「色素性乾皮症」は、日が当たることによってできた傷を修復する仕組みに障害がある遺伝性の病気です。シミや皮膚の乾燥が増え皮膚がんが生じることもあります。コケイン症候群と同じように、完全に治療する方法がない難病である色素性乾皮症について、大阪医科大学感覚器機能形態医学講座皮膚科学教授の森脇真一先生にうかがいました。
色素性乾皮症(XP)とは、日光が当たることによってできた遺伝子の傷を修復する仕組みに障害があるため、日光に当たった部分に様々な皮膚症状および皮膚がんが現れる病気です。色素性乾皮症にはA-G群およびV型の8種類があり、A、B、D、G群は神経症状を伴う場合が多いとされています。
また、皮膚症状にコケイン症候群の症状(詳細は記事2『コケイン症候群の症状と遺伝子診断について』)を合併するコケイン症候群合併型(XP/CS)があり、色素性乾皮症の一つであるものの、コケイン症候群の臨床的特徴も併せ持っています。コケイン症候群合併症型は、極めて稀なタイプです。
色素性乾皮症の患者さんは、日本において20000人に1人の割合といわれており、現在では約500人の患者さんがいると考えられています。男女差はありませんが、地域差は存在し、欧米と比較すると日本では発症頻度が高いことが分かっています。日本の色素性乾皮症はA群とV型が多く、約55%がA群、約25%がV型といわれています。
両親の双方がともに色素性乾皮症の原因となる遺伝子を持っている場合(保因者)、その子どもは4分の1の確率で色素性乾皮症を発症します。
色素性乾皮症はがんを発症しやすいのも特徴です。発生しやすいがんの種類としては、日光角化症、扁平上皮癌、基底細胞癌は1000倍、2000倍といわれ、なかでも悪性黒色腫(メラノーマと言われるほくろのようながん)は最もできやすいとされています。
●なぜ、日本にはA群とV型が多いのか?
遺伝上の問題なので、やはり先祖の遺伝子に関係があります。200世代ほど遡った縄文時代の頃先祖の誰かに遺伝子変異が起きたことがスタートだといわれています。
日本は島国で他国・他県への移動が少なく、近隣のパートナーと結婚することが多いため、劣性遺伝(本来特徴が出づらいタイプの遺伝が現れる)が多い国です。さらに、もともと日本人はA群の保因者(A群の色素性乾皮症の遺伝子を持っている人)が100人に1人という高い割合であるゆえ、A群の頻度が高くなってきます。
上記のとおり、色素性乾皮症は遺伝性の疾患で、常染色体劣性遺伝という形式で遺伝します。A~G群およびV型すべての原因遺伝子はすでに解明されており、A群の遺伝子は22対の染色体のうち9番目に、B群・C群・D群・E群・F群・G群・V群はそれぞれ2・3・19・11・16・13・6番染色体にあります。A群を含め、これらの原因はヌクレオチド除去修復(生体に備わるDNA修復機構のことでmDNA中に生じた損傷を見つけて除去し、傷を治す)の過程に必要なたんぱくが欠損していることが関係しています。
一方V型は、ヌクレオチド除去修復は正常なものの、DNAポリメラーゼによる損傷乗り越え複製(傷を修復・合成する働きを持ち、本来の修復機構が働かなかったときのバックアップのような役割を果たす)という機構に必要な蛋白が欠損していることが原因です。これらが異常をきたしていることで色素性乾皮症がおこります。
そのため、メインである修復機構に原因のあるA群は症状が重く、それに比べるとV型は症状が軽いといわれています。
前述した病型によって症状は異なりますが、共通する部分としては、日光に当たった部分(日光露光部)に発生する皮膚がんです。ここでは日本人に多いA群とV型について詳しく解説します。
初期のうちは、日光に当たった部分にシミなどができて、皮膚が乾燥してきます。特にA群の患者さんは光線過敏症状が重く、生まれてすぐから激しい日焼け症状が現れます。ほんの少しの外出でも顔が真っ赤に腫れてきて、白目部分まで充血してしまうほどです。
神経症状も生じます。最初は難聴や足の変形などが生じますが、幼い段階では通常レベルの意思疎通であれば普通の人と同等に行うことができます。しかし徐々に言葉が不明瞭となり、体のバランスが取れなくなり、10歳を過ぎたころから神経、知能、身体とあらゆる面で症状が悪化していきます。
V型については、日焼け反応がA群ほどはっきりしていませんが、10代のころからシミが多く現れます。また、比較的早期(20代ごろ)から皮膚がんが生じ始めることもあります。V型は他のタイプと同様皮膚がんを発生しやすいのが特徴です。
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