概要
百日咳とは、百日咳菌を原因菌とし、けいれん性の咳発作などを症状とする感染症のことです。
小児に多くみられる病気で、1歳未満の乳児(特にワクチン未接種の生後3か月以下)では重症化し、死亡することもあります。大人がかかった場合は咳が長引くものの重症化することは少ないですが、周りの子どもに感染させてしまう原因となります。
こうした百日咳による小児の重症化・死亡を防ぐために、世界各国で小児への百日咳ワクチンの接種が進められてきました。日本では定期接種に指定されており、2022年現在ではジフテリア、破傷風、ポリオに対するワクチンを含めた四種混合ワクチン(DPT-IPV)が導入されています。
ただし、ワクチンの効果は4~12年で減弱するといわれており、近年では小学校高学年以上を中心に患者が増加傾向にあるといわれています。
原因
百日咳は主に百日咳菌を原因菌とした感染症です。百日咳菌と呼ばれる細菌が原因になります。
飛沫感染と接触感染が主な感染経路で、細菌を含む飛沫を吸い込んだり、細菌が付着した手で鼻や口などを触ったりすることで感染します。
全年齢でかかることがあり、特にワクチン未接種の生後3か月以下では死亡や重症化のリスクが高いといわれています。
軽症であっても菌が排出されていることがあり、特に成人では気付かないうちに保菌者となり、ワクチンを接種していない小児に感染させていることがあります。
百日咳ワクチンは重症化や死亡の予防に有効で、リスク減少の効果は80~85%です。また、最後に百日咳ワクチンを打ってから4~12年程度で効果の減弱がみられるため、百日咳ワクチンを接種していてもかかることがあります。
症状
カタル期、痙咳期、回復期と呼ばれる3つの経過がみられることが特徴です。これらの症状は、ワクチン未接種の乳幼児でみられることの多い症状です。
カタル期
原因菌に感染してから7~10日程度の潜伏期間を経て、通常のかぜのような症状がみられます。
次第に咳の回数や程度が強くなります。持続期間は約2週間とされています。
痙咳期
約2~3週間にわたって、痙咳と呼ばれる、特徴的なけいれん性の咳の発作がみられるようになります。
短い咳が続いた後に、息を吸うときにヒューという笛のような音が出る咳症状が発作的に繰り返されます。また、嘔吐を伴うこともあります。発作は夜間や何らかの刺激が引き金となったときに起こることが多く、発作がないときは無症状であることが多いです。
月齢の低い乳児の場合は特徴的な咳発作がみられないことも多く、息を止めているような無呼吸発作がみられ、チアノーゼ(血中の酸素が不足して皮膚が青色に変化すること)、けいれん、呼吸停止に至ることがあります。
回復期
激しい咳の発作が次第に治まり、2~3週間程度でみられなくなります。しかし、時折発作性の咳が現れることもあり、完全に回復するのは発症から2~3か月程度です。
成人の場合は、咳発作がみられることなく回復期に移行することもあります。
ワクチン接種をしている場合は、長引く咳などが症状のことが多いです。
検査・診断
症状から百日咳が疑われ、百日咳菌の存在を示す百日咳検査で陽性となれば百日咳と診断されます。また、百日咳検査を行わない場合でも、百日咳の症状があり、さらに百日咳検査が陽性であった人との接触がある場合は百日咳と診断されることがあります。
百日咳検査は、原因菌そのものの有無を証明する検査、原因菌の毒素に対しての抗体を血液で調べる検査があります。菌を直接検出するには、鼻の奥や気管から気道分泌物をとって行う細菌培養法があります。菌が多いと顕微鏡で菌がみえることもあります。百日咳菌は特殊な培養法が必要で培養検査ができない医療機関も多く、さらに培養自体も生えにくい菌なので、近年は、細菌の遺伝子検査(PCRやLAMPなど)、迅速抗原検査が行われます。抗体をみる血清診断法は、原則、急性期と回復期の2回の血液検査を行います。検査の方法によって診断のしやすさや検査に適したタイミングなどが異なるため、状況に応じて用いられる検査方法が決められます。
治療
百日咳の治療は、マクロライド系と呼ばれる種類の抗菌薬による薬物治療が中心となります。
特に、発症早期のカタル期に治療を始めるとよい効果が期待できますが、長引く咳になっている段階では、すでに菌はいないことが多く、気管支などのダメージがすでに完成しているのであまり症状の改善は得られません。抗菌薬の使用期間は、使用するマクロライド系の薬によって異なります。また、咳の症状に対しては鎮咳薬などによる対症療法が行われることもあります。呼吸が悪くなった場合には、人工呼吸器で呼吸をサポートしたり、換気ができなくなると人工心肺を使用したりすることもあります。
予防
百日咳は、百日咳ワクチンを接種することで80~85%の予防効果があります。
日本では四種混合ワクチン(DPT-IPV)として定期接種の対象となっており、生後3~90か月の間に4回接種するように決められています。百日咳は小児で重症化や死亡リスクが高い病気であることから、対象の時期になったらなるべく早く接種を受けることが大切です。現代の最新医療の治療を行っても、ワクチンを接種していない乳児は重症化や死亡へと進行していくことがあり、治療よりもワクチンで予防することが何よりも重要です。
ただし、ワクチンの免疫効果は接種後4~12年で減弱し、ワクチンを打っていても感染することがあります。日本小児科学会は、定期接種だけでなく、さらに2回追加して、就学前(5~6歳)、思春期(11~12歳)で三種混合ワクチン(DPT)を任意接種することをすすめています。知らず知らずのうちに重症化しやすい小児に感染させてしまうこともあるため、長引く咳症状がある場合などは、医療機関を受診するようにしましょう。
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