケイン症候群の患者さんのご両親がお二方とも変異した遺伝子を持っているということになります。ただし変異遺伝子は劣性(特徴が出にくいタイプの遺伝子)のため、コケイン症候群患者さんのご兄弟が同じ病気を発症する確率は25%、変異遺伝子を持っているけれど無症状のままでいる確率(保因者)も50%です。そして、変異遺伝子を持たない確率も25%あります。
コケイン症候群のⅠ~Ⅲ型については、日本と他国で発症率に差がなく、100万人中に2.7人の割合です。人種による差はまだ明らかになっていませんが、日本は島国であり他国への移動が少ないこともあって、中国や韓国に比べると遺伝性の病気が多いともいわれています。
早老症の一つであるプロジェリアとコケイン症候群は、ともに早老様顔貌(若いころから老化しているように見える顔つき)を特徴としていますが、ふたつは異なります。
プロジェリアが内因性の老化の病気であるのに対し、コケイン症候群は転写(遺伝子の設計図をコピーすること)の異常であり、皮下脂肪が委縮した状態になることから老人のように見えているだけなのです。つまり、どちらも早老症という括りではありますが、本当に生物的な老化が起きているのがプロジェリアであり、コケイン症候群は眼窩や頬部の皮下脂肪が減ることで、顔貌が老人のように見えてしまうということになります。
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