インタビュー

子どもの咳で原因が見つからないとき―心因性の咳・チックとは

子どもの咳で原因が見つからないとき―心因性の咳・チックとは
崎山 弘 先生

崎山小児科  院長

崎山 弘 先生

この記事の最終更新は2016年04月09日です。

様々な刺激によって起こる子どもの咳。多くの場合は何らかの刺激に対する反応として現れるものですが、子どもの咳におけるもう一つの特徴に「心因性の咳」があります。心因性の咳とは、のどや気管を刺激する物質が何も見つからないにも関わらず、子どもが咳や咳払いを繰り返す症状で、その一部はチックと呼ばれています。多くは自然治癒しますが、治療のためには家族や周囲の理解と「善意の無視」が大切になります。崎山小児科院長の崎山弘先生にお話しいただきました。

チックは小児科に比較的多くみられる症状です。咳払いや不随意の運動、発声症状が起こり、多くは特定の場所・特定の部位にのみ出現します。チック症状は突発的かつ無意識であり、同じ動作を繰り返し行うという特徴があります。心身の発達に伴って起こると考えられてはいますが、多くは一過性の症状で、成長とともに消失します。

小学校高学年くらいの年齢になって急にひどい咳や咳払いが出始めた場合、チックを含めた心因性の咳の可能性があります。チックを見分ける基準は、眠ったときに咳が止まるということです。

具体的な症状は、咳払い、まばたき、首を振る、顔をしかめる、口をすぼめる、肩を上げ下げする、足踏み、鼻を鳴らす、叫ぶ、甲高い声を上げるなど様々ですが、咳・咳払いはチックの中でも比較的よく見られるものとされています。少し大げさにコン、コンコンと単発か2連発程度の咳をするのがチックの特徴ですが、診察時に舌を出させたり、別のことに意識を向けたりしているときは、咳が止まります。

チックには症状が出やすいタイミングと出にくいタイミングがあります。その状況がはっきりわかることが治療につながるため、患者さんのエピソードを聞くことが非常に大切になります。

私の経験上印象的であった例として、サッカー部に所属する中学生男子のケースがあります。この子どもは部活から帰ってくると咳が出るため、「部活が厳しすぎるのではないか」と親御さんが心配されて崎山小児科を受診しました。詳細に話を聞いてみると部活中には咳が出ていないとのことでした。思春期の子どもならではの話ではありますが、この子どもの場合は家庭内になんらかのトラブルがあり、家にいることがストレスになって咳症状につながっていました。一方、部活で仲間とサッカーをすることはむしろ楽しんでおり、部活は咳の原因ではありませんでした。

チックや心因性の咳の場合、確かに何かしらのきっかけがあって発症するのですが、基本的には周りが注意したり、止めることを強いることはせずに、好きなだけやらせておくことをお勧めします。これを「善意の無視」と呼んでいます。

咳をする回数にこだわるなどの強迫症状にまで悪化してしまった場合は治療する必要がありますが、ほとんどのチックは自然に治るため大きな心配はいりません。

チックや心因性の咳では、その原因探しをすることはあまり推奨されません。保護者やご家族など周囲にいる方がその辛さを理解して、共感することが大切です。咳き込みの苦しさを和らげるために「のどのエヘン虫をやっつけるために、咳が出そうになったら飴をなめてみよう」などと勧めることもよいでしょう。このように解決の糸口を見つけるために、私たち小児科が支えていきます。

心因性の咳であれ、風邪に伴う咳であれ、「辛そうでかわいそうだから症状を止めてほしい」という希望に全て応えるのは難しいことです。もちろん心配なとき、困っているときは小児科を受診していただきたいと思いますが、咳のような症状の場合は、咳症状を止めることのみに執着するのは最善ではありません。親御さんにもこのことをぜひ知っておいてほしいと思います。

 

★「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。

 

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