インタビュー

重度難治性チックに有効な脳深部刺激療法(DBS)とは

重度難治性チックに有効な脳深部刺激療法(DBS)とは
開道 貴信 先生

奈良医療センター 機能的脳神経外科

開道 貴信 先生

この記事の最終更新は2016年03月13日です。

脳深部刺激療法(DBS: Deep Brain Stimulation)は、脳の深いところにある大脳基底核と呼ばれる部分に手術で電極を埋め込み、微弱な電流で刺激する治療法です。すでにパーキンソン病てんかんなど他の疾患領域の治療法として行われています。近年、トゥレット症候群の主症状であるチックの重症例にこのDBSが有効であることがわかってきました。てんかんの専門医でもあり、トゥレット症候群の重度難治性チックに対する脳深部刺激療法(DBS)における第一人者である、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院脳神経外科診療部医長の開道貴信先生にお話をうかがいました。

 

トゥレット症候群のチックを治療する方法としても、1999年に最初の症例報告がThe Lancetという有名な臨床医学雑誌に掲載されたことがブレイクスルーとなりました。

トゥレット症候群のチックにはそれまで有効な治療がなかったため、この論文が発表されてから、ヨーロッパやアメリカで急速にDBSが広がっていきました。我々は患者さんと出会った時期が遅かったということもあり、2008年に第1例の手術を行ないました。

国立精神・神経医療研究センター病院では現在まで18例を行っていますが、報告されている手術件数をすべて集めてもまだ120例前後ですから、この症例数はかなり多い方です。日本で行っているところは他に数施設しかありませんが、すべてひと桁の症例数となっています。

これは他の疾患に対する治療で刺激している部位とは少し異なります。

たとえばパーキンソン病では視床下核(ししょうかかく)、淡蒼球(たんそうきゅう)、あるいは視床の中でもVim核(視床腹中間核)という、別の部位を刺激しています。また、ジストニアの場合も視床の中のVoa(視床腹外側核前部)、淡蒼球、Vim核などが対象部位です。

また、欧米では精神疾患へのアプローチが試みられており、強迫神経障害(強迫神経症)に対してDBSが有効であるとも言われています。この強迫神経障害はトゥレット症候群と近縁疾患であるともいわれていますが、同じものではありません。刺激する部位も異なっていて、内包前脚(ないほうぜんきゃく)や側坐核(そくざかく)と呼ばれるところ、あるいは淡蒼球でも前のほうが対象部位となります。そういった意味でもトゥレット症候群のチックは不随意運動であり、強迫神経障害とは一線を画すものであるといえます。

<機能的定位脳手術の認定施設>

脳深部刺激療法(DBS)は「機能的定位脳手術」のひとつであり、この手術を行うことができる認定施設は全国でもまだ30数カ所しかありません。国立精神・神経医療研究センター病院もその認定施設となっています。(参考リンク:日本定位・神経機能外科学会 )

<電気けいれん療法(ECT)との違い>

脳深部刺激療法(DBS)は、強い電流を一時的に流す電気けいれん療法(ECT)とは異なり、微弱な電流を持続的に流すものです。心臓ペースメーカーのような刺激発生装置を前胸の皮下に埋め込み、脳の中の電極に送る電気刺激を調節します。

<手術機器の精度管理>

定位脳手術では、精密に電極リードを計画通りのところに置くことが何よりも大切です。使用する装置は、校正器を使って滅菌前に必ずチェックをしています。

<高い精度で手術を行うメリット>

ピンポイントで精度の高い手術が可能なため、頭髪を全部剃る必要はなく、部分剃毛で済みます。穴を開ける角度も頭蓋骨に対して垂直ではなく、電極を刺入する軌道に対して並行にする独自の技術を開発しています。

また、これまで多くの定位脳手術では、電極を正しい位置に置くことができたかどうかを確認しながら行うため、局所麻酔による覚醒下での手術が常識でしたが、この方法では患者さんに多大なストレスがかかります。我々の手術では精度が高いため、患者さんの負担が少ない全身麻酔での手術が可能です。

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