子どもの咳が止まらないとき、まず何を見ればいいと考えますか? 多くの方が、咳の回数や音の様子、湿っている・乾いているなどの咳の種類を重視するのではないでしょうか。もちろんそれらも大事ですが、第一に注意すべきなのは「呼吸の苦しさ」です。子どもが咳をしているとき最初に見るべきポイントについて、崎山小児科院長の崎山弘先生にお話しいただきました。
咳が呼吸器系の症状であることは間違いありません。そのため、重症であるかどうかの判断は「呼吸の辛さ」によって行います。
診察室に入ってきた子どもの顔を見て医師が第一に観察するのは、「口呼吸をしているか」という点です。口を開けた状態で呼吸をしていれば、苦しいというサインになります。
「苦しい呼吸」という表現がどの程度のものなのか、親御さんが具体的に想像するのは難しいため、子どもを連れてきたご家族には「もしあなたがこの場で100mダッシュを3回したらどういった呼吸をするか想像してみてください」と言っています。この場合、咳をしていなくても呼吸が苦しいと感じるはずです。これがここで言う「苦しい呼吸」という意味になります。
その他、息を吸ったり吐いたりするとき、ゼーゼーハーハーと音を立てているか、肩で息をしていないか、食事ができているか、呼吸ができず不眠がちではないか、といったことを具体的に尋ねていきます。
私が診療をしているなかでよくご家族にご相談される内容には、「咳が全然止まらない」「咳をしすぎて吐いている」「咳がひどくて子どもが眠れていない」などがあります。しかし、このような外から見て感じる「咳のひどさ」と実際の重症度は、実際にはあまり関係がないと考えられます。
教科書的には湿った咳・乾いた咳などで咳の種類分け・疾患分けをすることがありますが、これに当てはまらないケースも少なからず存在します。フローチャートのようにAかBかでふるい分けを繰り返していくと、いずれこの流れに当てはまらなくなる場合が増えてきます。ですから私は、重症度を考える際には咳の種類をあまり重視していません。
咳の症状は、長引いても10分程度で止まります。むせているのと同じで、ひどい咳そのものが重症疾患に結びつくことはありません。だからこそ、咳をしていないときの呼吸を見ることが大事なのです。
ただ、自分の子どもが咳き込んでいると、ご家族としては「かわいそう」「何とかしてあげたい」という気持ちが先行することは確かですし、それは当然のことだと思います。心配な場合は、遠慮なさらず小児科を受診してください。
ただし心配し過ぎる必要もありません。繰り返しとなりますが、咳き込みが続いても、しばらくして呼吸が落ち着くようならば重症疾患の可能性は低い場合がほとんどです。
喉などの空気の通り道(気道)に何かの異物が存在する状態を気道異物といいます。気道異物があるとその多くは咳が症状として現れるため、咳き込む直前のエピソードは必ずお聞きします。何かを食べている直後から咳き込み始めていないか、直前に玩具(おもちゃ)を口に入れていないかを尋ね、該当するようであれば気道異物を疑います。
ただし、万が一異物が気管に入っていたとしても、呼吸困難を起こしていなければ慌てて救急外来に行かなくてもいいことがあります。急いで救急外来に行くのは、前述した通り「呼吸が苦しいとき」です。呼吸困難を伴っていなければ、結果として咳の原因が気道異物だと後からわかったとしても、治療が手遅れになることは通常ありません。
2週間以上継続的に咳が続いているようであれば、結核や百日咳などの長引く咳を起こす感染症を念頭に置いて、精密な検査が必要になることもあります。しかし一日のうちに咳がたくさん出たとしても、それ以外に呼吸困難を伴うなどの大きな問題がなければ緊急性はありません。
なお呼吸困難の程度を客観的に評価しようとするのであれば、血中酸素飽和度(血液の中に酸素がどの程度含まれているかを示す値)を測ることですぐに判断できます。しかしそのような評価は、計測器を持っていない家では困難であるため、どこでもできるものではありません。呼吸困難がひどいと思われる場合は医療施設を受診し、医師と一緒に呼吸困難の原因を追究していくようにします。
また記事5『子どもの咳で原因が見つからないとき―心因性の咳・チックとは』で詳しく説明しますが、少し成長された子どもに多いケースが心因性の咳です。これを見分けるために、「眠っているときに咳が止まるか」もお伝えいただくと診断がつきやすくなります。
基本的には、診察室で医師が把握できない状況や、どのようなときに咳がひどいかについて知らせてくださるととても助かります。
●赤ちゃんのケース
赤ちゃんの場合も基本的に見る点は同様で、咳をしていないときの呼吸の苦しさを第一にチェックします。ミルクの飲みが悪くなったとおっしゃる方もいますが、もし飲んでくれないとしても体重が増えていれば大きな病気の可能性は低いと考えます。
とはいえ、ご心配があれば受診していただき、ご両親が子どもの様子を見ていて気になると思うことは何でもご相談してください。それに対して、医師がすぐに診断をすることは難しいかもしれませんが、きちんと説明してお答えしていきます。
親御さんは、子どもの状態がある一定の健康レベルから外れていることを気にするのですが、医師から見れば十分正常範囲に当てはまっていることは多く見られます。
例えば便秘について、一日一回うんちが出なければ異常だと思っていらっしゃる方は、二日間うんちが出ないと心配になって病院を受診されます。これは医師から見れば正常の範囲であり、大きな治療の必要はないのですが、それでもご家族が心配ならば受診していただいて構いません。そのような場合にも、ご家族の不安を取り除くため医師は丁寧に説明します。
★「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。
【先生方の記事が本になりました】
崎山小児科 院長
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