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インタビュー

心臓の病気を診断するために欠かせない心臓超音波検査の歴史と発展

心臓の病気を診断するために欠かせない心臓超音波検査の歴史と発展
別府 慎太郎 先生

大阪みなと中央病院 名誉院長

別府 慎太郎 先生

心臓超音波検査技術が進歩した現在、心臓超音波検査においては3D映像で心臓全体の動きや構造を観察できるほどに進化していますが、当初は記録された画像が心臓のどの構造かが正確にはわからなかったほど未開拓な領域であったといいます。心臓超音波検査は、数多くの日本人の貢献によってここまで発展してきました。大阪みなと中央病院名誉院長の別府慎太郎先生は、心臓超音波検査がほとんど未開拓であったころから現在に至るまで、心臓超音波検査の発展にご尽力されてきた医師の一人です。今回は別府慎太郎先生に、心臓超音波検査の歴史と発展、今後の展望についてお話しいただきます。

私が超音波検査の面白さを知ったのは、大阪大学の医局で心臓超音波検査の権威とも呼べる仁村泰治先生に出会ったことがきっかけです。

仁村先生は心臓超音波検査における「ドプラ法」を世界に先駆けて生体に利用した医師であり、超音波の研究を多少なりともしている者であればその名前を知らない者はいません。入局後はこの仁村先生に師事し、超音波検査をはじめ、循環器内科医としての様々な経験を積んでいきます。(詳細は記事1「心臓病を検査する技師や医師が知っておくべき「心臓超音波検査の面白さ」とは」)

※ドプラ法について

ドプラ法とは、ドップラー効果(下図参照)という現象を応用して血流の方向や速度を測る心臓超音波検査の一種です。

ドップラー効果の具体例

現在の心臓超音波検査では非常に精密に心臓の動きや大きさを見ることができますが、最初から現在のように検査法が確立されていたわけではなく、多くの医師や研究者の努力と研究によって形作られていったのです。

これより、心臓超音波検査がどのように発展していったのかをご紹介していきます。

心臓超音波検査の発展―Mモード法から断層法、カラードプラ、超音波造影検査まで

かつての心臓超音波検査では主にMモード法が用いられていました。

体表から超音波が照射されると、そのビーム方向にある心臓構造物に超音波が反射して戻ってきますが、心臓は動いているので、反射波の位置も動きます。その動きを時間軸に展開した表示方法がMモード法です。

対象となる構造物の動きが大きい場合、Mモード法上では振幅が大きくなり、動く速度が速い場合には傾きが急峻になります。心臓の動きのよしあしは重要な情報なので、Mモード法は心臓の動きを観察する有用な手法として、現在でも広く利用されています。

ただし、私がこの検査を学び始めた当時はエコーによって映し出される部分が何に当たるのかはっきりわかっていなかったため、一つの波形を見ても人によって意見が分かれ、左室後壁のエコーだと思っていたものが実際には心臓の後ろにある心膜のエコーだったこともありました。「何が写っているかわからないけれど、心臓の解剖や生理と照らし合わせると大体こうではないか」という医師の「推察」に頼ることが多かったのです。

現在では画像の表示能力も上がり、解剖との対応も正確にできるようになったため、このような間違いは生じません。しかし、当時はそのような技術も知識もなかったため、エコー画像がどの部分を表しているかを同定することから始まったのです。

Mモード法の後に用いられはじめた超音波断層法は、対象に反響させた超音波を心臓断面として二次元的に映像化する検査法です。

この検査では、より詳細に心臓の形態を検査することができます。

かつての超音波断層法では、動いている心臓の断面を瞬時にスキャンする方法がなく、断層像を作るには「ある工夫」が必要でした。それは探触子の位置や向きを認識するためのポテンショメーターと、任意のある時相だけに超音波を発射させる心拍同期装置です。

心臓は動いているとはいえ、同一時相には常に同じ位置にあります。ですから当時はその時相のものだけビーム方向を少しずつ手動で変え、ずらした絵を重ねて、心臓の断層の一枚絵を作成していました。検者が設定した時相の断層像を数十心拍もかけて作成していたのです。

さらにその断面での心臓の二次元的な動きは、手作業で心臓の収縮初期・中期・末期の絵を作成し、パラパラ漫画状に合体させて読み取っていたのです。とてつもなく面倒で時間のかかる手法でしたが、心臓の断面情報がわかるだけでも大変意義のあることでした。

現在では「リアルタイム超音波心臓断層法」が導入され探触子が自動で30分の1秒の絵を作成し、心臓の全体像をリアルタイムで映し出すことができるようになりました。

超音波画像
実際の超音波断層法の画像(提供:別府慎太郎先生)
断層法
リアルタイム超音波心臓断層法のイメージ

リアルタイム超音波心臓断層法によって心臓の動きや機能が明確に診断できるようになり、心疾患の診断技術は飛躍的に向上しましたが、これでもまだ足りない重要な情報があります。それが「血流」情報です。いくら心臓の形や動きの様子が確認できても、心臓のなかでどのように血が流れているかまでは判断できません。

