咳の原因は多岐にわたり、何の刺激が要因になって咳が出ているかを診断することで病気の種類を推測することもできます。しかし、感染症の種類だけでも非常に多くの原因が考えられるため、咳の原因となる疾患を確定させることは容易ではありません。そのため、咳が出ているのは何の刺激によるのか・なぜその刺激が加わっているのかを考えることがより重要となります。崎山小児科院長の崎山弘先生にお話しいただきました。
咳の原因についてご説明する前に、まずは咳が出るメカニズムをご説明しましょう。
空気の通り道は、鼻孔から始まって咽頭(のど)を通り、体の中央を通る幹のような喉頭(こうとう)・気管を経て、その先にあり木の枝のように分かれている気管支から肺に至ります。咳は、主にのどの奥から気管の辺りに至るいずれかの部分に刺激が与えられることで出てきます。この刺激の種類が病気の種類ということもできます。具体的には感染、異物、炎症、タバコの煙など化学物質、何かが接触する物理的刺激、アレルギーなどが挙げられます。
咳の原因を考える際は、何がきっかけとなって刺激されているのかを考えます。
たとえば、鼻炎の子どもは咳も発症します。鼻とのどはつながっており、のどに流れ込んだ鼻水が異物としてのどを刺激するため、咳が出るのです。この場合の咳の原因は鼻水と考えられます。このようにして、そこにある刺激が何かを考えていきます。
つまり咳の原因を考えるときは、病名をつける前に「咳を誘発した刺激の種類」および「なぜそのような刺激が生じたのか」の2点を考えることが重要になります。
疾患単位で感染症の種類を考えてみればきりがありません。医師でもすべての感染症を詳細に鑑別して診断することは困難です。たとえば咳の原因となる病原体がインフルエンザウイルスなのか、RSウイルスなのか、肺炎球菌なのかを判断することは容易ではありません。
そしてもうひとつ、考えられる刺激の種類が何も無いにもかかわらず発症する咳が、心因性の咳です。この場合は、チック(詳細は記事5『子どもの咳で原因が見つからないとき―心因性の咳・チックとは』)による咳払いなどが考えられます。本人はのどに違和感があるため咳や咳払いをするのですが、眠ると症状が出なくなる点が特徴です。感染症であるインフルエンザなどであれば眠っていても咳を出すことが多いため、その点で心因性か否かを区別します。
咳が出ることは健康を維持するための正しい反応です。気道の中にある異物や炎症が刺激となって咳が出るのであり、むやみに咳を止めると悪化してしまいます。ですから、咳が出ているというだけの理由で咳止めを飲ませることはあまり推奨されません。また、気管支拡張薬のテープには咳を止める効果はありませんから、「咳止め」として使うことは間違っています。
咳が夜中も続いていたとしても、子どもはまず寝不足になりません。乳幼児であれば、夜中に眠れなければ朝はいつもより遅く目を覚まします。夜中に咳き込んで目を開けたとしても、おそらくそれは夢の中、本人も覚えていない程度の出来事で、眠りの妨げにはなっていないことがほとんどです。眠りが妨げられていなければ日常生活に支障はありませんし、医学的に対応するほどの咳ではないと判断します。見ていてかわいそう・つらそうと思うご家族の気持ちはもちろん考慮すべきですが、私は2歳未満の乳幼児であればむやみに咳止めは出していません。
2歳以上のお子さんには希望される方にのみ薬を処方しています。
チペピジンヒベンズ酸塩、カルボシステインなどを含んだものが崎山小児科では一般的な処方薬です。
ただし薬は対症療法であり、市販薬でも「これを飲むと治る」とは言われていないように、医療用の薬も症状を緩和しているにすぎません。
前述したように、早めに病院に来ればそれだけ早く治るということはなく、大抵1週間程度はかかってしまいます。症状が現れる期間をいかに楽に過ごしてもらうかが風邪薬の使いどころになります。
なお、咳を起こす感染症の多くは、特に薬を必要としないウイルスによるものですが、細菌による感染症が原因であれば抗菌薬を処方することもあります。その場合は、周囲の感染症の流行状況も考えます。
個人的な経験としては、熱が5日間続いたときは細菌による感染症も考慮して抗菌薬を処方することがあります。
★「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。
【先生方の記事が本になりました】
崎山小児科 院長
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