トゥレット症候群のチック症状が重度の場合には、自傷他害の懸念があるため治療そのものが困難を極めます。独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院脳神経外科診療部医長の開道貴信先生は、脳深部刺激療法(DBS)の適応基準である18歳にまだ達していない重症の若い患者さんに出会い、治療に苦慮されていました。そして当時、相次いで起こった自然災害とその救助のあり方にヒントを得てひとつの決断をされました。治療に踏み切るまでの葛藤と開道先生の医療者としての信念についてお話をうかがいました
我々が最近担当した、非常に難しかった患者さんの例をお話しします。その方は9歳頃から発症し、13歳で国立精神・神経医療研究センター病院を受診されました。当時我々は年齢も含め、脳深部刺激療法(DBS)の適応基準を明確にしており、適応年齢を18歳以上としていました。DBSが重度難治性のチックに効果があることはすでに明らかになっていましたが、無制限に治療をしてもよいと考えていたわけではなく、これまでの国内外の症例・文献を元に中庸な適応基準を設けていました。
チックは10歳前後で発症し、思春期を過ぎる頃には自然に治ってしまうことも多いため、あまり年齢が低いと治療の効果なのかそれとも自然寛解のケースなのか区別ができません。当時はまだ研究的側面もあったため、本当に手術でよくなったのかどうかを知るためにも、適応年齢を18歳以上としていたのです。
しかしこの患者さんは症状が悪くなる一方であったため、音声チックによる叫び声で社宅からの転居を余儀なくされ、運動チックによる自傷・家族への他害もありました。ご本人の流血も日常茶飯事で、被害を最小限に留めるため4人家族が2人ずつに別れて生活せざるを得ませんでした。
ときには治療者に飛びかかるような動きもみられましたが、それは不随意運動によるものであり、本人の意志とは関係なく起こるものです。我々はチックの症例を数多く診てきているのでそのことがわかりますが、これを不随意運動であると言える医師のほうがむしろ少ないと思われます。
この患者さんの症状をみれば、一般的には精神症状による暴力だと考えるでしょう。しかし、我々の医療の目的は暴力行為を抑えることではありませんし、その手段としてDBSを用いることは考えていません。誤解のないよう、そのことは明らかにしておかなければなりません。
チックは、イェール全般的チック重症度尺度(YGTSS: Yale Global Tic Severity Scale)と呼ばれる臨床評価尺度によって定量的に評価することもできます。チックの種類と回数(頻度)などによって、運動チックと音声チック各々25点の計50点満点で評価します。このスコアが35点以上であると日常生活も困難となり、DBSの適応であると考えられます。
この患者さんはYGTSSの基準も満たしており、15歳という年齢だけがネックとなっていました。チックであれば必ず改善できるのですから、専門家としてDBSを行なえばいいと言われるかもしれません。しかし、我々も患者さんに飛びかかられてけがをする危険があります。また、どうやって手術まで持っていくかという具体的な方法論もまだありません。自分だけならまだしも、この患者さんを受け入れたことでスタッフや同じ病棟の他の患者さんに危害が及ぶようなことになったらどうするかといった問題もあります。
この方のケースでは普通は診療を断るものですし、さまざまなリスクを考えれば断らざるを得ないと考えます。実際、国内有数の医療機関で治療できず断られて続けてきた患者さんなのです。国立精神・神経医療研究センター病院は国の機関ではありますが、どのような患者さんでもすべて受けられるのかというと、やはり限度があります。我々もこの件に関してはかなりの熟考を要しました。
その頃、世の中では御嶽山の噴火や広島の豪雨による土石流などの自然災害がたて続けに起こっていました。災害現場には救助隊が人道的救助活動として人命救助に赴くわけですが、再噴火や天候の悪化などにより、その最中にも救助隊に危険が及ぶ可能性があります。その際にはやはり救助活動を中断することもやむを得ません。
私が当時、その様子を見ていて考えたのは、今回の患者さんのケースも治療というより救助活動に近いのではないかということでした。自分たちの危険を顧みずにただやみくもに実行するのではなく、安全にも配慮しながら綿密に計画を立てたうえで行うべきであると考えました。
人としてできる限りのことはしたいという思いはありましたが、できないことまで安請け合いすべきではありませんし、できる範囲のことを精一杯やればいいのではないかと考えたのです。
奈良医療センター 機能的脳神経外科
関連の医療相談が10件あります
チック症は治りますか?
突然、しゃっくりのような変な声が出たり身体が痙攣したりするようになってしまいました。 病名はまだわかっていませんが、病院ではもしかしたら「チック」かもと言われました。 もう3ヶ月近くずっと治っていなくて、薬もあまり効いていません。 声が出てしまうので職場でひどく目立ってしまい、周りから心配されます。 今後症状が治らない場合は仕事を続けるにしても周りに迷惑がかかるし、リモートワークも可能になってはいますが永久にそれだけでは今の仕事を続けるわけにいかないのでは…独身なので人と関わらないのは辛いし… と不安です。。 薬が効かない場合は治療法はないのでしょうか…?
睡眠時無呼吸症の治療法について
睡眠時無呼吸症でCPAPをつけ治療中です。毎日装着し、良好な状態を保っています。しかし手術などの有効な方法があれば、検討したいと思っています。CPAP(対処療法)以外の良い結果が見られる治療法等は無いのでしょうか。薬などは服用していません。
溶血性尿毒症症候群について今後どうなっていくのでしょうか。
2歳の息子がO-157の溶血性尿毒症症候群になりました。 教えてください。 先週金曜日に腸重積が見つかり、処置をし入院。 その後土日に腎臓の数値が悪く 透析を開始しました。 腹水が溜まり呼吸が1分間に90回となり本日人工呼吸器を取り付けました。 血液検査の結果を見ると少し良くなっている、横ばいのような状態ですが 腸の炎症が酷いようです。 輸血も行い、透析も行い、人工呼吸器までつけて親としては気が気でなりません。 敗血症の可能性もあるようです。 経過はこれからどうなって行くのか教えて下さい。 気がおかしくなってしまいそうです。 お忙しい中申し訳ありません。 よろしくお願い致します。
睡眠時無呼吸症候群
CPAP以外の治療方法は無いものなのですか
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「トゥレット症候群」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。