心臓内の血流を診断する方法として発達した検査が「カラードプラ法」です。先に述べたドプラ法が血流速度や血行動態を観察する方法であるのに対して、カラードプラ法は心臓の血流分布をマッピング表示します。この検査により、心腔内での血液の流れの様子、弁からの逆流の状況、中隔欠損孔を通る短絡血流の様相が手に取るようにわかります。

なお、カラードプラ法は日本人が開発した(河西、滑川ら)超音波技術であり、今では世界的に用いられている検査法となっています。

心臓をはじめあらゆる臓器は、血液により運ばれる酸素や栄養によりはじめて機能します。裏を返せば、血流が低下している部分は機能不全を起こしている可能性があります。

心臓の動きが悪くなっているとき、原因が何であるかは見た目の動きからは判断できません。原因を究明するには、心臓への灌流(かんりゅう:血流がきちんといきわたっているか)を確認するしかないのです。

心臓の太い血管は冠動脈造影法で観察できますが、心臓の毛細血管まで詳細に検査できません。心臓の毛細血管に血が流れていかどうかを確認するために、体内に放射線物質を注射して、これが心筋に取り込まれた状態を撮像する技術(心筋灌流イメージング:perfusion imaging)があります。

ただしこの検査は時間がかかるうえ、放射能を注射するというリスクの問題点もあります。

下記にご説明する心臓超音波造影法は、心筋血流イメージングに代わる新しい血流検査の方法です。

心臓超音波造影法では、超音波造影剤を静注することにより、心臓が動いたままの状態で毛細血管への血流の程度を観察できます。すなわち、心筋灌流の評価が可能です。心筋血流イメージングのように放射線物質を使用しないので、人体への悪影響もありません。

たとえば冠動脈再建術は、血管の狭窄ないし閉塞冠動脈に対して大変重要な治療法です。しかしながら、狭窄した血管の先の筋肉が死んでいるならば、あえて血管を広げる必要はありません。本来は「血管の先の心筋が生きているか」を観察することが重要です。超音波造影法は、この点を判断するための検査だと考えています。

狭窄している血管

今日では3次元で網羅的に心臓の動きを検査できる検査装置が開発され、さらに超音波検査の技術は改良されてきています。3D心臓超音波検査を用いることで、たとえば「心臓弁膜症」という疾患の診断だけにとどまらず、弁のどの部分が悪くなっており、どのように動きが障害され、外科的手術が必要であるならどのように修復するかというプラニングまでできるようになります。

ここまで心臓超音波検査の発展についてご紹介してきました。しかし、単に検査機器が発達するだけでは良い結果は生まれません。良い結果を得るためには超音波検査を使いこなす技師の技術が必要です。

日本心エコー図学会や日本超音波医学会では、専門技師の養成に力を入れており、臨床検査技師という国家資格に加え、更に上の資格取得のために毎年試験があります。専門技師は大変勉強熱心で、医師以上の循環器病の知識を持っている方が大勢います。

一方で、超音波機器を全く触ったこともない方に最新の超音波検査機器を渡して「患者さんの心臓を診てください」と依頼しても、超音波検査機器の操作方法がわからないと検査できません。現在の優れた心臓超音波検査は、検査を行う者の技術のうえに成り立っているといえるでしょう。

今後必要とされるのは、優れた検査技術なしでも心臓の状態を調べられる仕組みを開発することです。

ここでご説明する超音波ベストとは、脳波検査のように多くの電極を頭皮表面に貼り付けるようなイメージです。

具体的には、無数の超音波探触子をつけたベストを患者さんの胸にかけると、超音波の探触子が自動的に超音波検査を行い、多数の画像情報から一つの検査画像を作成してくれるというものです。自動的に心臓の形態・動態のデータを取得し表示してくれるので、技術が必要ありません。この超音波ベストを病院のみならず、老健施設に設置してもよいでしょう。さらにはAEDのように街中に設置すれば、心臓の異常で倒れてしまった人をみた発見者が患者さんの体の上にこのベストを置くことですぐに検査できます。

このように、一般の方でも検査を行えるよう、超音波ベストのスイッチを入れるだけで心臓のデータがとれるような簡単な仕組みがあれば理想的です。

勿論、一般の方が検査結果を「読む」ことは困難ですが、取得した検査のデータを循環器専門医に送れば、医師がしっかりと診断をしてくれます。

このように考えると今後は「画像の取得」と「転送」の二つの技術が必要です。画像の転送には、スマートフォンの利用が期待できます。超音波ベストの膨大なデータでなくても、現在利用されているリアルタイム断層像の超音波探触子をスマートフォンにつないで、そのまま検査・記録・転送ができるようになれば非常に利用価値が上がると考えます。

スマートフォン

現代においてスマートフォンはほとんどの方が持っている器械ですから、スマートフォン経由で検査結果を医師のもとに送れば迅速な対応が可能となります。つまり、病院に置かれているような大きな機械がなくても急患の方を助けることができるのです。

もしも実際にこのような仕組みが完成すれば、超音波検査はさらなる進化を遂げたといえるでしょう。

 

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